公認会計士・税理士事務所を10年経営し、不動産業務にも直接携わってきた経験をもとに、「不動産業を営む小規模会社の経理・税務マニュアル」をシリーズでまとめています。
今回は、小規模会社(目安:従業員10名未満)で必要になる仕訳と勘定科目について解説します。不動産業に限らず、あらゆる業種の小規模会社に共通する内容ですので、ぜひ参考にしてください。
仕訳(記帳)とは?まず基本をおさえよう
小規模会社の経理・税務業務の核心は、日々の取引を「仕訳」という形式に変換して記録すること(記帳)です。
仕訳とは、発生したすべての取引を「借方(左側)」と「貸方(右側)」に分け、勘定科目と金額を帳簿に記録する会計処理のことです。仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿は、国税庁の定めにより7年間の保存義務があります(※国税庁「帳簿の記帳のしかた」より)。
仕訳の基本ルールは、取引を「資産・負債・純資産・収益・費用」の5区分に分類し、それぞれの増減に応じて借方・貸方に記録することです。下表で確認してみましょう。
| 区分 | 内容・例 | 増加時 | 減少時 |
|---|---|---|---|
| 資産 | 現金・普通預金・売掛金・固定資産など | 借方(左) | 貸方(右) |
| 負債 | 借入金・未払金・買掛金など | 貸方(右) | 借方(左) |
| 純資産 | 資本金・利益剰余金など | 貸方(右) | 借方(左) |
| 収益 | 売上高・受取利息など | 貸方(右) | 借方(左) |
| 費用 | 交際費・広告宣伝費・支払利息など | 借方(左) | 貸方(右) |
小規模会社で必ず押さえるべき3つの仕訳
小規模会社で日常的に発生する仕訳は、主に次の3種類に集約されます。それ以外の仕訳は、これら3つをサポートするための「調整仕訳」です。
- ① 売上高(益金)の仕訳
- ② 経費(損金)の仕訳
- ③ 借入金の仕訳(融資実行時・月次返済時・繰上返済時)
① 売上高(益金)の仕訳
売上が発生した際の基本的な仕訳です。売上を現金や銀行振込で受け取った場合と、後日回収する売掛金が発生した場合で仕訳が異なります。
| ケース | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| 銀行振込で売上100万円を受領 | 普通預金 100万円 | 売上高 100万円 |
| 売掛金100万円が口座に入金 | 普通預金 100万円 | 売掛金 100万円 |
| 翌月回収の売上100万円が発生 | 売掛金 100万円 | 売上高 100万円 |
② 経費(損金)の仕訳
経費を支出した際の仕訳です。支払い方法(現金・銀行振込・クレジットカード)によって貸方の勘定科目が変わります。
| ケース | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| 広告費5万円を現金で支払い | 広告宣伝費 5万円 | 現金 5万円 |
| 事務用品3万円を口座振替で支払い | 消耗品費 3万円 | 普通預金 3万円 |
| 交際費2万円をカードで支払い | 交際費 2万円 | 未払費用 2万円 |
経費(損金)の注意点:交際費は税務上の損金算入に上限があります。資本金1億円以下の中小企業の場合、年間800万円まで全額損金算入できます(※国税庁「交際費等(飲食費)の損金不算入」より)。正確な仕訳と証拠書類の保存を徹底しましょう。
③ 借入金の仕訳
融資に関する仕訳は「融資実行時」「月次返済時」「繰上返済時」の3つのタイミングで発生します。借入金の元本返済は経費にはなりませんが、利息(支払利息)は経費として計上できます(※国税庁「利子税等の損金算入」より)。
| タイミング | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| 融資実行時(500万円が口座に入金) | 普通預金 500万円 | 長期借入金 500万円 |
| 月次返済時(元本10万円+利息5千円) | 長期借入金 10万円 支払利息 5千円 | 普通預金 10万5千円 |
| 繰上返済時(残元本50万円を一括返済) | 長期借入金 50万円 | 普通預金 50万円 |
短期・長期借入金の使い分け:返済期限が1年以内の借入金は「短期借入金」、1年超は「長期借入金」を使用します。長期借入金のうち、翌期中に返済期限が来る分は「一年以内返済長期借入金」に振り替えると、貸借対照表がより正確になります。
仕訳の確認方法:会計ソフトとエクスポート機能
記帳した仕訳は、会計ソフトで管理・確認するのが基本です。主要な会計ソフトの特徴を下表で比較します。
| ソフト名 | 特徴 | こんな会社に向いている |
|---|---|---|
| 弥生会計 | 操作が安定しており、税理士との共有に強い | 税理士と連携したい会社 |
| freee | 銀行口座・カードと自動連携。UI直感的 | 経理初心者・スタートアップ |
| マネーフォワード | 金融機関との連携数が多く自動仕訳が充実 | 複数口座・カードを持つ会社 |
会計ソフトの画面が使いにくい場合は、エクスポート機能を活用してExcelで仕訳データを確認することもできます。自分の使いやすい方法で記帳内容を把握しましょう。
小規模会社で必要になる勘定科目について
勘定科目とは、会社の取引内容を分かりやすく分類するために使う簿記上の項目(ラベル)のことです。「資産・負債・純資産・収益・費用」の5区分に分類されます。具体例として、売上高・交際費・減価償却費・普通預金・借入金などがあります。
小規模会社でよく使う勘定科目一覧
| 区分 | 主な勘定科目 | 内容 |
|---|---|---|
| 収益 | 売上高 | 本業の売上 |
| 受取利息 | 預金等から受け取る利息 | |
| 雑収入 | 本業以外の小額収入 | |
| 受取家賃 | 不動産賃貸による収入 | |
| 費用 | 給料手当 | 役員・従業員への給与 |
| 広告宣伝費 | チラシ・Web広告など | |
| 交際費 | 取引先との飲食・贈答品 | |
| 消耗品費 | 文具・備品(10万円未満) | |
| 減価償却費 | 固定資産の年間償却額 | |
| 支払利息 | 借入金の利息 | |
| 租税公課 | 固定資産税・印紙税など | |
| 法人税・住民税及び事業税 | 法人税等の税金 | |
| 資産 | 現金 | 手元現金 |
| 普通預金 | 銀行口座の預金残高 | |
| 売掛金 | 未回収の売上代金 | |
| 負債 | 短期借入金 | 1年以内に返済の借入金 |
| 長期借入金 | 1年超の返済の借入金 |
勘定科目の初期設定と追加のポイント
会計ソフトにはあらかじめ一般的な勘定科目が登録されているため、まずは初期設定の勘定科目だけで記帳を始めて問題ありません。慣れてきたら、会社独自の取引内容に合わせた勘定科目を追加していきましょう。
補助科目の活用で経理業務を効率化しよう
補助科目とは、勘定科目の下に紐づく「補助の」科目です。例えば「普通預金」という勘定科目の下に「三菱UFJ銀行」「三井住友銀行」と補助科目を設定すれば、銀行ごとの残高を個別管理でき、通帳との照合が格段に楽になります。
補助科目の活用例をまとめました。
| 勘定科目 | 補助科目の例 | メリット |
|---|---|---|
| 普通預金 | ○○銀行、△△信用金庫 | 銀行ごとの残高確認・通帳照合が容易 |
| 売掛金 | 得意先A社、得意先B社 | 取引先ごとの未収金を一目で把握 |
| 長期借入金 | ○○銀行融資、△△公庫 | 金融機関ごとの残高と返済状況を管理 |
| 広告宣伝費 | チラシ制作、Web広告、看板 | 媒体別の広告コストを分析できる |
帳簿・書類の保存期間(国税庁ルール)
記帳した帳簿や関係書類には、税法上の保存義務があります。保存期間を誤ると税務調査で不利になるため、必ず確認しておきましょう。
| 書類の種類 | 具体例 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、固定資産台帳 など | 7年 |
| 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表 など | 7年 |
| 現金・預金関係書類 | 領収証、預金通帳、借用証 など | 7年 |
| その他の書類 | 請求書、見積書、契約書、納品書 など | 5年 |
※出典:国税庁「帳簿の記帳のしかた」(事業所得者用)
電子帳簿保存法への対応:メールや請求書ソフトで電子データとしてやり取りした領収書・請求書は、紙に印刷して保存することができなくなっています。電子データのまま保存することが義務づけられていますので注意してください(※国税庁「電子帳簿保存法」より)。
勘定科目の定期見直しと引継ぎのルール
不要な勘定科目は定期的に削除しよう
勘定科目を追加していくと、使わなくなった科目が増えてきます。数年に一度は棚卸しを行い、不要な科目は削除してください。目安として、7年以上使用していない勘定科目は削除しましょう(帳簿の法定保存期間が7年のため)。
経理担当者が変わるときは必ず引継ぎを
経理担当者が交代した際は、勘定科目の選択ルールを前任者から後任者へしっかり引き継ぐことが重要です。引継ぎが不十分だと仕訳ミスが増え、決算処理に影響が出ます。
📋 引継ぎ時に確認すべき主なポイント
- 自社で独自に作成した勘定科目の一覧と使用ルール
- 補助科目の登録内容と意味
- よく使う仕訳パターンとその根拠(領収書・契約書の保管場所も含む)
- 会計ソフトへのログイン情報と操作マニュアル
まとめ
小規模会社の経理・税務は、「売上高の仕訳」「経費の仕訳」「借入金の仕訳」という3つの仕訳を軸に成り立っています。使用する勘定科目も一般の大企業に比べてシンプルで、会計ソフトの初期設定だけでも日常業務をこなすことが可能です。
ただし、作業効率と正確性を高めるためには、自社の実態に合わせた勘定科目の追加・整理、そして補助科目の活用がおすすめです。また、帳簿の保存期間(最低5〜7年)や電子帳簿保存法への対応も忘れずに確認してください。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 3つの必須仕訳 | 売上高・経費・借入金の仕訳を正確に行う |
| 勘定科目の設定 | 初期設定で始め、慣れたら自社用に追加・整理 |
| 補助科目の活用 | 銀行名・得意先名を登録して照合業務を効率化 |
| 帳簿保存 | 帳簿・決算書類は7年、その他の書類は5年保存 |
| 電子帳簿保存法 | 電子データで受領した書類は電子保存が義務 |
| 不使用科目の削除 | 7年以上未使用の勘定科目は定期的に削除 |
| 担当者引継ぎ | 交代時は勘定科目の選択ルールを必ず引き継ぐ |


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