「社長が会社にお金を貸すとき、わざわざ契約書を作る必要はあるの?」——役員借入金は中小企業で最もよくある取引なのに、契約書なしで済まされがちです。
結論はシンプルで、金額にかかわらず金銭消費貸借契約書を作っておくべきです。
契約書がないと、税務調査や相続の場面で「貸したお金」だと証明できず不利益を受けるおそれがあります。
この記事では、不動産業専門の税理士が、役員借入金の契約書の作り方(記載事項8項目)から利息の設定・印紙税・仕訳まで、初心者向けにわかりやすく解説します。
そのまま使える契約書のひな形と記載例(Word)も無料でダウンロードできます。
役員借入金とは?会社と社長のお金は別物
役員借入金とは、役員(社長)が会社に貸したお金のことで、会社側から見た負債の名前です。
会社と役員は法律上の別人格なので、お金も当然別物です。しかし中小企業では役員=出資者であることが多く、財布が事実上一体になりがちです。
役員のお金を会社の運転資金に入れる分には、大きな問題は起きません。
逆に、会社のお金を社長が自由に使うと、事前に届け出ていない役員賞与と認定されるリスクがあります。認定された場合の影響は次のとおりです。
| 立場 | 賞与認定された場合の影響 |
|---|---|
| 会社側 | 賞与とされた金額を損金(≒経費)にできない |
| 役員側 | 所得が増えたものとして所得税・住民税が追加でかかる |
だからこそ、会社と役員の間のお金の移動は「貸し借り」であることを形に残す必要があります。
とはいえ「身内の会社なら契約書は不要では?」と感じる方も多いでしょう。次章でこの疑問にお答えします。
契約書は不要?口頭でも成立するが税務・相続で困る
法律上は契約書がなくてもお金の貸し借りは成立しますが、税務と相続の場面では、契約書がない貸し借りは不利です。
「身内の会社だから契約書は不要」と言われることがあるのは、貸し借り自体は口頭でも有効に成立するからです。
しかし、書面がないと次の場面で困ります。
- 税務調査:会社に入れたお金が「貸付け」だと証明できないと、返済不要の利益(受贈益)と認定されて会社に課税されるおそれ。逆に会社から受け取ったお金は役員賞与と認定されるおそれ
- 相続:役員借入金は社長の相続財産(貸付金債権)。契約書がないと残高や存在の証明が難しく、相続人間や税務署とのトラブルのもと
- 金融機関:決算書の役員借入金について、返済条件などの説明資料を求められることがある
「作らなくても成立する」と「作らなくてもよい」は別の話です。では、何を書けばよいのでしょうか。
金銭消費貸借契約書のひな形:記載事項は8つ
役員借入金の契約書には、次の8項目を入れるのが標準的です。
| 記載事項 | 書き方のポイント |
|---|---|
| ① 貸主・借主 | 貸主=役員個人の氏名、借主=会社名と代表者名 |
| ② 貸付金額 | 「金◯◯円」と確定額で記載 |
| ③ 貸付日・方法 | 振込日と振込口座(通帳記録と一致させる) |
| ④ 返済期限 | 「令和◯年◯月◯日まで」など。分割なら回数・各回金額 |
| ⑤ 返済方法 | 振込・口座・毎月の返済日 |
| ⑥ 利息 | 無利息なら「無利息とする」と明記(後述) |
| ⑦ 遅延損害金・期限の利益喪失 | 入れておくと契約書としての体裁が整う |
| ⑧ 作成日・署名押印 | 貸主・借主双方が保管(2通作成) |
ポイントは③の振込記録との一致です。契約書と通帳がセットで揃ってはじめて、貸付けの実在を証明できます。現金手渡しは記録が残らないため避けましょう。
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次に、迷いやすい「利息をどうするか」を整理します。
利息はどうする?貸す方向で扱いが変わる
利息の税務は、「役員→会社」と「会社→役員」で扱いがまったく異なります。
役員 → 会社に貸す場合(役員借入金)
社長が自分の会社にお金を貸すときは、無利息でかまいません。
役員は利息を受け取っていない以上、課税される所得がなく、会社にも通常、追加の課税は生じないためです。
利息を取る場合は、会社が役員に支払った利息が会社の損金(経費)になります。
利息を受け取った役員には、雑所得として所得税がかかります(会社による源泉徴収は不要)。
なお、給与以外の所得が年20万円以下なら、役員側の所得税の確定申告は不要になります。
1点だけ注意点として、会社が市中金利より明らかに高い利息を役員に支払うと、高すぎる部分が役員への給与と認定されるおそれがあります。利率は市中金利並みにとどめましょう。
会社 → 役員に貸す場合(役員貸付金・参考)
逆に、会社が役員にお金を貸す場合は扱いが厳しくなります。無利息や低すぎる利率で貸すと、課税の問題が生じます。
まず役員側では、本来支払うべき利息(国税庁が定める利率で計算したもの)と、実際に支払った利息との差額に、役員への給与として所得税がかかります。
会社側では、その差額を受取利息として収益に計上し、同じ金額を役員への給与として扱います。
給与とした分には源泉徴収が必要です。
この給与課税を避けるには、会社が、貸付けを行った年に応じた利率(令和4〜7年中の貸付は年0.9%)以上の利息を取っておく必要があります。
最新の利率は国税庁タックスアンサーNo.2606で確認してください。
次は、契約書に貼る印紙の話です。
印紙税はいくら?金銭消費貸借契約書は課税文書
金銭消費貸借契約書は印紙税の第1号文書にあたり、記載した金額に応じた収入印紙が必要です(国税庁No.7140)。
| 契約書に記載した金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上10万円以下 | 200円 |
| 10万円超〜50万円以下 | 400円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 1,000円 |
| 100万円超〜500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 2万円 |
| 金額の記載がないもの | 200円 |
収入印紙を節約するには、甲乙双方が署名押印した原本を1通だけ作成して会社が保管し、役員はそのコピーを保管する方法があります。単なるコピーは課税対象にならないため、印紙は原本1通分で済みます(国税庁No.7120)。契約そのものは当事者の合意によって有効に成立しているため、原本が1通でも契約の効力に影響はありません。万一争いになった場合は、双方の署名押印が写ったコピーも契約内容の証拠になります。
契約書が整ったら、あとは帳簿に正しく記録するだけです。
役員借入金の仕訳
仕訳はシンプルで、借りたとき=役員借入金(負債)の増加、返したとき=減少です。
【例】社長から会社が運転資金300万円を借り入れた(無利息・期限1年):
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 300万円 | 役員借入金 | 300万円 |
期限に全額を返済した:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員借入金 | 300万円 | 現金預金 | 300万円 |
利息を支払う場合は、会社側と役員側で次のように取り扱います。
まず会社側です。
役員から300万円を年1.0%で借りていて、当月分の利息2,500円を普通預金から支払った場合、仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 支払利息 | 2,500円 | 普通預金 | 2,500円 |
この支払利息は損金に算入できます。
また、支払先が個人である役員でも、源泉徴収は不要です。
源泉徴収が必要な利子は、預貯金の利子や公社債の利子などに限られるためです。
一方、利息を受け取った役員側では、その利息は雑所得として所得税の課税対象になります。
給与のように源泉徴収されないため、原則として確定申告で申告します。
ただし、給与以外の所得の合計が年20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要になります。
最後に、役員借入金を放置した場合の最大のリスクを確認します。
放置は危険:役員借入金は社長の相続財産になる
役員借入金は、社長から見れば会社への貸付金=財産であり、亡くなったときは相続財産として相続税の対象になります。
しかも貸付金債権は原則として額面(元本+未収利息)で評価されます(財産評価基本通達204)。
会社の業績が悪く実際には返してもらえそうになくても、回収不能と認められる場合は限定的で、額面で課税されるのが原則です。
役員借入金が大きく膨らんでいる会社は、早めに残高を減らす対策を検討しましょう。
具体的な方法は次の記事で解説しています。
以上を踏まえて、要点をまとめます。
まとめ:貸し借りの証拠を「契約書+振込記録」で残す
役員借入金の管理は、「契約書を作る → 振込で記録を残す → 帳簿に記録する」の3点セットが基本です。
- 契約書は8つの記載事項(貸主借主・金額・貸付日・返済条件・利息など)を押さえる
- 役員→会社は無利息でも課税されないのが一般的。会社→役員の無利息は給与課税に注意
- 紙の契約書には金額に応じた収入印紙が必要。1通をコピーで済ませれば、印紙代の節約になる
- 役員借入金は社長の相続財産(原則額面評価)。膨らむ前に清算も検討
【参考】国税庁の公式情報
- タックスアンサーNo.7140「印紙税額の一覧表(その1)」
- 4タックスアンサーNo.7120「契約書の写し、副本、謄本など」
- タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」
- 財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)
よくある質問
- 契約書を作らずに貸し借りした分は、どうすればいいですか?
-
今からでも契約書を作る意味があります。
契約書がないままだと、税務調査で貸付けの実在を疑われたときや、社長に相続が起きたときに、貸付けの金額や条件を証明する手段がないためです。
具体的には、過去の貸付日・金額を通帳の記録で特定し、現在の残高を確認したうえで、債務承認弁済契約書(=これまでの借入残高を確認し、返済条件を定める契約書)を作成する方法が実務的です。
なお、過去の日付にさかのぼって契約書を作るのは避けてください。
- 会社と社長の貸し借りに、株主総会や取締役会の承認は必要ですか?
-
会社から役員へ貸す場合は利益相反取引にあたるため、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認が必要です。
役員から会社へ無利息で貸す場合は、会社が一方的に利益を受けるため原則承認不要とされていますが、利息を取る場合は承認を得ておくと安全です。
- 毎月少しずつ会社にお金を入れています。その都度契約書が必要ですか?
-
貸付けの上限額(極度額)と基本条件を定めた基本契約書を1本作り、個別の貸付けは振込記録で管理する方法が実務的です。
年に1回、残高を確認する書面を作っておくとより確実です。
- 社長への返済はいつでもしていいですか?
-
構いません。
役員借入金の返済自体には税金はかかりません(元本の返済は社長の所得にならない)。
ただし資金繰りを崩さない範囲で計画的に返済し、帳簿と契約書の残高を一致させておきましょう。


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