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土地の無償返還届出書と相続税評価を税理士がわかりやすく解説|使用貸借と賃貸借

2026 7/05
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相続-基本
2026年7月5日
土地の無償返還届出書と相続税評価を税理士がわかりやすく解説|使用貸借と賃貸借

「個人の土地を自分の会社に貸すことになったが、使用貸借と賃貸借のどちらにすべきか」と迷っていませんか。

たとえば、次のような場面です。

  • 会社所有方式で、賃貸物件の建物だけを自分の会社へ売却した
  • 法人成りで、店舗や事務所の建物を会社へ移し、土地は個人に残した
  • 個人の土地の上に、会社が社屋やアパートを新築する
  • 親の土地に、子どもが経営する会社が建物を建てる

土地の貸し方を決めないまま放置すると、会社に思わぬ法人税がかかったり、相続税の評価で損をしたりするおそれがあります。

本記事では、不動産業を専門とする税理士が、使用貸借と賃貸借の違いから、無償返還届出書の手続き、相続税評価と株価への影響、小規模宅地等の特例までをわかりやすく解説します。

目次

使用貸借と賃貸借の違い

使用貸借と賃貸借の違いは、個人が法人から受け取る地代の水準です。地代とは、土地を借りるために払う、家賃のようなお金のことです。

使用貸借とは、タダ(無償)か、固定資産税の2〜3倍程度までの負担だけで土地を貸す契約です。身内どうしの「タダ貸し」をイメージしてください。

賃貸借とは、世間並みの地代(=近隣の相場に見合う賃料)を受け取って土地を貸す契約です。

世間並みの地代を払って土地を借りた会社は、借地借家法という法律で「簡単には追い出されない」強い立場を保障されます。この強い立場はお金に換算できる財産価値を持ち、借地権と呼ばれます。

一方、タダ同然で借りている会社は、貸主に求められたら土地を返すのが原則で、法律の保護は弱いままです。守られる強い権利がそもそも無いため、借地権も生じないのです。

固定資産税の2〜3倍程度までの負担は、土地の維持費を肩代わりしているだけと考えられ、土地を使う対価(=地代)には当たりません。負担がこの水準にとどまる限り、契約はタダ貸し=使用貸借として扱われます。

ただし両者の境目は金額だけでは決まらず、契約書の有無や地代の決め方も踏まえて総合的に判断されます。

契約の種類地代の水準法人側の借地権
使用貸借無償〜固定資産税の2〜3倍程度生じない
賃貸借固定資産税の2〜3倍超(世間並みの地代)生じる

ここまでが契約の違いです。次章では、賃貸借を選んだときに問題になる権利金の認定課税を確認します。

賃貸借では権利金の認定課税に注意

賃貸借で土地を貸すときは、権利金の認定課税への対策が欠かせません。

前章のとおり、世間並みの地代で貸すと、会社は借地権という財産価値のある強い立場を手に入れます。問題は、会社がこの価値を「タダで」手に入れてしまう点です。

世間では、借地権を設定するとき、借主が地主に権利金(=借地権という価値を買い取るための一時金)を支払う慣行があります。都市部では、土地の価値の6〜7割にもなる大きな金額です。

同族会社が権利金を払わずに土地を借りると、税務署は「会社は本来買い取るべき借地権をタダでもらった」と見ます。タダでもらった利益(受贈益)に対して、会社に法人税がかかるのです(国税庁タックスアンサー No.5730「権利金の認定課税について」)。

認定課税という名前は、実際にお金が動いていなくても「利益があった」と税務署が認定して課税することに由来します。

権利金の認定課税を避ける3つの方法

  • 権利金を受け取る:会社から権利金(土地の価値の6〜7割程度の一時金)を実際に受け取る方法。会社に多額の資金が必要です。
  • 相当の地代を受け取る:権利金の代わりに、高めの地代(=自用地評価額のおおむね年6%)を受け取る方法。おおむね3年ごとに地代の見直しが必要です。
  • 無償返還届出書を提出する:「将来、会社は土地をタダで返す」と税務署へ届け出て、借地権の価値が会社へ移らないようにする方法です。

権利金や高い地代は資金負担が大きいため、実務では無償返還届出書の提出を選ぶのが一般的です。

次章では、無償返還届出書の具体的な出し方を説明します。

無償返還届出書の出し方と相続時の再提出

無償返還届出書は、個人と会社が連名で、会社の納税地を所轄する税務署へ遅滞なく提出します(国税庁「[手続名]土地の無償返還に関する届出」)。

提出の前提として、土地の賃貸借契約書に「将来、会社が土地を無償で返す」という条項を入れておく必要があります。

STEP
賃貸借契約書に無償返還の条項を定める

賃貸借契約書に「将来、借主は土地を無償で返還する」という条項を明記します。

STEP
無償返還届出書を個人と会社の連名で作成する

無償返還届出書の様式は国税庁サイトから入手でき、土地の所在や賃貸借契約の内容を記載します。

STEP
会社の所轄税務署へ遅滞なく提出する

期限の明文はありませんが、契約後すみやかに出すのが一般的です。

届出書の出し忘れに注意

無償返還届出書を出さないまま賃貸借を始めると、前章で説明した権利金の認定課税が現実になります。

課税される金額の目安は、土地の価値に借地権割合(=土地の価値のうち借地権が占める割合。地域ごとに国税庁が定めており、6〜7割の地域が多い)を掛けた額です。

土地の価値が1億円・借地権割合60%なら、会社が6,000万円の利益をタダで受け取ったとみなされ、その利益にまとめて法人税がかかります。

相続で貸主が変わったときは、新しい貸主と会社の連名で無償返還届出書を改めて提出するのが実務上の原則です。無償返還届出書は「誰が貸主で誰が借主か」を前提にした書類のため、当事者が変わったら出し直すのが安全です。

再提出をしておけば、認定課税なし・20%の評価減という取扱いを相続後もそのまま引き継げます。相続登記など相続直後の手続きとあわせて済ませると、出し忘れを防げます。

届出書を出したら、次は相続税評価がどう変わるかを見ていきます。

無償返還届出書を出した土地の相続税評価額は80%になる

無償返還届出書を提出し、賃貸借で地代を受け取っていれば、貸主である個人の土地の相続税評価額は自用地評価額の80%になります(国税庁 個別通達 昭和60年直資2-58「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」)。

自用地評価額とは、貸し借りがない更地の状態で計算した土地の相続税評価額です。

具体例:自用地評価額8,000万円の土地なら、8,000万円×80%=6,400万円が個人の相続税評価額になります。

80%になるのは、賃貸借として世間並みの地代を受け取っている場合だけです。使用貸借の土地は、無償返還届出書の税務署への提出の有無にかかわらず100%のまま評価されます(同通達8(注))。

ここまでが、貸主である個人側の評価です。

では、借主である会社側では、差し引かれた20%分が借地権として課税されるのでしょうか。無償返還届出書を出した場合、会社の借地権は0円と評価されます(同通達5)。

会社は将来、土地をタダで返すと約束しており、借地権という財産を持っていないと考えるためです。

ただし、評価が20%下がっても、それだけで相続税が減るとは限りません。次章で株価への影響を確認します。

土地の評価減20%は同族会社の株価に加算される|株主構成がカギ

無償返還届出書を出した賃貸借では、個人の土地の相続税評価額が20%下がる一方、その20%相当が同族会社の株式の相続税評価額に加算されます(昭和43年直資3-22通達)。

同族会社の株式の値段(相続税評価額)は、大まかに言えば、会社の財産から借金を引いた残り(純資産)で決まります。株式を評価するときは、この純資産に、貸している土地の更地の値打ちの20%分を足して計算するルールがあります。

土地の持ち主が、その会社の株式も持ったまま亡くなった場合に、この20%の足し戻しが問題になります。土地は個人の財産、株式も個人の財産として、相続ではそれぞれ別々に評価されます。

具体例①:父が土地も株式も持っている場合、父の相続では土地の評価が1,600万円下がる一方、株式の評価が1,600万円上がります。父の相続財産の合計は、差し引きゼロで変わりません。

具体例②:土地は父が持ち、株式は長男が持っている場合、父の相続では土地の20%減だけが効いて、相続税が下がります。株式は長男の財産で、父の相続財産には含まれないためです。

株主構成の設計がカギ

会社設立や建物購入の段階から、株式を子ども(後継者)に持たせておくと、20%減の効果を最大限活かせます。

賃貸借にはもう一つ、小規模宅地等の特例という大きなメリットがあります。

無償返還届出書を出した土地に小規模宅地等の特例は使えるか

適正な地代を受け取る賃貸借なら、無償返還届出書で20%下がった土地の評価額を、小規模宅地等の特例でさらに減らせます。

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方の事業用や貸付用の宅地の評価額を一定の面積まで減額できる制度です(国税庁タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」)。

無償返還届出書を出した土地で使える可能性があるのは、特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等の2つの区分です。

借りた会社がその土地を店舗や工場など貸付以外の事業に使っている場合は、特定同族会社事業用宅地等に当たり、土地の相続税評価額を400㎡まで80%減額できる余地があります。ただし、亡くなった方と親族で株式の50%超を持ち、土地を相続した親族が申告期限にその会社の役員であることなどの要件があります。

借りた会社がその土地を賃貸物件の敷地に使っている場合(会社所有方式の典型)は、特定同族会社事業用宅地等には当たりません。代わりに、亡くなった方が地代を受け取って土地を貸していたこと自体が税法上の貸付事業に当たるため、貸付事業用宅地等として土地の相続税評価額を200㎡まで50%減額できます。

具体例:20%減のあとの評価額6,400万円・200㎡以内の土地なら、特例適用後は6,400万円×50%=3,200万円まで下がります。

使用貸借は無償のため、小規模宅地等の特例は原則適用できません(国税庁タックスアンサー No.4124参照)。

3年縛りに注意

相続開始前3年以内に新たに貸し付けた土地は、貸付事業用宅地等の対象から原則除かれます(租税特別措置法69条の4第3項4号、国税庁タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」)。3年縛りがあるのは貸付事業用宅地等だけで、特定同族会社事業用宅地等(同項3号)にはありません。

最後に、ここまでの内容を踏まえた貸し方の選び方を整理します。

使用貸借と賃貸借はどちらを選ぶべきか

毎年の税金の負担を増やしたくないなら使用貸借、将来の相続税を減らしたいなら賃貸借と無償返還届出書の組み合わせが基本です。

使用貸借なら、個人に地代収入が入らないため、毎年の所得税や住民税は増えません。契約や地代の設定に手間もかからず、シンプルです。

賃貸物件を会社に持たせているケースでは、家賃収入を会社へ集める所得分散の効果も保ちやすくなります。

賃貸借と無償返還届出書を組み合わせると、土地の相続税評価額が20%下がり、小規模宅地等の特例も使えるようになります。そのかわり、個人が受け取る地代には毎年、所得税と住民税がかかります。

選択肢向いているケース主なメリット注意点
使用貸借相続税の心配が少ない・毎年の税負担を増やしたくない地代収入に税金がかからず手間もない相続税評価は100%のまま。特例も使えない
賃貸借+無償返還届出書相続税の負担が重くなりそう20%の評価減と小規模宅地等の特例を併用できる地代に所得税がかかり株価に20%加算

有利不利は、相続財産の規模・株主構成・地代の水準で変わるため、実行前に相続税の試算をおすすめします。

まとめ|土地の貸し方と無償返還届出書のポイント

使用貸借は毎年の所得税を増やさない貸し方、賃貸借と無償返還届出書の組み合わせは将来の相続税を減らす貸し方です。どちらが得かは、いまの税金と将来の相続税のどちらを重くみるかで決まります。

本記事のポイント

  • 使用貸借はタダ貸しのため借地権が生じず、土地は100%評価のまま
  • 賃貸借では権利金の認定課税に注意。無償返還届出書の提出で回避できる
  • 無償返還届出書+地代の収受で、土地の相続税評価額は自用地評価額の80%になる
  • 下がった20%は同族会社の株価に加算されるため、株主構成の設計が重要
  • 賃貸借なら小規模宅地等の特例(50%または80%減額)も併用できる

まずは相続税の試算と株主構成の確認で、使用貸借と賃貸借のどちらが有利かを見極めましょう。

使用貸借を選ぶ場合は、貸借関係を明確にするため、無償返還届出だけは税務署に提出しておいた方が安心ではあります。

賃貸借を選ぶ場合は、権利金の認定課税を防ぐため、契約書の無償返還条項と無償返還届出書を必ず準備してください。

よくある質問(FAQ)|無償返還届出書と土地の貸し方

個人の土地を会社に貸すときの貸し方について、ご相談の多い質問をまとめました。

使用貸借でも小規模宅地等の特例は使えますか?

原則として使えません。小規模宅地等の特例は、世間並みの地代を受け取って貸している土地に使う制度で、タダ貸し(使用貸借)の土地は対象外とされているためです。

無償返還届出書はいつまでに提出すればよいですか?

「何日以内」という日数の決まりはなく、「遅滞なく」とだけ定められています。契約を結んだら、すみやかに個人と会社の連名で会社の所轄税務署へ出すのが一般的です。

相続が起きたら無償返還届出書の再提出は必要ですか?

新しい貸主と会社の連名で、無償返還届出書をもう一度提出しておくのが安心です。相続で土地の持ち主(貸主)が変わり、届出書の前提が変わるため、改めて提出する運用が実務では一般的です。

親の土地に子どもが家を建てる場合など、個人どうしでも無償返還届出書は必要ですか?

必要ありません。無償返還届出書は、貸主か借主のどちらかが会社の場合に使う制度です。

過去に無償返還届出書を出したかどうか分からないときは?

税務署の「申告書等閲覧サービス」を利用すると、過去に提出した無償返還届出書の有無を確認できます。会社の税務申告を担当してきた税理士に、提出の記録を確認してもらう方法もあります。

参考文献

  • 国税庁タックスアンサー No.5730「権利金の認定課税について」
  • 国税庁タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
  • 国税庁タックスアンサー No.4613「貸宅地の評価」
  • 国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日 直資2-58)
  • 国税庁「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日 直資2-189)
  • e-Gov法令検索「租税特別措置法」第69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
  • 国税庁「[手続名]土地の無償返還に関する届出」
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