二世帯住宅に居住していた被相続人が老人ホームに入居した場合、二世帯住宅に区分所有建物登記があるかないかで小規模宅地等の特例を適用できるかどうかが大きく異なってきます。
以前は、二世帯住宅の建物の構造によっても、老人ホームに入居した被相続人の小規模宅地等の特例の適用要件が違いました。
しかし、現在はどのような二世帯住宅の建物の構造であっても、老人ホームに入居した被相続人の小規模宅地等の特例の適用要件は変わりません。
以下で区分所有建物登記の有無による判定の違いをみていきましょう。
区分所有建物登記がない場合
具体的なイメージがつきやすいように事例で確認していきましょう。
【事例1】
父親所有の宅地に、父親と長男が完全分離型の二世帯住宅(玄関が2つあり、内部に内ドアがない)を建てています。
1階に父親と母親が2階に長男家族が生活していました(別生計)。
両親が高齢になり、要介護認定を受けたので、老人ホームに入居し、1階は現在空き家です。
建物について区分所有建物の登記はなされていません。
通常の二世帯住宅は、建物内部で行き来出来るため、1軒家として扱われ、被相続人と親族は同居していると判断されます。
しかし、完全分離型の二世帯住宅の場合、建物内部に内ドアがないため、一旦玄関から外に出なければ、世帯間で行き来できません。
かつては、世帯間が内部で行き来できない以上、完全分離型の二世帯住宅は、同居に当たらないと判断されていましたが、現在の小規模宅地等の特例では、完全分離型の二世帯住宅でも、被相続人と親族が同居しているとみなされることになっています。
つまり、本事例では、父親(被相続人)と長男(親族)は同居している状態にありました。
しかし、両親共に要介護認定を受け、老人ホームに入居してしまいました。
一見すると、父(被相続人)と長男(親族)の同居は解除されてしまったように見えますが、小規模宅地等の特例では、たとえ、被相続人が老人ホームに入居をしても、同居を続けているとみなすことが出来るとしています。
よって、父親(被相続人)が死亡した場合、配偶者が宅地を相続すれば、配偶者特例を適用でき、長男が宅地を相続すれば、同居特例が適用でき、いずれにしても特定居住用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できることになります。
区分所有建物登記がある場合
具体的なイメージがつきやすいように事例で確認していきましょう。
内容としては、区分所有建物登記がある旨以外は【事例1】と同じです。
【事例2】
父親所有の宅地に、父親と長男が完全分離型の二世帯住宅(玄関が2つあり、内部に内ドアがない)を建てています。
1階に父親と母親が2階に長男家族が生活していました(別生計)。
両親が高齢になり、要介護認定を受けたので、老人ホームに入居し、1階は現在空き家です。
建物について区分所有建物の登記がなされています。
区分所有建物登記があると、1階と2階は別の建物と認定され、1階の父親(被相続人)の居住部分についてのみ、小規模宅地等の特例を適用できる可能性が残されます(2階部分は同一生計に該当しない限り×)。
母親が1階部分の宅地を相続する場合は、配偶者特例で小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できますが、長男が1階部分の宅地を相続してしまうと、小規模宅地等の特例は適用できないことになります。
まとめ
要介護又は要支援認定を受けて、老人ホームに入居する場合は、老人ホームの種類はほぼ関係なく(但し、未届けの施設の場合は×なので注意)、小規模宅地等の特例を適用することが出来ます。
しかし、二世帯住宅に区分所有建物の登記がある場合、二世帯住宅に実際に住んでいる親族は、小規模宅地等の特例の適用上不利になる可能性が高いので注意が必要です。
小規模宅地等の特例を適用する可能性がある場合全般で言えることですが、区分所有建物登記は極力排除しておくことが重要になります。