「中小企業の実質上の株主が誰であるか?」ということは、毎年納税する法人税や消費税では問題になりません。
しかし、中小企業の経営者や前経営者が死亡し、相続が発生した場合、中小企業の実質上の株主が誰であるかを把握していないと、名義株の問題が生じ、相続税法上、多大な損害を被ることになります。
今回は中小企業の名義株を相続財産にしないための対策について解説していきます。
名義株とは
名義株とは、株主名簿に記録されている株主とその株式の実質的な所有者とが一致していない株式のことです。
会社では株主名簿を作成することが、会社法122条で義務化されていますが、中小企業の場合、株主名簿の利用機会がほぼないので、株主名簿が作成されていなかったり、株主名簿が作成されていても更新がなされていないことが多々あります。
よって、中小企業では、株主名簿上の株主と実際の株主とが一致していないという状況が生じ、名義株が発生しているケースがあります。
名義株の相続税法上の問題について
相続時に被相続人(亡くなった人)が所有していた株式は、前述の通り、株主名簿より把握できます。
また、株主名簿が作成されていなかったり、更新がされていなかったりする可能性があるので、法人税申告書の別表2同族会社等の判定に関する明細書という書類も併せて確認します。
ただし、中小企業の場合、必ずしも株主名簿や同族会社等の判定に関する明細書の株主構成と実際の株主構成が一致しない場合があります。
その場合、株主名簿や同族会社等の判定に関する明細書の記載内容ではなく、実質上の所有者は誰であるかで相続税法上の株主は判定されます。
そして、最悪の場合、被相続人(亡くなった人)が、すでに株式を所有していなくても、実質上の株式の所有者として、名義株を相続財産として申告しなければならなくなります。
最近の相続税の税務調査における申告漏れの状況でも約300憶円~400億円(全体の約10%)の有価証券の申告漏れが確認されており、名義株の論点は名義預金の論点と同じく最重要課題だということが分かります。
名義株を相続財産にしないための対策
では、なぜ株主名簿や同族会社等の判定に関する明細書に記録されている株主構成と実際の株主構成が一致しなくなるかというと、現経営者が後継者に株式の移動(贈与や譲渡)を行っている場合に、変更手続きをする人(経理・総務担当者や税理士等)との情報共有が十分でない場合があるからです。
よって、株式の移動(贈与や譲渡)を行う際には、必要な書類を作成し、変更手続きをする人に対して情報共有をしておくことが大切になります。
ただし、それでも中小企業の場合、経理・総務担当者の変更や税理士の交代などで情報共有が上手くいかず、名義株が発生することがあります。
その場合でも、名義株を相続財産にしないために、株式の移転(贈与や譲渡)の際に以下の注意点を意識して手続きを行いましょう。
贈与の場合
贈与で一番大切なことは相手方も贈与を受諾することです。
贈与は口頭でも成立しますが、相続時に贈与無効による名義株の存在を疑われないように、贈与者と受贈者の両方のサインが入った贈与契約書を残しておくべきです。
なお、贈与者(=現経営者)が「独断で」株式の贈与契約書を作成し、残しておいても、受贈者(=後継者)が株式の贈与のことを知らず、「株式などもらっていない」と回答してしまえば、相続時に名義株と判断され、相続財産になる可能性があります。
必ず、株式を贈与する旨を後継者に伝えて、贈与契約書に承諾のサインをしてもらいましょう。
ちなみに、後継者の承諾をとっていないと贈与契約書は契約が成立していないので、時効も成立しません。
よって、贈与から10年が経過しても、贈与契約は初めから無いので、株式の所有は現経営者とみなされ、相続税法上は名義株の扱いになり、相続財産になってしまいます。
譲渡の場合
株式の譲渡が行われる場合、譲渡契約書の作成と所得税の申告(譲渡所得)・納税が必要になります。
贈与と違い、対価の支払いなどが行われており、現経営者単独での株式移動は難しくなります。
よって、譲渡が行われている場合、名義株が発生する可能性は低いです。
ただし、現経営者が所有している後継者の通帳で譲渡資金を移動をしている場合、名義株が相続財産になってしまう可能性が出てくるので、注意してください。
最後に
税務署に名義株が相続財産になると判断された場合、追加の相続税を負担をするのは、後継者になります。
名義株が相続財産として認定されないための対策はいろいろありますが、まずは、①株式の移転(贈与や譲渡)の手続きをきちんと契約書として書面化し、②株主名簿や同族会社等の判定に関する明細書が実際の株主を表しているかを確認していくことが必要になります。