賃貸物件の入居者が退去し、大家が古くなった台所を新しいシステムキッチンに取り替えた——。その工事代金は、修繕費としてその年に全額を経費にできるのでしょうか。
多くの大家は「修理だから修繕費になる」と考えますが、答えは少し異なります。
システムキッチンへの全面的な取替えは、原則として資本的支出になります。
資本的支出とは、払った年に全額を経費にできず、何年かに分けて少しずつ経費にする扱いのことです。
この違いを知らずに全額を経費にすると、税務署に否認され、追徴課税を受けることもあります。
本記事では、勘定科目(修繕費か資本的支出か)・耐用年数・減価償却・古いキッチンの固定資産除却損まで、不動産業を専門とする税理士が初心者向けにやさしく解説します。
システムキッチンの取替えは原則「資本的支出」|全額が修繕費の対象ではない
システムキッチンの取替えが資本的支出になる理由は、古い台所を取り壊し、新しく作り直して建物の価値を高める工事だからです。
修繕費は、壊れた部分を元どおりに直すための費用で、大家はその年に全額を経費にできます。
システムキッチンの取替えは、設備を新しくして価値を高めるため、原則として修繕費にはあたりません。大家は新設部分を資本的支出として固定資産に計上します。
国税不服審判所の平成26年4月21日裁決でも、劣化した流し台をシステムキッチンへ替えた工事を「建物と一体の改良」と認定し、資本的支出と判断しました。
ただし、取替工事の全額が資本的支出になるわけではありません。大家は、見積書や請求書などで明細を区分すれば撤去費用の部分を修繕費にでき、古いキッチンの固定資産除却損も経費にできます。
修繕費にできる部分(撤去費用)・耐用年数・固定資産除却損の3つで手取りは大きく変わるため、以下で順に解説します。
なお大家は、トイレやユニットバスの改修も同じ考え方で判定します。トイレの改修工事・ユニットバスの交換工事の記事もあわせてご覧ください。
そもそもシステムキッチンとは?単体キッチン・ミニキッチンとの違い
システムキッチンとは、シンク・コンロ台・調理台・収納を天板で一体化し、建物に作り付けで設置した台所のことです。
一部だけを簡単には取り外せないため、システムキッチンの全面的な取替えは原則として資本的支出になります。
一方、キッチンはシステムキッチンだけではなく、単体キッチンとミニキッチンというものもあります。
税務上のポイントは、単体キッチンは「取り外しやすさ」、ミニキッチンは「工事の規模(金額)」です。
この違いによって勘定科目(資本的支出か修繕費か)が大きく変わります。
システムキッチンと他のキッチンの特徴・税務上の取り扱いを比べると、次のとおりです。
| キッチンの種類 | 特徴 | 税務上の取り扱い |
|---|---|---|
| システムキッチン | シンク・コンロ・調理台・収納を天板で一体化し、建物に作り付け。一部だけは取り外しにくい。 | 全面取替えは原則「資本的支出」。大部分は建物勘定に計上し、元の建物と同じ耐用年数で減価償却(給排水・ガス設備など一部は建物附属設備)。 |
| 単体キッチン(ブロックキッチン) | 流し台・コンロ台などを単体で並べて組み合わせたもの。比較的簡単に取り外せる(古い賃貸物件に多い)。 | まず20万円未満かを判定。20万円未満の同等品交換なら修繕費にできる。20万円以上は資本的支出として器具備品に計上。 |
| ミニキッチン(コンパクトキッチン) | 単身者向けのコンパクトな一体型キッチン。幅90〜150cm・1口コンロが中心。 | 考え方はシステムキッチンと同じ。ただし本体価格が安く、20万円未満なら修繕費に計上できる。 |
このように、システムキッチンは建物と一体で取り外しにくいため、全面取替えは原則として資本的支出になります。
では、修繕費と資本的支出はどのような基準で分かれるのか、次に国税庁の判定基準を見ていきましょう。
修繕費と資本的支出を分ける国税庁の判定基準
税法上は、修繕費か資本的支出かを、工事の名目ではなく工事の実質で判定します。
国税庁のタックスアンサーによると、建物に物理的に付け加えた部分や、価値・性能を高めた部分は、原則として資本的支出です。
ただし、次の形式基準のいずれかに当てはまれば、修繕費として処理できます。
| 判定の場面 | 修繕費にできる基準 |
|---|---|
| 少額・短い周期の修理 | 一つの工事金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行う修理 |
| 修繕費か資本的支出か不明なとき | 一つの工事金額が60万円未満、または修理した固定資産(建物など)の前期末の取得価額のおおむね10%以下 |
| それでも区分できないとき | 工事の支出額の30%と修理した固定資産(建物など)の前期末の取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残りを資本的支出にできる |
システムキッチン取替工事の勘定科目【建物・建物附属設備・器具備品】
大家は、資本的支出になった部分を、建物・建物附属設備(給排水・ガス・電気・換気など、建物に組み込まれた設備)・器具備品(取り外せる備品)のいずれかに分けて固定資産に計上します。
勘定科目は、設備が建物とどれだけ一体化しているかで決まります。一般的な区分は次のとおりです。
| 区分 | どんな場合 | 主な勘定科目 |
|---|---|---|
| 建物と一体で取り外せない | 建物の構造と一体化した造作部分 | 建物(建物本体に含めて減価償却) |
| 建物に組み込まれた設備 | 給排水・ガス・換気などの設備部分 | 建物附属設備 |
| 比較的かんたんに取り外せる | 単体で動かせる収納・機器など | 器具備品 |
システムキッチンは建物と物理的・機能的に一体不可分とされるため、資本的支出の大部分は建物勘定に計上し、元の建物と同じ耐用年数で減価償却します(国税不服審判所 平成26年4月21日裁決)。
ただし、給排水・ガス設備などの一部は建物附属設備に区分できるため、見積書や請求書の明細で個別に判断します。
次に、システムキッチンの耐用年数を見ていきます。
システムキッチンの耐用年数と減価償却
システムキッチンの取替えが建物への資本的支出となる場合、その大部分は元の建物と同じ耐用年数で減価償却します。建物の耐用年数は構造によって異なります。
減価償却とは、大家が取得価額を耐用年数にわたって少しずつ経費にしていく仕組みです。
区分ごとの耐用年数の目安は、次のとおりです。
| 区分 | 耐用年数の目安 |
|---|---|
| 建物勘定(システムキッチンの大部分) | 固定資産台帳で計上されている建物の耐用年数 |
| 建物附属設備(給排水・ガス設備など一部) | 15年 |
| 器具備品(取り外せる機器など) | 6〜8年 |
耐用年数は区分や材質によって変わるため、大家は設備の実態に応じて個別に判断します。
あわせて、古いキッチンを撤去したときの「固定資産除却損」も確認しておきましょう。
古いキッチンの「固定資産除却損」も忘れずに計上する
大家が古いキッチンを撤去して新しいシステムキッチンに替えたとき、古いキッチンの未償却残高(まだ償却していない帳簿価額)は、固定資産除却損としてその年の経費にできます。
固定資産除却損とは、大家が固定資産を廃棄・取り壊したときに、まだ償却していない帳簿価額を、その年の損失として経費にできる仕組みです。
固定資産除却損の金額の求め方は、古いキッチンが帳簿上どう扱われていたかで変わります。
| 古いキッチンの帳簿上の扱い | 固定資産除却損の計上 |
|---|---|
| 建物本体に含めて償却していた(取得時のまま一度も交換していない場合など) | 当初の見積書・請求書でキッチンの金額を確認し、未償却残高を按分して計上できる |
| 過去に一度交換しており、固定資産台帳に未償却残高が計上されている | 固定資産台帳にあるそのキッチンの未償却残高を固定資産除却損として計上できる |
| 建物附属設備・器具備品として区分して計上していた(未償却残高あり) | 固定資産台帳にある未償却残高を、そのまま固定資産除却損として計上できる |
なお大家は、取り壊し・撤去にかかった費用も、除却にともなう費用としてあわせてその年の経費にできます。
例えば、古いキッチンの未償却残高が10万円残っていれば、大家は次のように仕訳します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 固定資産除却損 | 10万円 | 建物 | 10万円 |
新設部分は資本的支出のため一度には経費にできませんが、固定資産除却損と撤去費用はその年の経費になります。
次に、修繕費と資本的支出の仕訳を、具体例で確認します。
システムキッチン取替えの仕訳と計算例|修繕費・資本的支出の分け方
ここまでの勘定科目と耐用年数の考え方を、具体的な金額を使った設例で確認しましょう。
【設例】建物が鉄筋コンクリート造の住宅(耐用年数47年)で、システムキッチンの取替工事110.5万円の内訳が次のとおりだったとします。
- 撤去・原状回復:10万円(修繕費)
- 給排水・ガス設備:30万円(建物附属設備・耐用年数15年)
- システムキッチン本体:70.5万円(建物・耐用年数47年)
取得時(工事をした年)の仕訳は、次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 修繕費 | 10万円 | 現金預金 | 110.5万円 |
| 建物附属設備 | 30万円 | ||
| 建物 | 70.5万円 |
資本的支出に計上した部分は、定額法で減価償却します。建物附属設備の30万円は15年で年2万円、建物の70.5万円は47年で年1.5万円です。
毎年の減価償却の仕訳は、次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 2万円 | 建物附属設備 | 2万円 |
| 減価償却費 | 1.5万円 | 建物 | 1.5万円 |
システムキッチン取替えでよくある間違いと注意点|全額修繕費と明細区分
システムキッチンの取替えで大家がやりがちな間違いは、税務調査で経費を否認される原因になります。とくに気をつけたいのは、次の2点です。
全額を修繕費にしてしまう
大家がシステムキッチンの全面取替えを全額修繕費にすると、税務調査で税務署に資本的支出と指摘され、経費を否認されるおそれがあります。
見積書・請求書の明細を区分しない
大家は、工事明細の内、撤去費・処分費・原状回復の部分と、新設の部分を分けて把握しましょう。工事明細がないと、有利な区分や固定資産除却損の計上ができません。
設備ごとの判定をまとめて確認するなら、大家はリフォーム費用を修繕費にするか固定資産にするかの一覧も参考にしてください。
まとめ|システムキッチン取替工事の勘定科目
システムキッチンの全面取替えは、原則として資本的支出です。最後に、大家が押さえるべき要点を整理します。
本記事のポイント
- システムキッチンの全面取替えは原則として資本的支出(全額を一括では経費にできない)
- 大家が独立した流し台だけを同等品に交換するなら、器具備品の修繕費にできることがある
- 資本的支出の大部分は建物勘定に計上し、元の建物と同じ耐用年数で減価償却(給排水・ガス設備など一部は建物附属設備で15年)
- 20万円未満・60万円未満・前期末取得価額の10%以下などの形式基準で修繕費にできる場合がある
- 古いキッチンの未償却残高は固定資産除却損、撤去費用も経費としてその年に計上できる
- 建物・建物附属設備の償却は個人・法人とも定額法のみ(器具備品に区分される一部のみ定率法の選択余地)
システムキッチンの取替えに関するよくある質問
システムキッチンの取替えについて、大家からとくに多い質問にお答えします。
- システムキッチンの取替えは全額修繕費にできますか?
-
全額を修繕費にはできません。
システムキッチンの全面的な取替えは資本的支出にあたり、固定資産に計上して耐用年数にわたり減価償却します。
ただし撤去・原状回復の費用は、見積書や請求書の明細で区分すれば修繕費にできます。
- 独立した流し台の交換だけなら修繕費にできますか?
-
独立した流し台で取り外しが可能な場合は器具備品にあたり、同等品への交換で流し台の価値を高めない場合、大家は修繕費にできます。
ただし、現在のキッチンはシステムキッチンが多く、単体キッチン(ブロックキッチン)は古い建物に多いイメージなので、独立した流し台が登場する機会が限られています。
- 古いキッチンを撤去したら固定資産除却損は計上できますか?
-
はい、固定資産除却損は計上できます。
固定資産除却損とは、古いキッチンを撤去したときに、まだ経費にしていない未償却残高を、その年の損失として経費にできる仕組みです。
未償却残高は、古いキッチンが固定資産台帳にどう記録されているかで決まります。
過去にキッチンの改修工事を「建物」、「建物附属設備」、「器具備品」として固定資産台帳に個別に記録していれば、台帳に記載された未償却残高を、そのまま固定資産除却損として計上できます。
一方、キッチンの金額を建物本体の価額に含めて「建物」勘定一本で記録している場合は、固定資産台帳に撤去するキッチン単独の金額が出てきません。
この場合は、当初の見積書や請求書で建物全体の金額に対するキッチンの金額を確認し、未償却残高のうち撤去するキッチンに相当する金額を按分して除却金額を把握します。
- 個人と法人で減価償却の方法は変わりますか?
-
基本的な考え方は個人・法人で同じです。
システムキッチンの大部分を占める建物や建物附属設備は、個人・法人とも定額法で減価償却します。
違いが出るのは器具備品に区分された部分で、法人は定率法、個人は定額法で減価償却をすることになります(どちらも届出により変更できます)。
本記事で参考にした主な出典


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