
配偶者居住権はうまく活用すると相続税の節税対策に利用することができます。
ただし、相続税の節税対策に利用するためには、配偶者居住権等の相続税法上の評価額の算定方法を知る必要があります。
そこで今回は、配偶者居住権等の相続税法上の評価額について確認していきましょう。
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、配偶者の一方に先立たれた、残された配偶者が遺産分割後も住み慣れた自宅に住み続けることを保証するための権利です。
例えば、夫が亡くなってしまい、子供との関係が良好でない妻が自宅に住み続けられることを保証するために配偶者居住権は設定されます。
相続税の評価方法
配偶者居住権は、相続により取得した財産として相続税の課税対象になります。
相続財産は基本的に時価(一般的な売買により成立する価額)で評価されますが、配偶者居住権は売買することが禁止されており、時価がありません。
そこで、相続税法で配偶者居住権の評価額の算定方法が定められています。
なお、配偶者居住権は「建物」に対する権利で、配偶者居住権に基づく敷地「利用権」(以下、敷地利用権)の評価額の算定方法も相続税法で定められています。
また、配偶者居住権や敷地利用権と表裏一体となる負担付き建物所有権や敷地「所有権」の評価額の算定方法についても相続税法で定められています。
配偶者居住権の評価額の算定方法
まずは算式から確認してください。
難しい言葉が並んでいますが、後で解説するので安心してください。
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建物の時価-建物の時価×(耐用年数-経過年数-存続期間)÷(耐用年数-経過年数)×法定利率による複利現価率
上記の計算式は、現時点の建物価額-負担付き建物所有権の評価額(配偶者居住権の終了時の建物価額の現在価額)を意味します。
建物の時価
建物の時価は固定資産税評価額になります。
建物所有者に市区町村から1年に1回送られてくる固定資産税課税明細書を確認してください。
耐用年数
耐用年数とは、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められた年数のことです。
ただし、配偶者居住権が設定されるのは、居住用の建物になるので、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められた年数を1.5倍することになります。
例えば、木造の建物の場合、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」では耐用年数22年と定められているので、22年×1.5=33年ということになります。
経過年数
経過年数とは、建物の新築時から配偶者居住権の設定時までの年数のことです。
端数については、半年に満たない場合は切り捨てられ、半年以上は切り上げられます。
存続年数
存続年数とは、配偶者居住権が存続する年数のことです。
基本的には、厚生労働省が作成している完全生命表(男女別、年齢別)の平均余命を使用することになります。
法定利率による複利現価率
法定利率は法律で決められた利率で3年ごとに変更されます(現在は3%)。
複利現価率とは、将来の金額を現在価値に割り引くための利率のことです。
例えば、将来の1万円を現在価値にすると8,000円位になるということです。
注意したいのは、将来の価値を現在価値に直すと減額するということです。
負担付き建物所有権の評価額の算定方法
配偶者居住権という権利が設定されると、元の建物は一定の負担を強いられることになります。
よって、建物の所有権は「負担付き」建物所有権として評価されることになります。
負担付き建物所有権の評価額は、配偶者居住権の終了時の建物価額の現在価額になります。
計算式にすると以下の通りになります。
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建物の時価×(耐用年数-経過年数-存続期間)÷(耐用年数-経過年数)×法定利率による複利現価率
なお、建物の時価を2つに分けたものが、①配偶者居住権と②負担付き建物所有権の評価額なので、合算すると当然建物の時価と一致します。
耐用年数、経過年数、存続期間、法定利率による複利現価率については、配偶者居住権の説明のところと同じです。
敷地利用権の評価額の算定方法
配偶者居住権は建物に居住するための権利なので、それに紐づき土地を利用する権利も発生します。
これを敷地利用権といいますが、敷地利用権も価値があるので相続税法上の評価額が生じます。
敷地利用権の評価額の算定方法は以下の通りとなります。
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土地の時価-土地の時価×法定利率による複利現価率
上記の計算式は、現時点の敷地価額-敷地所有権の価額(配偶者居住権の終了時の敷地価額の現在価額)を意味します。
土地の時価
土地の時価の算定方法には、路線価方式と倍率方式があります。
路線価方式とは、路線価×土地の面積(㎡)で評価額を算定する方法です。
路線価とは、国税庁の財産評価基準書で定められた宅地1㎡当たりの価額でその土地が接している道路ごとに評価額が設定されています。
例えば、路線価が500千円で土地の面積が100㎡ならば、500千円×100㎡=5,000万円が土地の時価になります。
なお、路線価は都心部を中心に設定されており、必ずしもすべての土地の時価を評価出来る訳ではありません。
路線価が設定されていない土地の時価は倍率方式で評価することになります。
倍率方式はその土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算することになります。
倍率は財産評価基準書で定めれていますので、国税庁のホームページで確認できます。
法定利率による複利現価率
法定利率は法律で決められた利率で3年ごとに変更されます(現在は3%)。
複利現価率とは、将来の金額を現在価値に割り引くための利率のことです。
例えば、将来の1万円を現在価値にすると8,000円位になるということです。
注意したいのは、将来の価値を現在価値に直すと減額するということです。
敷地所有権の評価額の算定方法
敷地利用権が設定されると、元の土地所有権は第三者の敷地利用権がついた土地として、一定の負担を強いられることになります。
よって、土地の所有権は「負担付き」土地所有権(相称として敷地所有権とします)として評価されることになります。
敷地所有権の評価額は、配偶者居住権の終了時の土地所有権価額の現在価額になります。
計算式にすると以下の通りになります。
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土地の時価×法定利率による複利現価率
なお、土地の時価を2つに分けたものが、①敷地利用権と②敷地所有権なので、合算すると当然土地の時価と一致します。
配偶者居住権に伴う建物の計算式と同じになりますが、建物は時の経過に伴い減価するのに対して、土地は時が経過しても減価しないので計算式が少し簡単になっています。
相続税の節税対策のために
建物は、配偶者居住権(配偶者が相続)と負担付き建物所有権(子供が相続)に分割でき、土地は配偶者居住権に基づく敷地利用権(配偶者が相続)と敷地所有権(子供が相続)に分割出来ることがわかりました。
建物・土地共に、残された配偶者と子供に分割出来ましたが、分割した2つの財産の評価額を合算すると、一次相続の時点では、それぞれ建物の時価、土地の時価になり相続税の評価額は変わらないことが分かります。
ただし、配偶者居住権と配偶者居住権に基づく敷地利用権は一身専属権なので、残された配偶者の死亡により起こる二次相続時点で相続税の評価額は0円になります。
つまり、一次相続で残された配偶者が建物・土地を相続し、二次相続で子供が建物・土地を相続する場合よりも、一次相続で配偶者居住権を設定した方が、配偶者居住権・配偶者居住権に基づく敷地利用権の評価額だけ相続税の評価額が下がり、結果として相続税の納税額が少なくなります。
実際には小規模宅地等の特例や親族間の関係に注意を払う必要がありますが、相続税の節税対策に配偶者居住権を利用するためには、まず配偶者居住権等の相続税法上の評価額の算定方法を知ることが重要になることが分かります。