修繕積立金を生命保険で損金にする方法|法人向けに税理士が解説

大規模修繕の積立金の一部を損金(経費)にする方法(生命保険活用編)!

「将来の大規模修繕に備えて積立をしたいけれど、毎年の積立金は経費(損金)にできないの?」——不動産賃貸業を営む法人の経理では、よくあるお悩みです。

実は修繕積立金を生命保険で準備すると、支払った保険料の一部を損金にできます。ただし2019年の税制改正でルールが大きく変わりました

この記事では、改正後の現行ルール・損金にできる金額・仕訳・注意点を、不動産業を専門とする税理士が初心者にもわかりやすく解説します。

目次

修繕積立金を生命保険で損金にできる仕組み【結論】

修繕積立金は、生命保険を使えば支払保険料の一部を損金(=法人税の計算上、収益から差し引ける費用)にできます。

現金や預金でためても損金にはなりませんが、生命保険という器を通すと、毎年の保険料の一部が法人税の経費(損金)として認められるためです。

まず、この記事で使う基本の言葉を整理しておきましょう。

修繕積立金(しゅうぜんつみたてきん)

将来の大規模修繕(外壁塗装・屋上防水・給排水管の更新など)に備えて、毎年計画的にためておく資金のこと。

損金(そんきん)

法人税の計算上、益金(収益)から差し引ける費用。損金が増えるほど課税所得が減り、法人税が下がる。

解約返戻金(かいやくへんれいきん)

生命保険を途中で解約したときに戻ってくるお金。これを大規模修繕の支払いに充てる。

最高解約返戻率(さいこうかいやくへんれいりつ)

保険期間中で、解約返戻金が払込保険料の合計に対して最も高くなる割合。この割合によって、保険料を損金にできる区分が決まる。

では、同じようにお金をためても、なぜ預金だと損金にならないのでしょうか。まず預金のしくみから確認します。

預金で積み立てても経費(損金)にならない理由

預金で修繕積立金をためても、1円も損金(経費)にはなりません。お金の置き場所が現金から預金に変わるだけで、その年に費用が発生していないからです。

修繕費が損金になるのは、実際に大規模修繕の工事をしてお金を支払ったときです。それまでは、いくら預金をためても法人税は変わりません。

預金と生命保険で積み立てた場合の違いを整理すると、次のとおりです。

比較項目預金で積立生命保険で積立
毎年の損金×(損金にならない)○(保険料の一部が損金)
修繕までの保障なしあり(死亡保険金)
資金の分別管理しにくいしやすい
解約・引出し時の元本全額戻る元本割れ(85%弱)

そこで、積み立てながら毎年少しずつ損金にできるのが生命保険です。ただし、その損金ルールは2019年に大きく変わりました。まず改正点から押さえましょう。

【2019年改正】全額損金・1/2損金の節税保険は廃止された

かつて主流だった「全額損金」「2分の1(半額)損金」の節税保険は、2019年(令和元年)の改正で使えなくなりました

2019年7月8日以後の契約からは、法人税基本通達9-3-5の2により、定期保険(一定期間内の死亡のみを保障する保険)や第三分野保険(医療・がん保険など)は、「最高解約返戻率」によって損金にできる割合が決まる方式へ変わりました。

2019年7月7日以前(旧)2019年7月8日以後(現行)
損金の決まり方保険種類ごとに一律最高解約返戻率の区分で決まる
代表例全額損金・1/2損金の節税保険返戻率が高いほど損金は小さい

返戻率が高い(貯蓄性が高い)保険ほど資産計上が増え、その年に損金にできる割合は小さくなります。

では具体的に、保険料のいくらを損金にできるのか。次は返戻率ごとの区分を見ていきます。

現在の損金算入ルール|最高解約返戻率による区分

現在は「最高解約返戻率」が高いほど、損金にできる割合が小さくなります

その最高解約返戻率の区分ごとに、保険料の取り扱いは次のとおりです。

最高解約返戻率資産計上額(残りが損金)当初に損金となる割合
50%以下資産計上なし全額が損金
50%超〜70%以下保険料の40%を資産計上60%が損金
70%超〜85%以下保険料の60%を資産計上40%が損金
85%超最高解約返戻率×90%(当初10年)等を資産計上ごく一部しか損金にならない

なお50%超70%以下でも、年換算保険料が1人あたり30万円以下なら全額損金にできる特例があります。

資産計上した分は、保険期間の75%を過ぎた後に取り崩して損金にしていきます(出典:国税庁タックスアンサーNo.5364-2)。

この区分を踏まえると、修繕積立金の準備にどの返戻率の保険が向くかが見えてきます。

損金を最大化する保険の選び方|解約返戻率85%以下を狙う

修繕積立金の準備では、解約返戻率が85%をわずかに下回る保険を選ぶのが実務上の定石です。

返戻率が高いほど解約時に戻るお金は増えますが、85%を超えると損金がほとんど取れません

一方、70%超85%以下なら保険料の40%を損金にしつつ、解約返戻金も高水準を保てます。この「85%ぎりぎり下回る」設計が、節税と貯蓄効率のバランス点になります。

ただし返戻率は商品・契約年齢・保険期間で変わるため、必ず設計書(解約返戻金の推移表)で最高解約返戻率を確認してください。

選び方が分かったので、次は実際の数字で損金額と仕訳を確かめましょう。

計算例と仕訳|保険料の40%を損金にするケース

具体例として、次の条件の定期保険(生命保険)に加入したケースを見てみましょう。

  • 年間保険料:100万円
  • 最高解約返戻率:80%(70%超85%以下の区分)
  • 加入期間:15年間
借方金額貸方金額
保険積立金(資産)60万円現金預金100万円
支払保険料(損金)40万円

この区分では、毎年の保険料100万円が損金40万円(40%)と保険積立金60万円(60%)に分かれます。

15年間加入すると、払込総額1,500万円・損金の累計600万円(40万円×15年)・保険積立金900万円になります。

大規模修繕の時期に保険を解約し、解約返戻金1,200万円を受け取ったとします。解約時の仕訳は次のとおりです。

借方金額貸方金額
現金預金1,200万円保険積立金900万円
雑収入300万円

受け取った1,200万円のうち、保険積立金900万円は資産の戻りで、差額300万円が解約益(雑収入=益金)になります。

その解約返戻金を使って、同じ年に大規模修繕1,200万円を実施します。修繕の仕訳は次のとおりです。

借方金額貸方金額
修繕費(損金)1,200万円現金預金1,200万円

これで、解約による収入(雑収入300万円)と、大規模修繕による支出(修繕費1,200万円)が同じ年に立ちます。修繕費が雑収入を大きく上回るため、解約益はまるごと相殺され、課税は生じません

ここで大切なのは、これは税金が消える「節税」ではなく、払う時期を将来へ先延ばしする「課税の繰延」だという点です。いま軽くなった税金は、消えるのではなく将来に先送りされるだけです。

加入している15年間は、毎年40万円ずつ損金にでき、その分だけ毎年の法人税が軽くなります(=税金の先送り)。

ただし解約した年には、戻ってきたお金のうち300万円が「雑収入(もうけ)」として課税の対象になります。

このとき同じ年に大規模修繕を行えば、修繕費が雑収入を打ち消すため税金は増えません。

逆に修繕を後回しにすると、先送りした税金をまとめて払うことになります。だからこそ、計画どおりの時期に必ず修繕することが、この方法の成否を分けます

生命保険で積み立てる3つのメリットと注意点

修繕積立金を生命保険で準備する方法には、課税の繰延・保障・分別管理という3つのメリットがあります

まずはメリットから見ていきましょう。

  • 保険料の一部を損金にできる(課税の繰延):預金積立と違い、毎年一定割合を損金にでき、その分の法人税を将来へ繰り延べられる。
  • 修繕資金に「保障」が付く:積立期間中に経営者に万一のことがあっても、死亡保険金で修繕資金と当面の運転資金を確保できる。
  • 修繕積立金を預金と分別管理できる:保険として切り分けるため運転資金に流用しにくく、計画的に積み立てられる。

一方で、消費税は減らない・元本割れ・解約時期のズレという注意点もあります。

  • 消費税は安くならない:生命保険料は消費税が非課税(=消費税がかからない取引)のため、法人税は減っても消費税の納税額は減らない。解約返戻金の受取りは不課税(=消費税の対象外)で、受取時に消費税が増えることもない。
  • 払込総額より戻りが少ない(元本割れ):返戻率85%弱の保険なら、解約時に戻るのは払込総額の85%弱。残りは戻らないコストになる。
  • 解約時期がズレると返戻金が大きく減る:ピーク期を過ぎると解約返戻金は年々下がる。計画した時期に必ず修繕・解約することが前提。

メリットと注意点を押さえたら、実際の進め方を手順で確認しましょう。

修繕積立金を保険で準備する手順

手順は「修繕計画 → 保険設計 → 加入 → 解約・充当」の4ステップです。

STEP
大規模修繕の時期と費用を見積もる

工事内容(外壁・屋上防水・設備更新など)をできるだけ詳細に決め、必要額を少し多めに見積もる。

STEP
返戻率85%以下の保険を設計する

解約返戻金のピークが修繕時期と重なり、必要額と同程度の解約返戻金になる保険を選ぶ。

STEP
契約し、毎年の保険料を支払う

区分に応じて資産計上と損金算入を会計処理する。設計書で最高解約返戻率を必ず確認する。

STEP
修繕実施時に解約し、修繕費に充てる

解約返戻金を受け取って大規模修繕費に充当する。解約益(雑収入)は修繕費(損金)と相殺する。

最後に、ここまでのポイントをまとめます。

まとめ|改正後も「使い方次第」で有効な手法

修繕積立金を生命保険で準備する方法は、2019年改正後も、解約返戻率と解約時期を正しく設計すれば有効です。

ポイントを整理します。

  • 預金での積立は損金にならないが、生命保険なら保険料の一部を損金にできる。
  • 2019年改正で全額損金・半額損金は廃止。今は最高解約返戻率で損金割合が決まる。
  • 70%超85%以下なら40%が損金。85%ぎりぎり下回る設計が定石。
  • 本質は課税の繰延。計画した時期に必ず解約・修繕し、修繕費と相殺することが成功のカギ。

よくある質問

最後に、修繕積立金と生命保険についてよくいただく質問にお答えします。

なぜ預金ではなく、生命保険で修繕積立金を準備するのですか?

なりません。預金は資産が入れ替わるだけで費用が発生せず、実際に修繕の工事をして支払うまで損金になりません。生命保険を使うと、毎年の保険料の一部を損金にできます。

2019年の改正で全額損金の保険は完全になくなったのですか?

2019年7月8日以後の契約では、最高解約返戻率が50%を超える定期保険等は全額損金にできません。返戻率50%以下、または70%以下かつ年換算保険料30万円以下の保険などに限って全額損金が可能です。

個人事業主でも生命保険で修繕積立金を経費にできますか?

出来ません。この方法は法人向けです。個人事業主が支払う生命保険料は事業の必要経費にはならず(生命保険料控除の対象)、法人と同じ効果は得られません。

生命保険で修繕積立金を準備すると、法人税は永久に安くなりますか?

いいえ。この方法の効果は主に「課税の繰延」、つまり税金を払う時期を将来へ先送りすることです。トータルの税額そのものが恒久的に減るわけではないため、税額が消える「節税」とは異なります。ただし、納税を後ろ倒しにして手元資金を厚く保てる点は、広い意味での節税メリットといえます。

※本記事のおもな根拠法令・出典は次のとおりです(生命保険の損金ルールは契約日によって異なります)。

保険設計や個別の税務判断は、不動産業を専門とする税理士にご確認ください。

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