公認会計士・税理士事務所を10年経営して、また、自分が実際に不動産業務に関わってきた知識や経験を活かして、「不動産業を営む小規模会社の経理・税務マニュアル」をまとめてみたいと思いました。
今回は、その第9回目で、不動産業を営む会社の売上高の経理処理についてまとめます。
不動産業を営む会社の売上高の種類
不動産業を営む会社の売上高は以下の3つに分類されます。
- 不動産を所有し、賃貸することによる不動産賃貸業としての売上高
- 他人の不動産を管理することによる不動産管理業としての売上高
- 他人の不動産の売買や賃借を媒介することによる仲介業としての売上高
不動産賃貸業としての売上高の経理処理
不動産を所有し、その不動産を賃貸することにより、不動産賃貸業としての売上高が発生します。
不動産賃貸業としての売上高は、賃借人から毎月受け取る家賃が主なものになります。
また、賃借人から入居時に貰う礼金や権利金、契約更新時に貰う更新料も売上高になります。
ただし、賃借人から入居時に貰う敷金だけは、賃貸借契約の内容により、以下のように売上高になったり、預り金になったり、勘定科目が変わるので注意が必要です。
- 敷金を賃借人の退去時に返還する→「預り金」や「預り保証金」又は「預り敷金」に計上
- 敷金を賃借人の退去時に返還しない→賃貸借契約で決めた時期に「売上高」に計上
要は、敷金を賃借人の退去時に返還するかどうかで勘定科目が変わってきます。
返還するのであれば、売上高ではなく、ただ単に賃借人から預かっているだけなので「預り金」や「預り保証金」又は「預り敷金」の勘定科目で処理することになります。
【仕訳イメージ】
〈家賃・礼金・更新料・返還予定がない敷金〉
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 10万円 | 売上高 | 10万円 |
※ 売上高は家賃・礼金・更新料・返還予定がない敷金を区別して把握するために補助科目を設定すると便利です。
〈返還予定がある敷金〉
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 20万円 | 預り金 | 20万円 |
不動産管理業としての売上高の仕訳
他人の不動産を管理することにより、会社には不動産管理業としての売上高が発生します。
不動産管理業の業務手順は、以下のようになることが多いです。
管理会社の口座に賃借人から月額賃料が振り込まれますので、部屋ごとに月額家賃・礼金・敷金・更新料などを把握して月次管理報告書にまとめます。
共有部分の水道光熱費や管理会社が立て替えた工事費用を月次管理報告書にまとめます。
その過程で、管理委託契約書で定めた管理会社の管理委託料も月次管理報告書にまとめます。
管理会社はお金を管理しているだけなので、元の不動産所有者に収入から支出を差し引いた分を支払うことになります。
以上の流れが分かったところで不動産管理会社の仕訳イメージを見ていきましょう。
【仕訳イメージ】
〈STEP1〉
まずは、賃借人から受け取った家賃等の仕訳を見ていきましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 10万 | 預り金 | 10万 | ウエストステージ 101号室 家賃 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 8万 | 預り金 | 8万 | ウエストステージ 102号室 家賃 |
管理会社は、あくまで賃借人から賃貸人に対する家賃を預かっているだけなので、売上高ではなく預り金が増加するという仕訳をします。
〈STEP2〉
次に、不動産の管理にかかった支出の仕訳について見ていきましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
預り金 | 2万 | 普通預金 | 2万 | ウエストステージ共用部分電気代 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
預り金 | 3万 | 売上高 | 3万 | ウエストステージ管理委託料 1月分 |
管理会社は、預かっている家賃などから不動産管理に必要な支出を賄っていると考えます。
よって、管理会社の経費ではなく、預り金の減少という仕訳をします。
なお、管理会社の委託料に関しては、この時点で売上高計上します。
〈STEP3〉
最後に収入から支出を差し引いた金額を不動産所有者に支払った際の仕訳を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
預り金 | 13万円 | 普通預金 | 13万円 | ウエストステージ不動産所有者への支払い 1月分 |
月次管理報告書の「不動産所有者への支払い額」が仕訳の金額部分になります。
なお、STEP1~STEP3の仕訳をすべて行うと預り金の勘定科目は0円になります。
0円にならない場合、どこか仕訳が間違っているので、再度確認してください。
不動産管理会社の仕訳を行う場合、収入と支出は必ず1つ1つ仕訳の形にしてください。仕訳の量が増えるのを嫌い、収入と支出を相殺して預り金を表示させずに残額だけを仕訳の形にするパターンが目立ちます。相殺パターンだと預り金の残高が0円になることを確認できず、仕訳が間違った場合、確認出来ません。さらに青色申告の要件である日々記帳に抵触しています。
仲介業としての売上高の仕訳
不動産会社の一般的な業務に売買や貸借の仲介業があります。
不動産の専門家である仲介会社が、スムーズに取引を進めるために、売買や貸借の間に入って媒介する業務です。
不動産仲介業の売上高の仕訳は、①売買の仲介の仕訳と②賃貸の仲介の仕訳の2つに区分できます。
売買仲介時の売上高の仕訳
不動産売買契約が完了した時に、仲介会社は、成功報酬を売主・買主又はその両方からもらうことができます。
その際の売上高の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 100万円 | 売上高 | 100万円 |
売主と買主の間で不動産売買による資金移動が起きますが、仲介会社は通常、成功報酬を貰うだけなので、仕訳がシンプルになります。
貸借媒介時の売上高の仕訳
不動産賃貸借契約が完了した時に、仲介会社は、成功報酬を貸主・借主又はその両方からもらうことができます。
仲介会社が借主から敷金・礼金・日割り家賃・火災保険料などを預からない場合の仕訳は、成功報酬を貰うだけになるので、仕訳がシンプルになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 100万円 | 売上高 | 100万円 |
ただし、借主から敷金・礼金・日割り家賃・火災保険料を一旦預かる仲介会社は銀行通帳に預かった金額が記帳されてしまいますので、処理が少し難しくなります。
事例で仕訳を確認していきましょう。
【事例】
- 建物賃貸借契約の借主より、敷金20万円、礼金10万円、日割り家賃14万円、火災保険料2万円、家賃保証会社契約金4万円を預かった
- 火災保険は当社が保険会社に代理店手数料20%控除後の金額を支払う
- 家賃保証会社に当社が4万円を支払う(代理店手数料20%は後ほど保証会社より振り込まれる)。
- 決済日(鍵渡し日)に借主より預かったお金のうち火災保険料と家賃保証会社契約金以外を貸主に振り込み、成功報酬11万円(税込み)を借主からもらう
〈借主より預り時の仕訳〉
借主より預かった敷金・礼金・日割り家賃・火災保険料を預り金の勘定科目で処理します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 50万円 | 預り金 | 50万円 |
〈火災保険料の仕訳〉
借主から預かっている2万円のうち80%部分である1万6千円を保険会社に支払い、20%部分である4千円は、代理店の売上高になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 1万6千円 | 普通預金 | 1万6千円 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 4千円 | 売上高 | 4千円 |
〈家賃保証会社契約金の仕訳〉
借主から預かっている4万円を家賃保証会社に支払うため以下の仕訳になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 4万円 | 普通預金 | 4万円 |
後日、代理店手数料の4万円×20%=8千円が家賃保証会社より振り込まれた場合は、代理店手数料部分を売上高に計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 8千円 | 売上高 | 8千円 |
〈預り金を貸主に支払う仕訳〉
借主より預かっている敷金20万円、礼金10万円、日割り家賃14万円を決済日に貸主に支払います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
預り金 | 44万円 | 普通預金 | 44万円 |
〈借主より貰う成功報酬の仕訳〉
借主より仲介業務に対する成功報酬をもらった時の仕訳を行います。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 11万円 | 売上高 | 11万円 |
貸借媒介時の売上高の仕訳のポイントは以下の3つになります。
- 売上高は、仲介手数料の売上高でなく、代理店手数料の売上高(火災保険・家賃保証)も登場する
- 預り金の残高は最終的には絶対に0円になる(ならなければ仕訳が間違っている!)
- すべての取引を通帳で行えば、入出金で相手先が把握でき、管理が楽になる
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