「相続人ではない親族に自宅を残したいが、小規模宅地等の特例は使えるのか」と迷っていませんか。
小規模宅地等の特例が使えるかどうかで、自宅の敷地(=建物が建っている土地)の相続税評価額は最大80%も変わります。要件を知らずに遺言書を書くと、その敷地を受け取った親族に多額の相続税が残ります。
本記事では、税理士が小規模宅地等の特例の対象になる親族の範囲と、相続人以外の親族が遺贈で小規模宅地等の特例を使うための要件・注意点をわかりやすく解説します。
小規模宅地等の特例は相続人以外の親族でも受けられる
小規模宅地等の特例は、土地を取得した人が相続人でなくても、被相続人の親族であれば適用を受けられます。
小規模宅地等の特例とは、亡くなった人(=被相続人)の自宅や事業用の土地を引き継いだ人が、その土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です(国税庁タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」)。
法律の条文は、対象になる土地を「被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの」と定めています(租税特別措置法第69条の4)。
言い換えると、条文が求めているのは「相続人であること」ではなく「親族であること」です。
相続税の多くの制度は、相続人以外の人が財産を取得すると税負担が重くなるように作られています。世代飛ばし(=子を飛ばして孫に財産を渡し、相続税がかかる回数を減らす節税)を防ぐためです。
小規模宅地等の特例が例外的に親族まで対象にしているのは、被相続人の自宅や事業を引き継いだ人の生活基盤を守るという制度の趣旨があるからです。
自宅や事業を引き継ぐのは、必ずしも息子や娘などの相続人とは限りません。次の章では、対象になる「親族」の範囲を具体的に見ていきます。
小規模宅地等の特例の親族の範囲は「6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族」
小規模宅地等の特例でいう親族とは、民法が定める「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」です(民法第725条)。
血族(=血のつながりがある人。養子縁組をした人を含む)と姻族(=結婚によってつながった配偶者側の親族)では、親族に含まれる親等の範囲が異なります。
親等(=親族関係の近さを示す数字)は、親子のつながり1つを1と数えます。親・子は1親等、祖父母・孫・兄弟姉妹は2親等です。
| 続柄 | 親族関係 | 小規模宅地等の特例の対象か |
|---|---|---|
| 子・親 | 1親等の血族 | ○(多くは相続人) |
| 孫・兄弟姉妹 | 2親等の血族 | ○ |
| 甥・姪 | 3親等の血族 | ○ |
| いとこ | 4親等の血族 | ○ |
| 息子の妻・娘の夫 | 1親等の姻族 | ○ |
| 配偶者の兄弟姉妹 | 2親等の姻族 | ○ |
| 内縁の妻・夫 | 親族ではない | × |
| 友人・知人・法人 | 親族ではない | × |
息子の妻や孫、甥・姪は相続人でなくても親族に当たるため、小規模宅地等の特例の適用対象になります。
反対に、内縁の配偶者(=婚姻届を出していないパートナー)や友人、法人は親族に当たりません。被相続人が遺言で土地を残しても、内縁の配偶者や友人、法人には小規模宅地等の特例は適用できません。
ただし、親族に当たるだけでは小規模宅地等の特例は使えません。相続人以外の親族には「遺贈」で土地を取得するという条件があるため、次の章で説明します。
相続人以外の親族は「遺贈」で取得した土地にだけ小規模宅地等の特例を使える
相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を受けるには、被相続人から遺贈で土地を取得する必要があります。
遺贈とは、被相続人が遺言によって財産を特定の人に無償で渡すことです。相続人でない人は遺産分割協議(=相続人全員で遺産の分け方を決める話し合い)に参加できません。
協議に加われない以上、相続人以外の親族は、遺言がなければ土地そのものを取得できず、小規模宅地等の特例を使う前提が成り立ちません。
死因贈与(=「私が死んだらこの土地をあげる」と生前に交わす契約)も、相続税では遺贈に含めて扱われます(相続税法第1条の3)。
反対に、相続時精算課税(=生前贈与の税金を相続の時にまとめて精算する制度)で生前に贈与を受けた土地には、受け取った人は小規模宅地等の特例を使えません(国税庁タックスアンサー No.4124)。
小規模宅地等の特例は「相続又は遺贈」で取得した土地だけが対象だからです。相続人以外の親族に小規模宅地等の特例を使わせたい場合は、生前贈与ではなく、遺言書による遺贈(または死因贈与)で土地を渡す必要があります。
遺贈で取得すれば、取得の方法の要件は満たします。では、相続人以外の親族が実際に小規模宅地等の特例を使う事例を見てみましょう。
事例:同居していた息子の妻が自宅の敷地を遺贈で取得した場合
同居していた息子の妻が遺贈で自宅の敷地を取得した場合、要件を満たせば特定居住用宅地等として評価額の80%減額を受けられます。
母親(夫とはすでに死別)が所有する自宅に、息子夫婦が同居していました。ところが、母親より先に息子が亡くなりました。
息子の死後も、息子の妻は母親の介護のために同居を続けました。母親は自分の死後も息子の妻が住み続けられるように、自宅とその敷地を息子の妻に遺贈しました。
息子の妻は母親の相続人ではありません。しかし、息子の妻は1親等の姻族として親族に当たるため、遺贈で取得した敷地に小規模宅地等の特例を使えます。
自宅の敷地は、小規模宅地等の特例の4つの区分のうち「特定居住用宅地等」に当たり、330㎡までの部分について評価額を80%減額できます(国税庁タックスアンサー No.4124)。
特定居住用宅地等では、敷地を取得した親族が「配偶者」「同居していた親族」「別居していた親族(家なき子)」のどれに当たるかで要件が変わります。息子の妻は母親と同居していたため、同居親族の要件で判定します。
同居親族の要件は、相続開始の直前から申告期限まで引き続きその自宅に住み、かつ敷地を申告期限まで持ち続けることです(国税庁タックスアンサー No.4124)。
息子の妻が申告期限まで自宅に住み続け、敷地を売らずに持ち続ければ、事例の敷地に80%減額を適用できます。
息子の妻が「姻族関係終了届」(=亡くなった配偶者の親族との関係を終わらせる届出)を市区町村に提出すると、母親との姻族関係は終わります(民法第728条第2項)。
親族に当たるかどうかは民法上の身分関係で判定するため、母親の相続開始前に届出をしていた場合、息子の妻は親族に当たらず、小規模宅地等の特例を使えないと考えられます(この点を直接定めた通達等は見当たらないため、個別判断)。
小規模宅地等の特例が使えるとしても、相続人以外の親族には相続税の負担が重くなる別のルールがあります。次の章で確認します。
相続人以外の親族には相続税の2割加算がある【計算例】
相続人以外の親族が財産を取得した場合、小規模宅地等の特例が使えても、その人の相続税額は原則として2割加算されます。
相続税額の2割加算とは、配偶者と1親等の血族(親・子)以外の人が財産を取得した時、その人の相続税額に20%を上乗せする制度です(国税庁タックスアンサー No.4157「相続税額の2割加算」)。
息子の妻や兄弟姉妹、甥・姪は2割加算の対象です。孫も原則として対象ですが、代襲相続人(=親である子が先に亡くなったため、代わりに相続人になった孫)は対象外です。
養子は1親等の法定血族なので対象外ですが、孫を養子にした場合は原則として加算されます。
小規模宅地等の特例による減額と2割加算が相続税額にどう影響するかを、簡単な数字で確認します。前提は、息子の妻が同居していた自宅の敷地250㎡(相続税評価額5,000万円)を遺贈で取得したケースです。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 自宅敷地の相続税評価額(特例適用前) | 250㎡・330㎡以内 | 5,000万円 |
| 小規模宅地等の特例による減額 | 5,000万円×80% | ▲4,000万円 |
| 特例適用後の課税価格 | 5,000万円-4,000万円 | 1,000万円 |
| 息子の妻の相続税額(仮定) | 遺産全体から計算した仮の額 | 200万円 |
| 2割加算 | 200万円×20% | +40万円 |
| 息子の妻が納める相続税額 | 200万円+40万円 | 240万円 |
2割加算は小規模宅地等の特例を適用した後の相続税額に対して行われるため、評価額を4,000万円下げた効果が加算で打ち消されることはありません。
計算例の相続税額200万円は説明用の仮の数字です。実際の税額は、遺産全体の額や法定相続人の数によって変わります。
ここまでは自宅の敷地を前提に説明しました。次は、事業用や貸付用の土地を含めた区分ごとの要件を整理します。
小規模宅地等の特例の4区分ごとに異なる取得者の要件【比較表】
小規模宅地等の特例には4つの区分があり、いずれも取得者が親族であることを前提に、区分ごとの追加要件が定められています。
| 区分 | 限度面積・減額割合 | 取得した親族の主な要件 | 相続人以外の親族の例 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 330㎡・80% | 配偶者は要件なし。同居親族は申告期限まで居住・保有を継続。別居親族(家なき子)は持ち家がない等の要件 | 同居していた息子の妻・孫 |
| 特定事業用宅地等 | 400㎡・80% | 被相続人の事業を申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで事業と保有を継続 | 事業を手伝っていた甥 |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡・80% | 申告期限にその会社の役員であり、申告期限まで保有を継続 | 会社を継ぐ娘の夫 |
| 貸付事業用宅地等 | 200㎡・50% | 被相続人の貸付事業を申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで貸付と保有を継続 | 賃貸経営を継ぐ孫 |
どの区分でも、条文は「要件を満たす被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの」を対象と定めています(租税特別措置法第69条の4第3項)。
不動産業を営む方にとって重要なのは、賃貸物件の敷地(貸付事業用宅地等)も、相続人以外の親族が遺贈で引き継いで50%減額を受けられる点です。
たとえば、賃貸経営を手伝ってきた孫にアパートの敷地を遺贈し、孫が申告期限まで貸付を続けるケースが考えられます。
なお、本記事では触れていない特定居住用宅地等の細かい要件については、別の記事で解説しています。同居親族の4要件は「同居親族が小規模宅地等の特例(80%減額)を受ける4要件と注意点」で、家なき子の要件は「家なき子特例を受けるための住所・国籍について」で詳しく解説しています。
区分ごとの要件を確認したら、次は実際に小規模宅地等の特例を受けるまでの手続きの流れを説明します。
相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を受けるまでの手続きの流れ
相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を受けるには、遺言書の確認から申告期限内の申告まで、4つの手続きを順番に進める必要があります。
遺贈の対象に建物だけでなく敷地(土地)が含まれているかを確認します。建物だけの遺贈では、受遺者(=遺贈を受けた人)は敷地を取得しないため自分では小規模宅地等の特例を使えず、敷地を相続した別の親族が要件を満たすかどうかの判定になります。
小規模宅地等の特例の対象になる宅地が複数ある場合は、限度面積の範囲内で有利な宅地を選びます。選択には、特例対象宅地を取得した人全員の同意が必要です。
相続開始を知った日の翌日から10か月の申告期限まで、その家に住み続け(事業を続け)、土地を売らずに持ち続けます。
申告書に小規模宅地等の特例を受ける旨を記載し、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書や遺言書の写しなどを添付して提出します。
遺贈で土地を取得した相続人以外の親族も、相続人と同じ申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)で相続税を申告します(国税庁タックスアンサー No.4124)。
小規模宅地等の特例を使うには、相続税の申告書を提出することが条件です。特例を使った結果として納める税額がゼロになる場合でも、申告書の提出は省略できません。
手続きの流れを押さえたら、最後に注意点を確認しておきましょう。
相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を使う時の注意点
相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を使う時の注意点は、宅地の選択・遺留分・要件の継続・納税資金の4点です。
- 当初申告で選んだ宅地は原則変更できない:いったん小規模宅地等の特例を使う宅地を選んで申告すると、後から有利な宅地への「選択替え」はできません。
- 相続人の遺留分を侵害するおそれがある:遺留分(=配偶者・子・親に最低限保障される遺産の取り分)を侵害する遺贈は、相続人から金銭の支払いを求められる可能性があります。
- 申告期限前に売却・転居すると要件を満たさなくなる:同居親族が申告期限前に敷地を売ったり引っ越したりすると、居住・保有の継続要件を満たさなくなり、小規模宅地等の特例による80%減額は受けられません。
- 2割加算を見落とすと納税資金が不足する:相続人以外の親族は税額が2割増えるため、納税資金を事前に用意しておく必要があります。
最後に、この記事の要点をまとめます。
まとめ:小規模宅地等の特例は相続人以外の親族も遺贈で使える
小規模宅地等の特例は、相続人だけでなく、要件を満たす親族であれば誰でも適用を受けられる制度です。
- 小規模宅地等の特例の対象は「相続人」ではなく「親族」:息子の妻や孫、甥・姪など、6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族が範囲
- 相続人以外の親族は遺贈で土地を取得する:相続人でない人は遺産分割協議に参加できないため、遺言書による遺贈(死因贈与を含む)で土地を受け取ることが必要
- 親族が遺贈で取得しただけでは足りず、宅地の区分ごとの要件も必要:自宅の敷地なら申告期限まで住み続ける、賃貸物件の敷地なら貸付を続けるなど、土地の使い方に応じた継続要件を満たすことが条件
- 相続人以外の親族には相続税の2割加算がある:配偶者と親・子以外の人は相続税額が2割増えるが、加算は小規模宅地等の特例で評価額を下げた後の税額に対して行われる
- 親族でない人への遺贈と生前贈与は対象外:内縁の配偶者・友人・法人に遺贈した土地や、相続時精算課税で生前に贈与した土地には小規模宅地等の特例は使えない
相続人以外の親族に自宅や賃貸物件を残したい方は、遺言書を作る段階で小規模宅地等の特例の親族の範囲と要件を確認しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
相続人以外の親族と小規模宅地等の特例について、よくある質問に答えます。
- 小規模宅地等の特例は、相続人ではない孫が遺言で自宅の敷地をもらった場合でも使えますか?
-
はい、使えます。孫は2親等の血族で親族に当たるため、遺贈で取得すれば小規模宅地等の特例の対象です。
ただし、孫が同居していたか、家なき子の要件を満たす必要があります。また、孫が代襲相続人(=親である子に代わって相続人になった孫)でない限り、相続税額は2割加算されます。
- 小規模宅地等の特例は、被相続人の兄弟姉妹が遺贈で自宅の敷地を取得した場合でも使えますか?
-
はい、使えます。兄弟姉妹は2親等の血族で親族に当たるため、遺贈で取得すれば小規模宅地等の特例の対象です。
ただし、同居親族または家なき子の要件を満たす必要があり、兄弟姉妹の相続税額は2割加算されます。
- 相続人以外の親族が小規模宅地等の特例を使うと、相続税の2割加算はどうなりますか?
-
小規模宅地等の特例を使っても、2割加算は別に適用されます。配偶者と1親等の血族以外の人が財産を取得すると、その人の相続税額に20%が上乗せされます。
2割加算は、小規模宅地等の特例を適用した後の相続税額に対して行われます。
- 相続時精算課税で生前に土地をもらった場合、小規模宅地等の特例は使えますか?
-
いいえ、使えません。小規模宅地等の特例は相続または遺贈で取得した土地だけが対象で、相続時精算課税による贈与は含まれないためです。
小規模宅地等の特例を使いたい場合は、生前贈与ではなく遺言書による遺贈を検討してください。
参考文献


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