- 個人事業主のスーツ購入代金を必要経費に算入したい人
必要経費算入の可否は税理士間でも意見が割れた
個人事業主が営業に行く場合、相手先にスーツを着ていくことは当然想定されることでしょう。
きちんとした身だしなみをしていることが仕事を獲得するための最低条件になる場合も多いためです。
その意味では、スーツの購入代金はより多くの売上を上げるために必要な経費であると考えることもできます。
ところが、スーツの購入代金を個人事業主の必要経費に算入することを多くの税理士は嫌がります。
職業柄、私の周りには税理士がたくさんいるので、お酒の席で試しに聞いてみたのですが、7人中5人は即答でスーツ購入代金の必要経費算入を否定しました。
このように、スーツ購入代金を必要経費に算入することは、税理士間では分が悪い話なのですが、それでも2名の税理士は必要経費に算入できるのではないかと答えています。
そこで、今回は、両者の主張を比べて記事にしてみました。
必要経費に算入できない派の主張
スーツ購入代金の必要経費への算入を認めない税理士達の否認事由は、個人事業主の衣服費について争われた過去の判例にあります。
この判例では、個人事業主でなくても、誰もが洋服は必要であり、個人の趣味趣向が影響されやすいので、衣服費は個人的な支出であり、事業に必要な支出ではないと結論づけています。
40年前のかなり古い判例ですが、この判例が元になってスーツ購入代金の必要経費算入は今でも否認される傾向にあります。
必要経費に算入できる派の主張
こちらは、サラリーマンに対して特定支出控除を認めていることとの整合性を根拠にしています。
特定支出控除とは、サラリーマンの給料のうち一定の要件を満たすものについて、所得税の計算上、個人事業主の必要経費のように扱って、給料から控除することができるというものです。
そして、特定支出控除が認めらる項目の中に会社員が自費で購入したスーツ代で職務遂行上必要なものという項目があります。
なお、原文をそのまま記載すると、「制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)」なので、スーツ購入代金以外でも革靴などスーツ関連一式の購入代金も特定支出控除として認められる可能性はあります。
話を戻しますが、サラリーマンのスーツ購入代金が特定支出控除の対象なので、個人事業主のスーツ購入代金の必要経費算入を認めないのはバランスが取れないというのが必要経費に算入できる派の主張になります。
結局、スーツの購入代金は必要経費に算入できるの?
もし、税理士が仕事で聞かれたら、たとえスーツ購入代金の必要経費算入肯定派であっても、「スーツ購入代金は必要経費に算入できませんよ!」と答えるはずです。
税務調査で否認されたら、それは税理士の責任ですから、保守的な回答をせざるを得ないでしょう。
ただ、ここからはあくまで私見ですがスーツ購入代金を必要経費に算入しても構わないと思います。
否認の根拠になっている40年前の判例を読む限り、すべての衣服費を否定しているわけではありません。
職務で専ら着用していて、職種などの関係で一定の種類・品質・数量以上の洋服を必要とする場合は、個人的な使用部分はあるものの一部は事業上必要なものと認められるとしています。
つまり、40年前の判例はスーツ購入代金を一概に必要経費に算入できないと言っているのではなく、納税者側が裁判でスーツの業務上の必要性を立証できなかっただけととらえることもできます。
そうであるならば、やはりサラリーマンのスーツ購入代金の特別支出控除が認められのであれば、個人事業主のスーツ購入代金の必要経費算入も認められると考える方が自然です。
しかし、スーツ購入代金の全額を経費に計上するのは、さすがに無理があります。
安物のスーツの購入なら全額必要経費算入でも問題にならないかもしれませんが、仕事以外にスーツを着たことはないという外形的な証拠がなければ、全額必要経費だと主張することはかなり厳しいでしょう。
よって、按分計算して、例えば、1週間のうち5日は出勤日数だからスーツ代の7分の5は必要経費に算入できると考えた方が良いでしょう。
もし、按分計算まできちんとしていたら、スーツ購入代金の必要経費算入を否認できるほどの根拠もなくなってしまうと思います(税理士やたとえ税務調査官であってもある程度きちんとした根拠があるものをダメとは言い難いでしょう)。
もしスーツ購入代金を必要経費に算入するのならば
もし、スーツ購入代金を必要経費に算入するのであるならば、仕事以外では使わないと実質的にも形式的にも証明できない限り、必ずなんらかの基準で按分計算をしてください。
按分計算をしていて、なおかつ、必要経費に算入している理由を説明させれれば、もし私が税務調査官ならば否認する勇気も気力もありません。
必要経費算入する際の勘定科目についてですが、金額が大きくない限り、雑費計上でもいいのですが、できれば消耗品費に計上しておくのが一番良いと考えれられます。
なお、仕訳例を示すと以下の通りになります。
休日2日間はスーツを私用で着る可能性があるとして7分の5だけを必要経費算入し、7分の2は私用分として事業主貸の勘定科目で処理しています。
借方
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金額
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貸方
|
金額
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消耗品費
事業主貸 |
5万円
2万円 |
現金
|
7万円
|
凡例の経費(消耗品)ですが、
96,000 X ( 5 / 7 ) = 68,571円
となるのではないでしょうか?
大変失礼しました。
金額が間違っていたため、修正しました。
ご連絡ありがとうございます。