小規模会社の役員報酬をいくらにするかは、税務相談時によく議題になる事項です。
役員報酬をいくらにするかによって、今後の会社の財産だけなく、役員個人の財産も大きく変わってきます。
税務相談をしてみて、多くの方は、「最大でいくらまで役員報酬をもらえるのか?」を論点に挙げてきますが、小規模会社の場合、同族会社(株主=役員)であることが一般的で、会社と役員の合計の財産が増えることを前提として個々の役員報酬を考えることが重要になります。
今回は役員報酬の基準金額を4つに分けて、小規模会社での適切な役員報酬の設定方法について考えていきましょう。
役員報酬0円
1人会社で代表取締役が十分なお金をもっている場合、役員報酬を0円に設定することが考えられます。
役員報酬が0円の場合、①給料関係の手続きが非常に簡素化され、②会社での健康保険・厚生年金の加入義務が無くなり、③源泉所得税の会社の徴収義務も無くなります。
つまり、税理士や社労士などの専門家に上記の業務に対する報酬を支払う必要が無くなるため、年間で10万円以上手元にお金が残ることになります。
また、業種によっては、役員から会社に多額の役員貸付をしている場合があります。
例えば、不動産賃貸業を会社で営んでいる場合、土地や建物などの不動産購入のために最初に役員が何千万円も会社にお金を貸していることがあります。
この場合は、役員貸付金の返済を優先し、その間は役員報酬を0円にしておくことで、役員に一定のお金を支払いつつ、役員報酬を0円にすることが出来ます。
役員報酬月額5万円以内
役員報酬を月額5万円以内に設定する目的は、①社会保険料の支払い額を最小化すること、②役員の所得を住民税非課税に抑えることです。
役員報酬が月額5万円程度になると、会社で健康保険・厚生年金保険の加入が強制になります。
役員報酬が高くなるほど月額の健康保険料・厚生年金保険料の徴収額が上がっていきます。
それに対して、健康保険と厚生年金保険から受けられる保障のグレードが上がっていくかというと、保障のグレードはそれほど変わりません。
役員報酬を高くしても、保障内容はそれほど変わらないと記載しましたが、役員報酬が低いと健康保険の傷病手当金が少なくなる、障害時や老後の年金が少なくなるなどのマイナス面もあります。しかし、このマイナス面も民間の保険に加入することによりカバーできます。
健康保険料・厚生年金保険料の支払いは、給料設定額の大体30%とかなり高額になりますので、支払額を最小にするために役員報酬5万円以内という選択肢が考えられます。
また、行政サービスは住民税非課税世帯に対して非常に優遇されているため、役員報酬を月額5万円以内に収めて役員の所得を住民税非課税の範囲内にすることは意味があります。
例えば、最近頻発している住民税非課税世帯に対する給付金を貰える可能性がありますし、小さい子供がいる場合、保育園の費用などで優遇されます。
役員報酬を少なくすることに対するデメリットも当然あります。代表的なものに社会的信用性がなくなることが挙げられます。住宅ローンの借入が厳しくなる、クレジットカードが作れなくなるなどのデメリットが生じます。
役員報酬月額60万円以内
役員報酬を月額60万円以内に設定する目的は、会社の法人税率と役員報酬に対する所得税率の違いを利用してトータルで納付税額を少なくするためです。
つまり、会社の法人税率は一定なのに対して、役員報酬の所得税率は金額が大きくなると徐々に税率が高くなる累進課税のため、会社で支払う役員報酬を月額60万円以内に設定すれば、役員報酬にかかる所得税率が会社にかかる法人税率より低い状態になるので、最大限の節税効果を受けられるということです。
役員報酬月額60万円超
役員報酬を月額60万円超に設定する目的は、役員に対する退職金を増加させ、会社の経費を増やすためです。
役員が退職する際に支払う退職金は「一定額」を経費(損金)に計上できます。
そして、「一定額」の計算式は以下のようになり、役員報酬が多いほど退職金として支払うことが出来る金額が増加し、会社の経費(損金)に計上できる金額も大きくなります。
役員退職金=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率
上記の計算式の「最終報酬月額」が、役員報酬の金額となります。
なお、「最終報酬月額」の最終とは最後の月という意味ではありません。
役員の退職年度に役員報酬を過度に引き上げて、経費(損金)に計上できる役員退職金を多くすることは認められないのでご注意ください。
また、役員報酬の金額は多く払いすぎると過大役員報酬として税務署に否認される可能性があります。
いくらから過大役員報酬になるという明確な基準はありませんが、以下の3つの判断基準を参考にして役員報酬を決定してください。
- 役員の職務内容
- 会社の収益の状況・使用人に対する給与の支給状況
- 規模が似ている同業他社の役員報酬の支給状況
役員報酬は法人税で決められた支払い方法を採用しない限り、経費(損金)に計上できなくなります。上記の記事では、定期同額給与という基準に基づき、月額で一定額を役員報酬にすることを前提にしています。ただし、役員報酬の決め方として事前確定届出給与という基準もあります。こちらは、事前にある一定の時期に役員に対して支給する賞与額を決め、実際に支給することで役員賞与の経費(損金)計上を認めるものです。月額の社会保険料の負担が重い場合に、事前確定届出給与を利用して年額の役員報酬の支給金額を変えずに社会保険料を削減する方法などで利用されることがあります。
コメント