役員からの借入金について
役員から金銭の借入れをすると貸借対照表の負債の部に役員借入金や短期借入金という勘定科目が計上されることになります。
また、同族会社の場合、交際費等の支払いを役員のお財布からした場合、役員の立て替え額が役員借入金や短期借入金の勘定科目に計上されることがあります。
イメージしやすいように仕訳で考えてみましょう。
役員借入金のメリット
同族会社の場合、例えば、不動産を取得するために役員からお金を借りた時も、役員が会社に資本金を出資した時も、役員がお金を拠出したという事実に相違はありません。
また、仮に会社が倒産した場合、同族会社の役員からの借入金は、資本金と同じように、返済が劣後します。
よって、役員からの借入金は、形が違えど、資本金と同じ性質があるとみなされます。
そのため、役員借入金が多いことは、資本金が多いことと同等と見ることができ、銀行から融資を受ける際に有利になる可能性があります。
役員借入金のデメリット
役員借入金の最大のデメリットは、役員死亡時に役員借入金が相続財産になってしまうことです。
交際費などの諸経費を役員借入金として処理している会社では、都度清算が行われておらず、死亡した役員が長年積み重ねてきた諸経費の支払総額が役員借入金として残っている場合もあります。
この場合、諸経費の支払の都度、お金は外部に流出しているので、会社が相続人に対して借入金を返済するための資金を持っていないことも多いです。
つまり、相続人は相続税を支払う義務があるのですが、会社からお金を返してもらえないので、相続税を支払うお金がないという状況になることも十分にあり得ます。
多額の役員借入金の清算方法
役員借入金はメリットもあるのですが、相続財産になるというデメリットも大きいので、多額になる前に都度清算をしていくのが一番です。
しかし、長年の積み重ねで、すでに多額の役員借入金が計上されてしまっている会社もあります。
この場合、多額の役員借入金の清算には、以下の5つの方法が考えられます。
- 債権放棄
- 債権贈与
- 債権の資本化(デットエクイティスワップ)
- 代物弁済
- 会社の閉鎖
ただし、どれも適用条件が複雑で税務上相当のリスクを負うことになります。
債権放棄
役員が債権を放棄すれば、短期借入金は消滅します。
ただし、会社側では、役員の債権放棄により、借金金の返済義務がなくなるという利益を得るので、債務免除益を計上しなければなりません。
よって、繰越欠損金や当期の損失が債務免除益などを超えている場合以外は、ほぼ間違いなく法人税等の税金の支払いが必要になります。
また、会社に債権放棄をした役員以外が株主でいる場合、債権放棄の影響で会社の株価が上昇するので、他の株主に贈与税が生じてしまう可能性があります。
債権贈与
同族会社の場合、役員借入金を次の世代の役員に贈与することも可能です。
例えば、代表取締役である親が、後継者である子に役員借入金を少しずつ贈与していくことが考えられます。
ただし、贈与税の基礎控除額は、毎年、1人当たり110万円までであり、多額の役員借入金がある場合、次の世代の役員への贈与が完了するまでに、相当な期間が必要になる可能性があります。
債権の資本化(デットエクイティスワップ)
債権の資本化(デットエクイティスワップ)とは、会社の役員借入金を資本金に組み替えてしまう方法です。
つまり、デット=負債、エクイティ=資本、スワップ=交換という意味です。
お金を貸し付けている役員に株式を発行するだけで損益が発生しないように見えますが、債務超過の会社の場合、債務免除益が会社に計上される可能性があります。
また、資本金が多くなることで住民税の均等割りが高くなったり、租税特別措置法や事業承継税制の適用制限が発生する場合があります。
代物弁済
代物弁済は、会社の所有している不動産などを役員借入金の返済原資に充てる方法です。
この場合、譲渡する不動産の時価の把握が非常に重要になります。
時価に比べて譲渡対価の額(役員借入金の消滅額)が著しく低いと、会社にも代物弁済を受けた役員にも多大な影響を及ぼします。
会社の閉鎖
会社の閉鎖の適用要件はかなり厳しいです。
役員借入金の清算を行うために会社の閉鎖を行うというよりは、役員借入金を返済できないと法律上も認められるぐらい会社の経営が行き詰った場合にのみ会社の閉鎖ができると理解しておいた方が正しいでしょう。


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