会社が役員からお金を借りたり、会社の費用を役員が立て替えていたりすると役員借入金が発生することになります。
この役員借入金ですが、役員から見れば、貸付金又は未収入金と判断されるため相続財産になります。
よって、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える相続財産がある場合には、役員が死亡するまでに役員借入金を減少又は消滅させることが好ましいです。
今回は、役員借入金を減少又は消滅させるための方法の1つである債権の資本化(デットエクイティスワップ)について解説していきます。
役員借入金を減少又は消滅させるための方法
役員借入金を減少又は消滅させる方法としては以下の5つがあります。
- 債権放棄
- 債権の贈与
- 代物弁済
- 債権の資本化(デットエクイティスワップ)
- 会社の閉鎖
債権の資本化(デットエクイティスワップ)とは役員の貸付金(=会社の役員借入金)を資本に組み入れる方法です。
役員借入金を減少又は消滅させるために債権放棄と同じ位頻繁に考えられる手段で、役員借入金の減少又は消滅時には益金(収益)が発生せず、万能感はあります。
しかし、資本金が増えてしまうため今までなかったはずの税金や中小企業のため優遇されていた措置を適用できなくなるなど、後々ボディーブローのように痛みを伴う可能性があります。
債権の資本化(デットエクイティスワップ)の前提条件
債権の資本化を行う際に必ず配慮しないといけない前提条件は2つです。
- 貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過会社になっていないこと(簿価ではないので注意!)
- 新規発行株式の影響により発行後に株主間で有利・不利が発生しないこと
貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過会社になっていないこと
債権の資本化は役員借入金を資本金に代えるだけであり、益金(収益)が発生しないと考えられがちです。
一般的なイメージとしては、以下の仕訳のようになります。
借方
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金額
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貸方
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金額
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---|---|---|---|
役員借入金
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5,000万円
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資本金
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5,000万円
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上記の仕訳は、貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過会社になっていない会社の場合は正しいです。
しかし、貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過会社になっている会社の場合は債務消滅益が発生してしまいます。
債務超過会社の場合、役員借入金は回収可能額で評価されてしまうため、帳簿価額との差額が債務消滅益として認識されてしまうためです。
借方
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金額
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貸方
|
金額
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---|---|---|---|
役員借入金
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5,000万円
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資本金
債務消滅益 |
1,000万円
4,000万円 |
よって、貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過会社になっている会社では、債権の資本化は利用しない方が良いことになります。
新規発行株式の影響により発行後に株主間で有利・不利が発生しないこと
新株の発行時に他の株主がいると、新株の発行株式数次第で役員借入金を資本化した役員(株主)と他の株主で有利・不利が生じてしまう可能性があります。
最悪の場合、他の株主にみなし贈与として贈与税がかかる可能性もあります。
債権の資本化(デットエクイティスワップ)を利用する場面
前提条件の2つ目である「新規発行株式の影響により発行後に株主間で有利・不利が発生しないこと」は債務超過でなければ、新株発行数を考慮すれば前提条件をクリアできます。
よって、債権の資本化(デットエクイティスワップ)を利用するのは、会社の貸借対照表の資産・負債の「時価」ベースで債務超過になっていない場面です。
逆に会社が債務超過の状態にあれば、通常は繰越欠損金や当期純損失があるので、債権放棄で税金を納めずに役員借入金を減少・消滅出来る可能性があります。
まとめると、債務超過会社⇒債権放棄、債務超過ではない会社⇒債権の資本化(デットエクイティスワップ)がおおまかな考え方になります。