大規模修繕の積立金の一部を損金(経費)にする方法(生命保険活用編)!
この記事の概要
  • 会社で不動産賃貸業を営む場合、大規模修繕の年度ごとの積立金は生命保険を活用することにより損金(経費)に算入することができます
  • 生命保険は会社で節税対策を行う上で非常に有用なツールになりますが、当然メリット、デメリットがありますので、「事前に」確認することが大切です。

不動産賃貸業を専門に税務相談を受けていると「将来の大規模修繕に備えて積立をしたいのだけど、積立金を毎年損金(経費)にすることはできないの?」とよく聞かれます。

通常、将来の大規模修繕に備えるための積立金を現金又は預金で積み立てた場合は、損金(経費)に算入することはできません

しかし、会社の場合は、生命保険料の支払いを間に噛ませることにより、大規模修繕の積立金の一部を毎年損金(経費)に算入することが可能になります

生命保険にはあまり良いイメージを持っていない方も多いのですが、節税目的で加入する分にはかなり良い仕事をしてくれるツールになります。

そこで、今回は生命保険を活用して大規模修繕の積立金の一部を毎年損金(経費)に算入する方法を考えていきましょう。

大規模修繕積立金を損金(経費)にするメリット

大規模修繕積立金を損金(経費)にするメリットには、以下の4つがあります。

  • 業績予想・将来計画が立てやすくなる
  • 大規模修繕費用を計画的にプールできる
  • 早めに経費化できるので、年度の納税額が減る
  • ついでに生命保険に入れる

以下1つずつ見ていきましょう。

業績予測・将来計画が立てやすくなる

まずは、下の図表1を見てください。

【図表1】

年度
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
益金(収益)
300万円
300万円
300万円
300万円
300万円
損金(経費)
100万円
100万円
100万円
100万円
700万円
利益
200万円
200万円
200万円
200万円
△400万円

不動産賃貸業の益金(収益)は、空室率・家賃相場の影響を多少受けますが、基本的に毎年ほぼ同額が計上される傾向にあります。

また、損金(経費)に関しても、借入金利子・減価償却費・租税公課等毎年同額が計上される傾向にあります。

よって、利益の予想が立てやすく、通常赤字が計上されることはあまりないのですが、上図の第5期が大きく赤字になっています。

そして、この原因は第5期に行った大規模修繕費用(600万円)の影響です。

ただ、大規模修繕費用も事前に見積もれるので、本来なら積立金の形で毎年一定額を会社にプールして、年度で組み入れた積立金金額の一部を毎年平準化して損金(経費)に計上できた方が分かり易くなります

下の図表2を見てください。

【図表2】(第5期の益金には保険解約収入+600万円、損金には長期修繕費+600万円を含む)

年度
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
益金(収益)
300万円
300万円
300万円
300万円
900万円
損金(経費)
220万円
220万円
220万円
220万円
820万円
利益
80万円
80万円
80万円
80万円
80万円

生命保険を利用して、大規模修繕費用を毎年の損金(経費)に算入できれば、不動産賃貸業の毎年の本当の利益は80万円だということがわかります。

不動産賃貸業の借入金が800万円だったとして、もしあなたが、「図表1と図表2のどちらか一方を利用して回収期間を判断してください。」と言われたら、どちらが分かり易いでしょうか?

当然、大規模修繕費用を毎期平準化した図表2の方が毎年80万円の利益が出ているので、800万円÷80万円=10年だと計算し易いですよね。

大規模修繕費用を毎期平準化していない図表1の方で回収期間を計算することはかなり難しいです。

特に今が第1期~第4期の場合は800万円÷200万円=4年と本来とは異なる非常に短い回収期間が計算されてしまうため注意が必要になります。

大規模修繕費用を計画的にプールできる

一年間の利益から税金を支払った金額が不動産賃貸業から生じた可処分所得になるのですが、もし、大規模修繕費用を「預金」でプールする場合、可処分所得の中から大規模修繕に必要な金額を毎年プールしていくことになります

大規模修繕専用の預金口座を作り、可処分所得の一定額を毎年大規模修繕専用の預金口座に振り替えることになりますが、この作業は非常に難しいものになります。

大規模修繕費用は「将来の」修繕のための費用であり、「見積りの範疇の話」で明確な金額は決まっていません

例えば、会社で使える経費が足りない、急に欲しい賃貸用物件が出た場合には、大規模修繕費用を取り崩してでも、お金が必要だと感じる場合もあるでしょう。

勿論、本当にお金が必要で大規模修繕費用を取り崩さなければならない場合もありますが、大抵の場合は他の費用捻出手段を取れば、資金調達できてしまうことが多いです。

ここで問題になるのは、大規模修繕費用が「将来」必要になるお金のプールなので、意思決定がブレれば、すぐに取り崩されてしまうという事実です。

公認会計士・税理士として多くの他人の決算書を見てきた私の意見としては、最初の時点での大規模修繕費用の見積もりが一番正確なことが多く、その他の支出のために、後に修正した大規模修繕費用の見積もりは精度が悪くなる印象です。

その証拠として、いざ大規模修繕を行う段階で、修繕費用が足りなくなる事例を結構見てきています

大規模修繕費用を「預金」で積み立てる場合は自分の管理下にあり、「すぐに引き出せる」ことがネックになります

しかし、大規模修繕費用を「生命保険料」で積み立てれば、保険会社の管理下でお金を預かってもらえて、「すぐに引き出す」には一定の手続きが必要になります。

この一定の手続きが大規模修繕費用を取り崩す歯止めとなり、結果的に大規模修繕のための費用を計画的にプールできることに繋がります

早めに経費化できるので、年度の納税額が減る

図表1(大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合)と図表2(大規模修繕費用を生命保険で積み立てている場合)の利益・納税額をまとめたのが以下の図表3と図表4になりますので、納税額を見比べてください。

なお、法人税率等の税率は30%として計算しています。

【図表3】(大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合の利益と納税額)

年度
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
利益
200万円
200万円
200万円
200万円
△400万円
納税額
60万円
60万円
60万円
60万円
0万円

【図表4】(大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合の利益と納税額)

年度
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
利益
80万円
80万円
80万円
80万円
80万円
納税額
24万円
24万円
24万円
24万円
24万円

第1期~第4期に注目してください。

大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合(図表3)の納税額が60万円なのに対して、大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合の納税額は24万円です。

大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合、実に毎年60万円-24万円=36万円も納税額が減ることが分かります。

ついでに生命保険に入れる

大規模修繕費用を「生命保険料」で積み立てるプランなので、節税対策のついでに生命保険に入れることになります

「ついで」というと非常に言葉が悪いですが、「ちゃんと」生命保険に入れるので、大きなメリットになります。

生命保険の契約主体

大規模修繕のための生命保険契約の場合、会社を契約者(保険料負担者)、役員を被保険者、保険金受取人を会社とする生命保険契約を結ぶことになります。

生命保険料の法人税法上の取り扱い

ひと昔前までは、支払った生命保険料全額を損金(経費)に算入できる生命保険があったのですが、現在では、支払った生命保険料の40%までを損金(経費)に算入できる生命保険が主流です。

節税対策としてはひと昔前までの方が良かったのですが、それでも、大規模修繕費用を「生命保険料」で積み立てるメリットは十分にあると考えられます。

大規模修繕費を損金(経費)にするスキーム

  1. 大規模修繕を行う時期を決め、必要になる費用の金額を見積もる

    工事内容をなるべく詳細に決め、その工事に必要になる金額を見積ります。
    見積り金額は気持ち多めに設定しておけば、計画が多少変更になっても安心です。

  2. 大規模修繕の費用と同額の解約返戻金を貰える生命保険に加入する

    注意事項として解約返戻金=保険掛金総額ではありません
    解約返戻金÷保険掛金総額の利率を返戻率と言いますが、毎年の支払保険料の40%を損金に算入する場合85%以下になります。

  3. 生命保険料を支払う

    毎年の支払保険料の40%が損金になります

  4. 大規模修繕実行時に生命保険を解約し解約返戻金を受け取る

    大規模修繕費用が損金(経費)に計上され、生命保険解約による解約返戻金の60%が益金(収益)計上されるため損金と益金が相殺されます。
    もし利益を0円にしたい場合は、大規模修繕費用の1.67倍を解約返戻金として受け取れる生命保険契約を締結することになります

大規模修繕積立金を損金(経費)にするデメリット

大規模修繕積立金を損金(経費)にするには、当然デメリットもあります。

必ず以下の3つのデメリットも確認してから、大規模修繕積立金を損金(経費)にするかを考えてください。

  • 消費税には関係しない
  • 保険金掛金総額≠解約返戻金である
  • 大規模修繕を予定時期にやらないと解約返戻金が大幅に減少する

消費税には関係しない

生命保険料の支払額は消費税法上非課税になります。

よって、大規模修繕積立金の生命保険料の支払時には、法人税の納税額を減らす効果はありますが、大規模修繕費用積立金を「生命保険料」で確保するかどうかに関わらず、消費税の納税額は変わらないことになります

そして、解約返戻金の受取りは消費税法上不課税になります。

つまり、解約返戻金の受取時に消費税が多くなることもありませんので安心してください。

消費税の節税対策にはならないだけで、納税額が増えるわけでもなく、大きなデメリットではないのですが、知らないと節税スキームを組んだのに消費税の納税額が高いままだと誤解してしまうので覚えておきましょう。

保険金掛金総額≠解約返戻金である

解約返戻金÷保険金総額で計算される返戻率は85%以下です。

払込んだ保険料総額の15%が戻ってこないことになりますが、これは生命保険加入の対価と考えられます

金額にすると、1年間に6万円程度の手数料になります。

通常、保険契約の内容的には、悪くない保険契約のことが多いのですが、すでに同じような保険に入っている人にとっては、余剰な保険となり、保険の整理が必要になる可能性があります

大規模修繕を予定時期にやらないと解約返戻金が大幅に減少する

保険契約の組み方次第ですが、通常、大規模修繕費用のために入る保険は定期保険であり、ある一定期間を過ぎると解約返戻金が1年ごとに劇的に減っていくことになります。

大規模修繕が1年、2年程度遅くなってもそこまで解約返戻金が減額することはないですが、5年、10年遅くなると解約返戻金はだいぶ減ってしまう可能性がありますので、最初の計画時点できちんと大規模修繕の予定時期を組みましょう。