個人事業主の節税対策について最近よく質問されるため、今回は、個人事業主で節税対策に興味がある人向けに、絶対に知っておくべき節税の考え方について、記事にしてみます。
個人事業主の節税対策の方法
まずは、個人事業主が節税対策を行うにはどうすれば良いか確認しましょう。
- 個人事業主が節税対策を行うにはどうしたらよいですか?
- ①必要経費を増やすか、②各種控除(所得控除・税額控除等)を見直すことです。
必要経費を増やすためにすること
必要経費の増加が節税対策になる理由
個人事業主に課される税金は、所得税、住民税、事業税(以下、所得税等)が中心で、課税売上高が1,000万超あれば、消費税も課されることになります。
消費税については、すぐにできる節税対策というものはないので、一般的に節税対策を行う必要があるのは、所得税等についてです。
個人事業主の所得税等の計算方法は、以下のようになります。
所得税等 = 利益(売上高ー必要経費) × 税率
売上高を減らすことは事業規模の縮小を意味しますので、基本的にしませんし、税率は税務署が決定しているため変更できません。
そこで、所得税等を減らすために何をするかというと、必要経費を増やします。
必要経費が増えれば、利益が減り、結果的に所得税等が減るという流れです。
よって、必要経費の増加は節税対策に繋がり、非常に重要ということがわかります。
不必要な必要経費の増加は手元のお金を減少させるだけ
それでは、必要経費を増やすにはどうしたらよいでしょうか?
一般的な個人事業主が行っている主な施作には以下のようなものがあります。
- 積極的に業務関連性のある飲み会に出席して交際費を増やす
- 当期は使用しないけど、事業で使用する少額な消耗品を事前に購入する
- 事業関連性のあるセミナーに積極的に参加する
- 仕事のついでに旅行に行く
仕事のついでに旅行に行った費用を全額必要経費にするのは、事業関連性がない場合が多いので、かなり際どいですが、それ以外は、事業に関連するなら必要経費になるので、節税対策になると言えます。
しかし、よく考えたら分かりますが、必要経費を増やし、節税対策を行ったところで、自分の手元のお金が不必要に減ってしまったら意味がありません。
具体的な数値で分かるように、以下の例題で手元に残るお金の比較をしてみましょう。
-
以下の2つの場合に手元に残るお金を比較してください。
なお、どちらの場合も税率は20%とします。- ケース1
当期利益 100万円 - ケース2
当期利益 60万円(節税対策として、交際費で30万円支払い、セミナー参加代で10万円支払った)
- ケース1
- 【手元に残るお金】
ケース1:100万円ー100万円×20%=80万円
ケース2:60万円ー60万円×20%=48万円【比較検討】
節税額だけ考えると、100万円×20%ー60万円×20%=8万円ということになりますが、手元に残ったお金も80万円ー48万円=32万円減っていることになります。
手元のお金を32万円減らしてまでも、必要経費を増やして、8万円を節税する必要があったかの判断になります。
節税対策として「不必要に」必要経費を増やすことは、結果的に手元に残るお金を減らしてしまうことになります。
節税をしたいあまりにお金がなくなってしまった…なんて事態になったら目も当てられません。
まずは、事業遂行上、不可欠な必要経費を把握して増やしていくことが重要になるでしょう。
経営セーフティ共済について
急な売上があり、期末間際で利益を減らすために、どうしても必要経費を増加させたい時に利用するのが経営セーフティ共済です。
経営セーフティ共済の掛金は20万円/月が必要経費に算入できます。
また、翌年1年分を前納という形にすれば、期末間際でも新たに240万円まで必要経費を増やすことができます。
解約時等に掛金は全額返金されますので、加入期間はお金を拘束されてしまいますが、掛け捨て(使い切り)にならず、事業資金を無駄に減らすこともありません。
ただし、解約時に掛金の返金額分だけ利益が出てしまうので、デメリットも多少あります。
また、最大のデメリットとして、代理店手数料のあまりの少なさに取り扱っている金融機関等が全く勧めてこないことです。
加入したいのに、金融機関等で取り扱ってもらえない場合、ご連絡頂ければ善処致します。
青色事業専従者給与について
必要経費を増加させるために有用で意外にうまく使えていないのが、青色事業専従者給与です。
個人事業主の場合、家族に給与を支払っても、専従者としての要件をきちんと満たしていれば、必要経費に算入できます。
そして、一般の従業員に給料を支払えば、当然お金はなくなりますが、家族に給料を支払う場合、家族全体のお金は減りません。
家族に支払った給料をきちんと必要経費にできるというのは、お金の減らない節税対策としては非常に有用なので、要件を確認した上できちんと利用できると良いでしょう。
各種控除を見直そう
所得税等には要件が合えば、税金額を減少させられる控除制度(所得控除・税額控除等)があります。
そして幾つかの控除制度(所得控除・税額控除等)は個人事業主本人が要件を合わせに行けます。
具体的には、以下の控除制度については要件を合わせに行ける可能性があります。
- 小規模企業共済等掛金控除
- 寄附金控除
- 給与等の引上げ及び設備投資を行なった場合等の税額控除
- 試験研究費の総額に係る税額控除制度
- 純損失の繰越控除
- 青色申告特別控除(65万)
所得控除について
所得控除とは、所得税等の計算方法の「利益」部分を控除(マイナス)できる制度です。
基礎控除や医療費控除などが有名ですが、個人事業主が自分で調整できる可能性があるのは、小規模企業共済等掛金控除と寄附金控除です。
寄付金控除はふるさと納税などCM等で大々的に宣伝されている通りなので、ここでは、小規模企業共済等掛金控除の増やし方を紹介します。
小規模企業共済等掛金控除を増やすためには、小規模企業共済に加入してください。
掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になり、最大で7万円/月を控除できます。
経営セーフティ共済と同様に「前納」という制度がありますので、期末間際に加入しても、1年分を前納することにより新たに84万円(7万円×12か月分)は小規模企業共済等掛金控除に計上できます。
また、解約時には理由によりますが、基本的に掛金以上のお金が返ってきますので、加入期間はお金が拘束されてしまいますが、掛け捨て(使い切り)にならず、事業資金を無駄に減らすこともありません。
なお、小規模企業共済は、簡単に言うと、個人事業主の退職金を自分で積み立てる制度です。
よって、解約時に掛金部分以上のお金が返還されても、40万円/年(20年目以降は70万円/年)は免税になります。
掛金が小規模企業共済等掛金控除に該当するのに、掛金の解約部分は基本的に免税という物凄くメリットが大きい制度になっていますが、経営セーフティ共済と同じく、金融機関が全く勧めてこないので、加入したいのに、入れない場合はご連絡を頂ければ善処致します。
税額控除について
税額控除とは、所得税等を直接控除(マイナス)できる制度です。
基本的に暫定措置的なものが多く、時間の経過によって、無くなったり、変更されたります。
設備投資や最近では、人件費関係の支出に対して税額控除が適用される場合が多いです。
税額控除は最初から要件を合わせに行くことも可能ですが、控除を受けるために支出が増額するという本末転倒になりかねません。
決算期が近づいてきたら、適用できそうな税額控除を検索して、適用していくという考え方がベストでしょう。
適用があることを忘れて税務申告をすると、税額控除を受けられないので、必ず事前に確認することによって、メリットがあるかもしれない制度だと覚えておきましょう。
その他の控除について
青色申告承認申請書という書類を提出し、きちんと記帳をしている個人事業主には、①純損失の繰越控除、②青色申告特別控除の特典が与えられます。
純損失の繰越控除は、当年度の赤字を翌年度以降に繰り越して所得(利益)から控除することができる制度です。
事業を始めたばかりや、新規事業を立ち上げると最初のうちは赤字が続きます。
この時にちゃんと青色申告をして、赤字を繰り越していれば、後で、所得(利益)が出たときに、所得(利益)から繰り越した赤字部分を控除できます(つまり、所得控除と類似の効果が得られます)。
青色申告特別控除は、無条件に65万円を所得(利益)から控除できる制度です。
節税対策する順番について
これまでは、節税対策の方法について説明してきましたが、今度は節税対策をする順番を考えてみましょう。
1.青色申告関係の必要経費や控除を考える
具体的には、青色事業専従者給与、純損失の繰越控除、青色申告特別控除です。
2.小規模企業共済等掛金控除を検討する
期末間際でも利用できますが、早めに決めてしまった方が後の節税対策が立てやすいです。
3.税額控除の検討
設備と給与関係の検討です。
もし期末までに該当しそうな税額控除があるなら影響を事前に把握しましょう。
また、もう少しで税額控除を受けられる場合のみ、追加費用を出すか検討しましょう(深追い禁止!)。
4.経営セーフティ共済の掛金額を検討する
必要経費の中でも後からお金が返ってくるので、比較的利用しやすいのが経営セーフティ共済の特徴です。
ただし、解約時に利益になってしまうので、順番的にはこの時点がちょうどよいでしょう。
5.必要経費を増やす検討をする
意味のない必要経費は手元のお金を減らすだけなので、有形・無形を問わず後々まで利用できる必要経費を増やしましょう。
6.寄附金控除を検討する
最後はふるさと納税で寄附金に対するお礼をもらうことを検討しましょう。
還元率は悪くなっていますが、それでも十分にお得なはずです。