- 青色申告特別控除とは何かを知りたい個人事業主
- 青色申告特別控除の金額分岐の条件を知りたい個人事業主
- 青色申告特別控除を適用する場合の節税額を知りたい個人事業主
- 青色申告特別控除のその他の要点を知りたい個人事業主
青色申告制度とは?
日本の所得税は、納税者が自分で所得金額を計算し、納税するという申告納税制度を採用しています。
事業年度(1月1日〜12月31日)の間に生じた所得金額を計算し、申告するためには、収入金額や必要経費に関する日々の取引の状況を記録(記帳と言います)し、記帳した書類を保存しておく必要があります。
そして、真面目に記帳を行い、記帳した書類をきちんと保存している個人事業主を優遇するために、所得金額の計算について有利な取扱いが受けられる青色申告制度というものがあります。
個人事業主の所得で青色申告の対象になるのは、 不動産所得と事業所得についてです。
青色申告になるための手続き
個人事業主で青色申告の適用を受けたい場合は、その年の3月15日までに青色申告承認申請書を事業を行っている場所の最寄りの税務署(納税地の所轄税務署長)に提出してください。
ただし、その年の1月16日以降に新規開業した場合は、その年の3月15日までではなく、事業を開始した日から2か月以内に青色申告承認申請書を事業を行っている場所の最寄りの税務署(納税地の所轄税務署長)に提出してください。
青色申告特別控除とは?
青色申告をしている個人事業主に対して税務署は種々の特典を認めていますが、その一つに青色申告特別控除というものがあります。
青色申告特別控除は所得金額から一定金額だけ直接控除できる制度で、おおよそ、青色申告特別控除額×税率分(所得税と住民税の税率)だけ節税できる制度です。
一定金額(青色申告特別控除額)は条件に応じて、10万円、55万円、65万円の3パターンがあります。
青色申告特別控除額を65万円にするための条件
青色申告特別控除額を65万円にするための条件は3つのパターンの中で一番難しくなりますが、会計ソフト(やよいの青色申告やfreeeなど)の発達により、現在では意外に簡単に達成できてしまいます。
- 所得の種類が不動産所得又は事業所得であること
- 複式簿記により記帳していること(≒青色申告用の会計ソフトを利用していること)
- 貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、青色申告特別控除の適用金額を確定申告書に記載して、法定申告期限内に提出すること。
- e-Taxによる電子申告又は電子帳簿保存をすること
青色申告特別控除額を55万円にするための条件
青色申告特別控除額を55万円にするための条件は、青色申告特別控除額を65万円にする条件の4番目にあった電子申告や電子帳簿保存を除いた条件を満たすことです。
- 所得の種類が不動産所得又は事業所得であること
- 複式簿記により記帳していること(≒青色申告用の会計ソフトを利用していること)
- 貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、青色申告特別控除の適用金額を確定申告書に記載して、法定申告期限内に提出すること。
青色申告特別控除額が10万円違うということは、納税額が最大で5.5万円(最小で1.5万円)変わってくることを意味します。
よって、電子申告や電子帳簿保存を行う手間が増えるのに、最大5.5万円(最小1.5万円)の価値があるかを個人事業主ごとに判断する必要が出てきます。
青色申告特別控除額を10万円にするための条件
青色申告特別控除額が10万円になってしまう条件は、青色申告の承認を受けていながら、55万円の青色申告特別控除の条件を満たしていない場合です。
経理実務で考えた場合、会計ソフト(やよいの青色申告やfreeeなど)の発達により、むしろ、55万円の青色申告特別控除の条件を満たさない方が非常に難しくなっています。
よって、意図的に青色申告特別控除額を10万円にしないといけない場合は、ほぼ以下の2点の場合のみだと考えられます。
- 所得が不動産所得のみで事業的規模の基準(5棟10室など)を満たしてない場合
- 経理処理方法が現金主義になっている場合(期末に見越繰延処理を行っていない場合)
現金主義とは、売上、仕入、経費を入出金日に仕訳する方法で、個人事業主の期中の取引は、通帳などと整合させるために、現金主義で経理処理されていることが圧倒的に多いです。
よって、青色申告特別控除を10万円から55万円に引き上げるためには、期末時点ですでに取引が終わっているけど、入出金が翌期になるものを未収・未払い・前受・前払いなどの見越繰延の勘定科目で追加仕訳してやる必要が出てきます。
青色申告特別控除の節税額はどれくらいになるのか?
所得税の税率は所得金額が多くなるほど高くなっていきます(累進課税方式と言います)。
それに対して、住民税の税率は所得金額が多くなっても10%で不変となっています。
所得金額に対する所得税率と住民税率の関係をまとめると以下の表のようになります。
所得金額
|
所得税率
|
住民税率
|
---|---|---|
195万以下
|
5%
|
10%
|
195万超〜330万以下
|
10%
|
10%
|
330万超〜695万以下
|
20%
|
10%
|
695万超〜900万以下
|
23%
|
10%
|
900万超〜1800万以下
|
33%
|
10%
|
1800万超〜4000万以下
|
40%
|
10%
|
4,000万超
|
45%
|
10%
|
上記の表からも分かるように、所得の金額が多くなるほど、所得税率も上がるため、青色申告特別控除の節税額は多くなっていきます。
青色申告特別控除の所得金額別の節税額をまとめると以下のようになります。
所得金額
|
65万控除
|
55万控除
|
10万控除
|
---|---|---|---|
195万以下
|
9.75万
|
8.25万
|
1.5万
|
195万超〜330万以下
|
13万
|
11万
|
2万
|
330万超〜695万以下
|
19.5万
|
16.5万
|
3万
|
695万超〜900万以下
|
21.45万
|
18.15万
|
3.3万
|
900万超〜1800万以下
|
27.95万
|
23.65万
|
4.3万
|
1800万超〜4000万以下
|
32.5万
|
27.5万
|
5万
|
4,000万超
|
35.75万
|
30.25万
|
5.5万
|
上記のような所得税と住民税の税率を考慮すると、青色申告特別控除を利用すれば、最小で1.5万円、最大で35.75万円の節税効果が期待できます。
青色申告特別控除の要点
最後に、青色申告特別控除を利用する際の要点をQ&A形式でまとめていきます。
- 青色申告特別控除の対象になる所得は?
青色申告特別控除で控除される所得の順番は? - 青色申告特別控除の対象になる所得は不動産所得と事業所得です。
青色申告特別控除が行われる所得の順番ですが、①不動産所得⇒②事業所得の順番になります。
例えば、不動産所得+20万、事業所得+100万の場合、不動産所得は65万円の控除を受けようとしても20万円までしか控除できません。
次に、事業所得が100万円あるので、青色申告特別控除のあまり45万円(65万円ー20万円)を事業所得から控除できることになります。
そうすると、事業所得は100万円―45万円=55万円となります。
- 青色申告特別控除65万円より当期の所得金額の方が少なくて控除しきれなかった場合は、翌年度に余った青色申告特別控除の金額を繰り越せますか?
- 翌年度に当年度の青色申告特別控除の余り金額を繰り越せません。
例えば、当期の不動産所得が20万、事業所得が30万しかなかった場合、65万円―20万円―30万円=15万円が控除しきれなったことになります。
その場合でも、翌年度に65万円+15万円=80万円を控除することはできません(翌年度も青色申告特別控除額は65万円のままです)。
- 不動産所得が事業的規模でない場合は、「事業所得があっても」控除できる金額は10万円?
- 一般的に、マンションやアパートを5棟10室以上保有していないと不動産所得は事業的規模とみなされません。
不動産所得が事業的規模とみなされないと、不動産所得に対する青色申告特別控除の上限額は10万に減額されてしまいます。
ただし、不動産取得以外に事業所得が別にあれば、合計で65万円の特別控除を受けることができます。
- 青色申告特別控除65万円は期中の経理処理が現金主義の場合適用できない?
- 経理処理方法が現金主義の場合、青色申告特別控除は65万円ではなく、10万円になってしまいます。
ただし、多くの個人事業主の場合、期中は通帳や現金の残高との兼ね合いで現金主義で経理処理をしています。
期末日を迎えてそのまま決算書を作成すると当然現金主義で経理処理したことになり、10万円の青色申告特別控除しか適用できません。
ただし、期末日後に決算整理仕訳などで未収・未払い・前払い・前受などの費用収益の見越し、繰延処理をしてやれば、経理処理方法を発生主義に修正でき、65万円の青色申告特別控除を受けられると考えられます。