建物を取得した場合、税法上では、原則として建物から建物附属設備や構築物を区分して評価しなければなりません(木造建物を除くすべての建物が対象です)。
しかし、中古の建物を取得した場合、新築当時の見積書や請求書が紛失しており、区分が困難になります。
よって、理論としては建物から建物附属設備や構築物を区分したいのに、実務上は取得価額の全額が建物の勘定科目に計上されている事例が多々あります。
区分が余程困難な場合は、取得価額の全額を建物勘定で経理処理することも致し方ありませんが、建物附属設備や構築物の税法上の耐用年数は建物の税法上の耐用年数より短いので、可能な限り建物から区分して建物附属設備や構築物の勘定科目を計上する方が減価償却費という経費が多くなり、節税対策になります。
今回は「建物・建物附属設備・構築物を区分し、減価償却費(経費)を増加させよう」というテーマを説明していきます。
税法上の建物・建物附属設備・構築物の定義
まずは、税法上の建物・建物附属設備・構築物の区分についてみていきましょう。
気を付けて頂きたいのは、皆さんが「普段想像する」建物・建物附属設備・構築物と「税法上の」建物・建物付属設備・構築物の区分は少しだけ異なることです。
「これは建物の一部だから、税法上も建物勘定で処理するだろう!」というものが意外と建物附属設備の勘定科目や構築物の勘定科目で処理されることになります。
建物とは
建物とは、相当な期間存在することを前提に土地の上に建てられた工作物で、屋根・壁・柱から構成される工作物です。
賃貸事業で使用されるアパートやマンション・事務所・店舗・工場・倉庫などが税法上の建物に該当します。
税法上の建物の耐用年数については、「耐用年数省令別表第一」の建物に記載されています。
耐用年数とは使用可能期間のことで、取得した固定資産を経費に按分する期間になります。
例えば、鉄筋コンクリート造りの賃貸用マンションの法定耐用年数は47年になりますので、税法上は47年間に渡り使用可能と考え、建物の取得価額を47年で按分して1年間の減価償却費(経費)を算定することになります。
なお、税法に関係がある法令では建物を以下のように定義しています。
建物は防水、床、外装、窓及び構造体の部分からなるもの。防水、床、外装、窓及び構造体の部分のうちいずれが欠けても建物とならない。
固定資産の耐用年数の算定方式(昭和26年大蔵省主税局)
建物とは、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものをいう。
不動産登記事務取扱手続準則122条
建物附属設備とは
建物附属設備とは建物に付属して機能する工作物のことをいいます。
建物附属設備の具体的に例を挙げると以下の通りです。
耐用年数については、「耐用年数省令別表第一」の建物附属設備に記載されています。
- 照明等に係る電気設備
- 給排水設備
- ガス設備
- 冷暖房などの空調設備
- エレベーターなどの昇降機設備
- 消火・排煙設備、火災報知器、格納式避難設備
- 内装工事費用(居住用⇒事務所用に改装など)
構築物とは
構築物とは、土地の上に建てられた建物以外の建造物や工作物、土木設備のことです。
建物附属設備と構築物の違いは、建物に附属しているかどうかです。
すなわち、建物に附属していれば、建物付属設備になり、建物に附属していなければ構築物になります。
構築物の具体例を挙げると以下の通りになります。
耐用年数については、「耐用年数省令別表第一」の構築物に記載されています。
- 塀
- 防壁
- 貯水用タンク
- アンテナ
- 青空駐車場の舗装路面
- アスファルト敷の舗装道路
適切に区分すると減価償却費(経費)が増え、節税対策に繋がる
賃貸用の土地と建物を一括で取得した場合に、土地と建物のみの区分を行い、建物附属設備や構築物の区分を行わない事例がよくあります。
しかし、建物の耐用年数より建物附属設備や構築物の耐用年数の方が短いので、減価償却を通して経費に算入できる金額は、取得した建物を建物・建物附属設備・構築物の勘定科目に細かく区分した方が多くなります。
例えば、鉄筋コンクリート造りの建物の耐用年数は47年ですが、建物の一部になっている電気設備・給排水設備は建物附属設備に該当し、耐用年数は15年になります。
耐用年数が3分の1になれば、3倍の速さで減価償却を行うことができるので、経費に算入できる金額も建物より建物附属設備に区分した方が3倍多くなります。
中古建物の購入時や土地の上に新しく建物を建設する時にきちんと工事見積書を入手できれば、中身を詳細に検討することにより、建物勘定、建物附属設備勘定、構築物勘定への区分ができます。
その結果、減価償却費を通した経費の増加により、節税対策にも繋がり、お金が手元に残ることになります。
まとめ
考え方としてはまずは上記の定義に当てはめて、建物・建物附属設備・構築物の区分けを検討することになります。
なお、減価償却の方法として定率法と定額法の2つの方法があるのですが、建物・建物附属設備・構築物の減価償却方法は「定額法」に限定されています。
定率法を採用すると、固定資産を取得した初期時点で、定額法より多くの経費を算入できたのですが、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備および構築物から定率法を利用することができなくなり、減価償却方法は定額法で一本化されてしまいました。
建物の減価償却方法は従来から定額法のみだったので変わりませんが、建物から建物附属設備・構築物を区分けして減価償却費を多く計上するというメリットが少し薄れてしまいました。
それでも、建物と建物附属設備・構築物の間には耐用年数の大きな違いがあるため、少しでも建物附属設備・構築物に取得価額を区分した方が経費の算入が有利になり、節税対策に繋がることは変わりません。