小規模宅地等の特例を適用するための合意について
小規模宅地等の特例を適用するためには、小規模宅地等を取得した全ての者の合意を証する書類の添付が必要になります(以下、選択同意書といいます)。
また、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11・11の2表の付表1)の1.特例の適用にあたっての同意の欄で署名することが求められています。
よって、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等を取得した全ての人の同意がなければ、小規模宅地等の特例を適用することはできなくなります。
選択できる小規模宅地等が複数ある場合の問題点
選択できる小規模宅地等が複数あり制限面積を超えている場合問題が起きる可能性があります。
事例で確認してみましょう。
【事例】
父親が亡くなりました。
長男Aは特定事業用宅地等に該当する土地X(400㎡)を相続しました。
次男Bは特定事業用宅地等に該当する土地Y(200㎡)を相続しました。
長男Aと次男Bは非常に仲が悪いです。
長男Aと次男Bは互いに小規模宅地等の特例を適用したいと考えています。
小規模宅地等の特例は宅地等の種類により適用できる制限面積が定まっています。
代表的なものだと、特定居住用宅地等(330㎡)、特定事業用宅地等(400㎡)、貸付事業用宅地等(200㎡)になります。
事例では、土地X(400㎡)と土地Y(200㎡)の合計面積は600㎡のため、特定事業用宅地等の制限面積の400㎡を超えてしまいます。
この場合、通常ならば、土地Xと土地Yの評価額を比べて、評価額の高い方の土地を優先して小規模宅地等の特例を適用していくことになります(相続税が一番安くなるため)。
しかし、長男Aと次男Bは非常に仲が悪く、互いに自分の宅地等に小規模宅地等の特例を適用したいと考えています。
最悪の場合、相続税の申告は相続人全員で行うとは定められていないので、長男Aと次男Bで別々に相続税の申告書を作成して提出することになります。
そして、どの宅地等に対して小規模宅地等の特例を選択するかが定まっていないので、お互いに選択同意書を入手できず、小規模宅地等の特例を適用することができなくなります(互いに申告書を出せなくなるか、別々の内容の申告書を出してしまうことになります)。
なお、互いが別々の申告書を提出し、その内容が違っていたら、他の相続人の同意を得て小規模宅地等の特例を適用していないので、小規模宅地等の特例は未来永劫適用できなくなります。
相続税には当初申告要件というものがあり、相続人が一旦申告書を提出してしまったら、さらに自分に有利になるような申告書の出し直しはできないルールになっているからです。
解決策について
いくつか解決策はありますが、特効薬になるようなものはありません。
採用できる対策をとって、後は残念ですが、小規模宅地等の特例を適用できない=相続税額が上がることを覚悟しておいた方が精神衛生上良いかと思います。
【解決策1】
相続前に被相続人が小規模宅地等の特例の適用対象を1つに整理してしまう。
小規模宅地等の特例の適用対象が1つだけの場合は、そもそも誰が小規模宅地等の特例を適用するかの議論自体が生じなくなります。
ただし、貸付事業用宅地等などが絡むと整理自体が非常に難しくなりますし、宅地等を整理することで、評価額はもともと低く設定されている不動産が減少し、かえって相続税額が高くになってしまうことも考えられます。
【解決策2】
申告期限後3年以内の分割見込書を提出する。
互いに相続税の申告書を提出する前であれば、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出すれば、遺産分割が可能になった段階で更生の請求が可能となります。
ただし、相続人間の仲が悪いと中々足並みが揃わず、書類の提出まで漕ぎ着けられないことも多いです。
【解決策3】
被相続人の主導で生前に各相続人から選択同意書を入手してしまう。
心理的な影響を与えることは可能かもしれませんが、相続後に各相続人が被相続人の意向に従うかどうかは不明です。
最悪、各相続人が勝手に申告書を出してしまう可能性もあります(相続人全員の同意がないので小規模宅地等の特例は適用できなくなります)。
【解決策4】
被相続人が遺言書で小規模宅地等の特例を適用する宅地等を指定する。
こちらも心理的な影響を与えることは可能でしょうが、そもそも小規模宅地等の特例を適用する対象宅地等を指定しても、法律的効力はありませんので、相続後に各相続人が被相続人の意向に従うかどうかは不明になります。