- 不動産売却を考えている個人事業主
- 不動産を所有している個人事業主
おさる先生!
利益が出そうだから、不動産の売却を考えてるんだけど、税金はどんな感じになるのかな?
お、景気のいい話だね。
くま君は個人事業主だったよね。
うん、個人事業主として不動産賃貸業を行っているよ。
そうなんだね。
個人事業主が不動産を売却する場合「譲渡所得」という区分になるんだ。
譲渡所得は「分離課税」と言われて、不動産所得とは合算して計算できないんだ。
どういうこと?
つまり、不動産を売却して利益が出た場合、その発生した利益単体で税金の計算がされるんだ。
反対に不動産を売却して損失が出た場合、その損失は不動産所得の利益と相殺することはできないんだ。
利益が出たときは税金を払わなくてはならないのに、損失が出たら救済されないということだね。
なんか釈然としないね。
そうなんだ。
法人の場合は利益が出ても、損失が出てもほかの利益や損失と合算できるんだけど、個人事業主の場合は不動産売却という単体の行為のみで税金を判断されてしまうんだ。
注意が必要だね。
へー
それと、くま君は今度売却する不動産を所有してから何年になるの?
うーん、8年目だよ。
それなら長期譲渡所得になるから良かったね。
長期譲渡所得?
うん、個人事業主が不動産を5年超所有していると、課税される所得税率が低くなるんだ。
不動産の所有期間が5年以下だと「短期譲渡所得」と呼ばれて、利益に対して所得税率は39%なんだけど、5年超だと「長期譲渡所得」と呼ばれて利益に対して所得税率は20%なんだ。
不動産を5年超所有すると、所得税率は半分になるんだね。
全然違うんだね。
個人事業主が不動産を売却する時の税金
個人事業主が所有している不動産を売却した場合の税金は、所得税・住民税の譲渡所得という区分に該当します。
不動産賃貸業で得られる家賃に対する税金は、所得税・住民税の不動産所得に該当し、給与所得や事業所得などと合算して計算することができました(総合課税と言います)。
しかし、譲渡所得は総合課税にはならず、単独で所得税・住民税の計算を行うことになります(分離課税)。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得も所得税・住民税の内訳の1つなので、1月1日~12月31日の期間で区切られ、翌年3月15日までに確定申告することになります。
譲渡所得の計算式は以下のようになります。
譲渡所得=売却金額―(帳簿価額+譲渡費用)
譲渡所得税額=譲渡所得×税率
売却金額
売却金額とは不動産を売却した値段+固定資産税の日割りの清算金となります。
帳簿価額
帳簿価額とは、不動産の購入価額―減価償却累計額(毎年の減価償却費の合計値)となります。
なお、土地の場合は減価償却はないので、帳簿価額=取得価額になります。
譲渡費用
譲渡費用は立退料(身内以外)、抵当権の抹消登記費用、仲介手数料などが該当します。
なお、譲渡費用は、不動産売却のために直接要した費用や譲渡価額を増加させるために支出した費用のことです。
不動産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないので注意が必要です。
例えば、不動産を売却するためのゴミ捨て費用、修繕費、固定資産税などは譲渡費用には含まれず、不動産所得の必要経費になる可能性が高いのでご注意ください。
税率
不動産の保有期間の長短で税率が変わってきます。
不動産の保有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得になり、39%(所得税率30%、住民税率9%)の税率になります。
不動産の保有期間が5年超の場合は、長期譲渡所得になり、20%(所得税率15%、住民税率5%)の税率になります。
なお、2011年の東日本大震災の影響で2037年まで、復興特別所得税2.1%が別途所得税率に加算されますので、短期譲渡所得、長期譲渡所得ともに少しだけ上記の税率より高くなっています。
譲渡所得がプラスで不動産を売却するなら5年間待とう!
譲渡所得がプラスの場合は、譲渡所得税がかかることになります。
個人事業主の場合の、譲渡所得に対する税率は、保有期間が5年超かどうかで19%も違います。
よって、譲渡所得がプラスで不動産を売却する場合、保有期間が5年超になってから売却した方がよいです。
ただし、保有期間5年超について、非常に重要な注意点が1つだけあります。
税法上の保有期間の計算の終点は譲渡のあった年の1月1日時点であるということです。
まずは、以下の例題で確認してみてください。
- 不動産の購入日と売却日が以下の場合に税法上の長期譲渡所得にあたるか判定してください。
・購入日:×1年2月28日
・売却日:×6年5月31日 - 【解答】
長期譲渡所得にはあたりません。【解説】
×1年2月28日~×6年5月31日までの実質的な保有期間は5年3か月です。
しかし、税法上の譲渡所得の長短分類の判定では、×6年1月1日までしか保有したことになりませんので、×1年2月28日~×6年1月1日までの4年10か月が保有期間となります。
よって、税法上の譲渡所得の長短分類の判定上は、5年超保有していないので、長期譲渡所得には該当しません。
上記の例題でも分かる通り、実質的には5年超保有期間が過ぎていても、税法上は5年以下の保有期間にされてしまうことがあります。
実質的な所有期間が5年ぎりぎりだと、長期譲渡所得にしたつもりが短期譲渡所得として扱われ、税率が19%も違うということになりかねませんので注意しましょう。
譲渡所得がマイナスの場合
譲渡所得がマイナスの場合は不動産所得や給与所得と相殺できずに切り捨てられることになります。
難しい言い方をすると分離課税のため、総合課税とは損益通算できないということになります。
また、譲渡所得がマイナスの場合に、マイナス分を翌年まで繰り越すというような繰越制度もないです。
つまり、譲渡所得がマイナスの場合には、そのまま終了で、他の所得に影響を及ぼして、税額を減らすことができないという非常に厳しい税制になっています。
会社などの場合は、不動産売却から譲渡損失が出ても、他の利益と相殺できるようになっているので、個人事業主だけ救われない税制です。
会社の税制と同じで譲渡所得のマイナスが救済される可能性があると誤解されている場合が多いので注意しましょう。