- 純損失の繰越控除について知りたい人
- 純損失の繰戻還付について知りたい人
- 赤字決算を迎えてしまった個人事業主
- 純損失の繰越控除や繰戻還付でどれくらい納税額が変わるか知りたい人
青色申告とは?
純損失の繰越控除や繰戻還付を紹介する前に、前提条件として個人事業主が青色申告を採用していることが必要になりますので、まずは、青色申告について説明します。
日本の所得税は、納税者が自ら所得税法に従って、所得金額と税額を計算し、納税するという申告納税制度を採用しています。
1年間に生じた所得金額を計算し、確定申告するためには、収入金額と必要経費に関する日々の取引の状況を記帳し、また、取引によって生じた書類を保存しておく必要があります。
青色申告とは、①青色申告承認申請書を税務署に提出し、②正確な記帳をし、③その記帳に基づいて確定申告をする人に対して所得税法上有利な取扱いをする制度のことです。
純損失の繰越控除について
所得税の不動産所得又は事業所得で赤字が出ている場合、他の所得の黒字と相殺することができます(損益通算といいます)。
しかし、例えば、当年度の不動産所得が△100万円、給与所得が80万円だったとしたら、△100万円-80万円=△20万円の赤字を最終的に相殺することができません。
この赤字を純損失というのですが、個人事業主で青色申告をしている場合は、翌年以降3年間は純損失を繰り越して、各年度の所得金額から控除することができます。
白色申告では純損失の繰越控除は認められていないので、青色申告をする大きなメリットになります。
純損失の繰越控除の影響額を具体例で確認しよう
純損失の繰越控除を利用すると翌年度以降どの位納税額を減らせるか事例で確認していきましょう。
- 以下の状況のとき、第1期から第4期までの青色申告の場合と白色申告の場合のそれぞれの所得税の納税額を計算してください。
- 第1期の事業所得が△900万円、不動産所得が200万円、給与所得が300万円です。
- 第2期の事業所得が△200万円、不動産所得が100万円、給与所得が300万円です。
- 第3期の事業所得が△100万円、不動産所得が200万円です。
- 第4期の事業所得が400万円、不動産所得が200万円です。
- 【解答】
青色申告 第1期0円 第2期0円 第3期0円 第4期57.25万円
白色申告 第1期0円 第2期5万円 第3期10.25万円 第4期77.25万円【解説】
①所得金額を算出しよう第○期 所得金額 第1期 不動産所得-事業所得=200万円-900万円=△700万円
給与所得-上記金額=300万円-700万円=△400万円第2期 不動産所得-事業所得=100万円-200万円=△100万円
給与所得-上記金額=300万円-100万円=200万円第3期 不動産所得-事業所得=200万円-100万円=100万円 第4期 不動産所得+事業所得=200万円+400万円=600万円 ②欠損金の相殺後の課税所得を算出しよう。
第○期 青色申告 白色申告 第1期 △400万円
純損失が400万円発生△400万円 第2期 所得金額200万円-純損失200万円=0円
純損失残高400万円-200万円=200万円200万円 第3期 所得金額100万円-純損失100万円=0円
純損失残高200万円-100万円=100万円100万円 第4期 所得金額600万円-純損失100万円=500万円
純損失残高100万円-100万円=0円600万円 ③所得税率(税率・控除額は所得税早見表参照)をかけて、納税額を算出する
第○期 青色申告 白色申告 第1期 0円 0円 第2期 0円 200万円×10%―9万7500円
=10万2500円第3期 0円 100万円×5%=5万円 第4期 500万円×20%―42万7500円
=57万2500円600万円×20%―42万7500円
=77万2500円第1期から第4期の合計で青色申告をして、純損失の繰越控除を利用した方が35.25万円(青色申告納税額合計57.25万円ー白色申告納税額合計92.5万円=△35.25万円)も納税額を減らせました。
純損失の繰戻還付について
青色申告の個人事業主の所得で純損失が発生した場合には、純損失の繰戻還付という方法を選択することもできます(純損失の繰越控除との選択は自由)。
純損失の繰戻還付とは、当期発生した純損失の金額を前年度に繰り戻して、前年度に納付した所得税の還付を受ける制度です。
純損失の繰戻還付を受ける要件は以下の2つです。
- 前年度に、青色申告の確定申告書を提出していること
- 純損失が生じた事業年度に、青色申告の確定申告書と純損失の繰戻しによる還付請求書を申告期限内に提出していること
なお、純損失の繰戻還付によって還付される金額は、以下の計算式によることになります。
前年度の税額ー(前年度の所得金額ー前年度に繰り戻された純損失の金額)×前年度の税率
還付される金額については、前年度の税額が限度になります。
純損失の繰越控除と繰戻還付のどちらを利用するか?
青色申告をしている個人事業主が①純損失の繰越控除を利用するか、②純損失の繰戻還付を利用するかの選択は自由なので、赤字が計上されてしまった時は、より納税額が低くなる方法を採用すればよいことになります。
ただし、純損失の繰越控除を利用する場合は、将来の所得金額の予想が重要になってきますので、慎重に判断することが必要になるでしょう。