【この記事の概要】
- 会社で不動産賃貸業を営む場合、大規模修繕のための年度ごとの積立金は、生命保険を活用することにより、一部を経費(損金)にできます。
- 大規模修繕積立金の貯蓄方法に生命保険を活用した場合のメリット・デメリットについて解説しています。
不動産賃貸業を専門に税務相談を受けていると「将来の大規模修繕に備えて積立をしたいのだけど、毎年の積立金を経費(損金)にすることはできないの?」とよく聞かれます。
通常、将来の大規模修繕に備えるための積立金を現金又は預金で貯蓄した場合は、経費(損金)にすることはできません。
しかし、会社が「生命保険」で大規模修繕積立金を貯蓄した場合、積立金の一部を経費(損金)にすることができます。
今回は、生命保険を活用して大規模修繕積立金の一部を経費(損金)にする方法を解説していきます。
生命保険の契約主体
生命保険で大規模修繕積立金を貯蓄する場合、以下の条件の生命保険契約を保険会社と締結することになります。
契約者 (保険料負担者) | 被保険者 | 保険金受取人 | |
---|---|---|---|
対象者 | 会社 | 代表取締役 | 会社 |
加入すべき生命保険について
加入した生命保険は、大規模修繕実施時に解約され、その解約返戻金を大規模修繕の支払額に充当することになります。
よって、加入すべき生命保険は、支払った生命保険料総額に対する解約返戻金の割合(解約返戻率)が高いものになります。
ただし、支払った生命保険料総額に対する解約返戻金の割合(解約返戻率)が85%超になると、毎年の生命保険料の支払額はほとんど経費(損金)に出来なくなります。
そこで、実際には、保険料の支払額の40%を経費(損金)にできる、解約返戻率85%をぎりぎり下回る生命保険に加入することになります。
大規模修繕積立金を経費(損金)にする手順
加入すべき生命保険が分かったので、次に大規模修繕積立金を経費にする手順を確認していきましょう。
工事内容をなるべく詳細に決め、その工事に必要になる金額を見積ります。
見積り金額を気持ち多めに設定しておけばイレギュラーが発生した時に対処できるためお勧めです。
注意事項として解約返戻金=保険料支払額総額ではありません。
毎年の保険料支払額の40%を経費(損金)にしたいため、解約返戻率が85%をぎりぎり下回る生命保険に加入します。
よって、見積もった大規模修繕費用を85%で割り直した金額が支払保険料総額になる生命保険に加入することになります。
毎年の支払保険料の40%が損金になります。
例えば、毎年の支払保険料の支払額が200万円だった場合の仕訳は以下のようになります。
【毎年の保険料支払時の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
保険料(経費) | 80万円 | 現預預金 | 200万円 |
保険積立金(資産) | 120万円 |
大規模修繕費用は、修繕費として経費に計上されます。
解約返戻金に関しては、毎年の保険料支払額のうち経費に計上していなかった部分の合計が保険積立金(資産)に計上されているので、それを取崩し、残りを雑収入として収益に計上します。
例えば、大規模修繕費用を1,700万円と見積り、2,000万円の生命保険に10年加入していた場合の大規模修繕実行時の仕訳は以下のようになります。
【大規模修繕費用】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
修繕費 | 1,700万円 | 現預預金 | 1,700万円 |
【生命保険の解約時の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 1,700万円 | 保険積立金 | 1,200万円 |
雑収入 | 500万円 |
生命保険で貯蓄して、支払保険料を経費(損金)にするメリット
大規模修繕積立金を生命保険で貯蓄して、支払保険料を経費(損金)にするメリットには、以下の3つがあります。
- 節税対策になる
- 生命保険に入れる
- 大規模修繕積立金を預金と分別管理できる
節税対策になる
大規模修繕積立金を生命保険で貯蓄した場合、年間の保険料支払額の一部が経費(損金)に計上できるため、節税対策になります。
簡単な設例にまとめましたので、以下をご覧ください。
【設例】
以下の条件の会社で、大規模修繕積立金を預金口座で貯蓄した場合と生命保険で貯蓄した場合の納税額を計算してください。
・年間利益1,000万円(但し、5年後の大規模修繕費用は考慮外)
・大規模修繕積立金の年間貯蓄額500万円
・法人税率30%
・5年後に大規模修繕を2,100万円で行います。
【解答】
【大規模修繕費用を預金口座で貯蓄した場合の利益と納税額】
年度 | 第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | 第5期 |
---|---|---|---|---|---|
利益 | 1,000万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | ▲1,100万円 |
納税額 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 0万円 |
【大規模修繕費用を生命保険で貯蓄した場合の利益と納税額】
年度 | 第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | 第5期 |
---|---|---|---|---|---|
利益 | 800万円※ | 800万円※ | 800万円※ | 800万円※ | ▲475万円 |
納税額 | 240万円 | 240万円 | 240万円 | 240万円 | 0万円 |
- 大規模修繕費用を生命保険で貯蓄した場合、支払保険料(500万円)のうち40%が経費(損金)になります。
よって、500万円×40%=200万円の経費を追加で計上できるので、利益は、1,000万円-200万円=800万円になります。
第1期~第4期の納税額に注目して両者を比較してください。
大規模修繕費用を預金口座で貯蓄した場合の納税額が300万円なのに対して、大規模修繕費用を生命保険で貯蓄した場合の納税額は240万円です。
大規模修繕費用を生命保険で貯蓄した場合、実に毎年60万円も節税できることが分かります。
生命保険に入れる
大規模修繕費用を「生命保険」で貯蓄するので、会社は代表取締役を保険の対象者とした生命保険に入ることになります。
よって、仮に代表取締役になにかあった場合でも、生命保険金が会社に振り込まれますので、従業員の給料や借入金の返済などの運転資金の枯渇を当面心配しなくてよくなります。
大規模修繕積立金を預金と分別管理できる
中小企業に多い事例ですが、目的別の預金口座を作成しても、何年かすると元々の目的が忘れ去られ、日々の売上や経費清算をするための口座と化してしまうことがあります。
強い意志を持った会社の場合は、預金口座で大規模修繕積立金を貯蓄することも可能でしょうが、出来れば最初から預金口座からは分別して大規模修繕積立金を貯蓄したいものです。
そこで、生命保険で貯蓄すれば、貯蓄額は保険会社の管理下に置かれ、目的が明確になり、さらにお金を引き出すためには、解約するしかないので、一定の心理的制限も働きます。
生命保険で貯蓄を行うことで、大規模修繕積立金を預金と分別管理できることは、大規模修繕積立金を安全に積み立てる上で大きなメリットになります。
生命保険で貯蓄して、支払保険料を経費(損金)にするデメリット
大規模修繕積立金を生命保険で貯蓄して、支払保険料を経費(損金)にするデメリットは以下の3点があります。
- 消費税には関係しない
- 支払った保険料総額≠解約返戻金である
- 大規模修繕を予定時期にやらないと解約返戻金が大幅に減少する
消費税には関係しない
生命保険料の支払額は、消費税法上、非課税になります。
よって、大規模修繕積立金を生命保険で貯蓄した場合の毎年の支払保険料には、法人税の納税額を減らす効果はありますが、消費税の納税額を減らす効果はありません。
また、生命保険の解約返戻金の受取りは、消費税法上、不課税になります。
よって、生命保険の解約返戻金の受取時に消費税の納税額が多くなることもありませんので安心してください。
支払った保険料総額≠解約返戻金である
生命保険で貯蓄して、支払保険料を経費(損金)にするスキームで採用される生命保険の解約返戻率は、85%をぎりぎり下回る必要があります。
つまり、生命保険を解約した段階で、支払った保険料総額の85%弱しかお金は戻ってきません。
よって、支払った保険料総額の15%強のお金が戻ってこないことになります。
大規模修繕を予定した時期に行わないと解約返戻金が大幅に減少する
生命保険契約の組み方次第ですが、大規模修繕費用を貯蓄するために入る生命保険は、ある一定期間を過ぎると解約返戻金が1年ごとに劇的に減っていくことになります。
大規模修繕が1年、2年程度遅くなってもそこまで解約返戻金が減額することはないですが、5年、10年遅くなると解約返戻金はだいぶ減ってしまう可能性があります。
当初計画した時期に必ず大規模修繕を行い、生命保険契約も解約する必要があります。
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