生計を一にしていた親族(特定居住用宅地等)の相続前後の要件について

相続の際に小規模宅地等の特例を適用できれば、最大で80%も敷地の相続税評価額を引き下げることができます

そして、小規模宅地等の特例が適用されるもっとも主なパターンは、居住用の敷地についてです。

つまり、特定居住用宅地等に該当すれば居住用の敷地に小規模宅地等の特例を適用できることになります。

今回はこの特定居住用宅地等の形態の1つである、生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地について相続前後の要件を見ていきましょう

相続前の要件

特定居住用宅地等の形態(2つ)

特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用するための相続「前」の要件としては以下の2つのどちらかを満たしている必要があります。

相続「前」の要件

被相続人(亡くなった人)が居住の用に供していた敷地であること
被相続人(亡くなった人)と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地であること

今回は②被相続人(亡くなった人)と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地であることの方に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。

被相続人と生計を一にしていた親族の典型例

被相続人と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地を取得して小規模宅地等の特例を適用できる典型例は以下のようになります。

【典型例1】
父親の転勤が決まり、両親は息子(大学生)を自宅に残して転勤してしまいました。
息子は大学生なので、父親が生活費を送金している状況です。
父親が転勤先で死亡し、相続が開始されました。

被相続人(父親)と生計を一にしていた親族(息子)が居住の用に供していた自宅の敷地を親族(息子)が相続する場合、特定居住用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することができます

【典型例2】
娘の大学進学が決まり、父親は娘の大学最寄りの都心部にマンションを購入しました。
購入した都心部のマンションに娘は住んでおり、大学生のため父親が生活費を送金しています。
父親が亡くなり、相続が開始されました。

被相続人(父親)と生計を一にしていた親族(娘)が居住の用に供していた都心部のマンションの敷地を親族(娘)が相続する場合、特定居住用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用することができます

父親の自宅の敷地ではなく、都心部のマンションの敷地に小規模宅地等の特例(80%減額)が適用できるという現象が生じることになります。

なお、母親が父親と同居していた場合、自宅の敷地を母親が相続すれば、こちらについても特定居住用宅地等該当し、小規模宅地等の特例の適用ができます

生計を一にしていた親族のみが小規模宅地等の適用要件になる理由

それでは、なぜ相続「前」に被相続人と「生計を一にしていた」親族のみが小規模宅地等を適用できる要件になっているのでしょうか?

逆に言えば、被相続人と生計を一にしていない親族(別生計の親族)に小規模宅地等の特例を適用できないのはなぜでしょうか?

上記の典型例からも分かる通り、生計を一にしていた親族は被相続人の扶養に入っている社会的な立場が弱い者です。

仮に、典型例の息子・娘に小規模宅地等の特例(80%減額)の特例が適用されなければ、住む家を失い、金銭的な面で大学を辞めなければならないかもしれません

逆に、生計を一にしてない親族(別生計の親族)とは、大学を卒業して社会人として独り立ちしている子供が典型例になります。

自分でお金を稼ぎ生活できる子供に更に小規模宅地等の特例まで認める必要はないので、被相続人と生計を一にしていた親族に対象を限定しています

相続後の要件

被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供していた敷地が特定居住用宅地等として小規模宅地の特例の適用対象になるためには、相続開始「後」の要件も必要になります。

相続開始後の要件

①相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住すること(居住継続要件
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで引き続き所有すること(所有継続要件

また、被相続人の生前から地代・家賃の収受があれば、貸付事業用宅地等に該当し、居住用宅地と言えなくなるので、注意が必要です(その場合でも小規模宅地等には該当し、50%減額が適用される可能性は残ります)。

事例で確認しておきましょう。

【事例1】
敷地を父親が所有しており、建物を息子が所有していました。
父親は息子に地代として1か月に5万円を請求しています。
父親の相続が発生し、敷地を息子が相続しました。

特定居住用宅地等に該当するためには、地代が無償であることが必要になります

父親が生前に5万円を地代として収受している時点で特定居住用宅地等として小規模宅地の特例(80%減額)を受けることは不可能になります。

ただし、貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(50%減額)を受けることは可能な場合があります

【事例2】
敷地を父親が所有しており、建物を長男が所有しています。
この居宅に次男が居住しており、長男に毎月家賃を8万円ずつ支払っています。
父親の相続が発生し、次男が敷地を相続しました。

特定居住用宅地等に該当するためには、地代・家賃が無償であることが必要になります。

よって、長男が8万円を家賃として収受している時点で次男が特定居住用宅地等として小規模宅地の特例(80%減額)を受けることは不可能になります。

なお、建物自体については被相続人(父親)以外の親族(長男)が所有していても構いません