建物が夫婦共有名義だった場合、小規模宅地等の特例は適用できるか?

相続において、小規模宅地等の特例が適用できるかどうかは相続前後の宅地等の利用状況によって決定されます。

実務上、散見される事例として、土地は被相続人(亡くなった人)の所有ですが、その上に建物があり、その建物の所有は被相続人と配偶者の共有になっている場合です。

この点について、国税庁HP質疑応答事例「共有家屋(貸家)の敷地の用に供されていた宅地等についての小規模宅地等の特例の選択」で見解が出されています。

【事例1】(国税庁質疑応答事例を元に作成)
土地(200㎡)は夫が所有しています。
その上に貸家があり、夫と妻が共有しています(夫の持分は60%、妻の持分は40%)。
夫が亡くなり、妻が土地・貸家を相続しました。
妻は貸付事業を申告期限まで継続しています。

まず、妻が夫から相続した「土地」についてですが、以下のように分類します。

①夫の持分割合に対する土地(200㎡×60%=120㎡)
⇒所有する土地の上の家屋を貸し出しているので、貸家建付地と評価されます

②妻の持分割合に対する土地(200㎡×40%=80㎡)
⇒夫から使用貸借している土地の上の家屋を貸し出しているので、自用地と評価されます

つまり、夫の持分割合に対応した土地については、貸家建付地評価になり、相続税評価額は以下のように計算され、相続税評価額がおよそ20%程度減額されます

貸家建付地の評価額

貸家建付地の評価額=相続税評価額×(1-借地権割合×借家権割合)

逆に、妻の持分割合に対応した土地は自用地として評価されますので、減額はありません

次に、貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例を適用できるのは、どこまでかを考えていきます。

質疑応答事例では、「夫の家屋の持分に対応する土地だけでなく、妻の家屋の持分に対応する土地についても、小規模宅地等の特例の対象となります」と記載されています。

よって、貸付事業用宅地等の上限面積が200㎡なので、夫の持分80㎡だけでなく、妻の持分120㎡まで貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(50%減額)を適用できることになります。

質疑応答事例では、貸付事業用宅地等の事例を紹介していますが、実際には、夫婦で「居住している」建物が共有である場合の方が事例数は多いと考えられます。

【事例2】
土地(200㎡)は夫が所有しています。
その上に居住用の建物があり、夫と妻が共有しています(夫の持分は60%、妻の持分は40%)。
夫が亡くなり、妻が土地・建物を相続しました。

居住用の建物が夫と妻の共有であっても、建物を使用する権利は建物全体に及ぶと考えられます。

よって、夫の生前は建物全体が夫の居住用宅地であったと考えられます。

従って、妻が相続した土地「全体」が特定居住用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できると考えらます。