公認会計士・税理士事務所を10年経営して、また、自分が実際に不動産業務に関わってきた知識や経験を活かして、「不動産業を営む小規模会社の経理・税務マニュアル」をまとめてみたいと思いました。
今回は、その第7回目で、小規模会社の経理担当者が最低限知っておきたい経理・税務業務についてまとめます。
今回の記事は、不動産業でなくても小規模会社(目安:従業員10名未満)であれば、どの会社でも関係してくる記事になります。
他業種の方も含めて小規模会社の経理担当者が最低限知っておきたい経理・税務業務について知りたい人はぜひご覧ください。
経理担当者に必要な経理・税務知識について
小規模会社の経理担当者として避けて通れない経理・税務業務は、①日々の取引の仕訳(記帳といいます)と②事業年度が終了した後の法人税・法人住民税・法人事業税・消費税の確定申告書の作成になります。
この2つの業務を行うためには、最低限の簿記の知識と税務知識が必要になります。
まずは、小規模会社の経理担当者の「経理」の知識についてですが、日商簿記2級程度の知識があれば十分です。
ちなみに、日商簿記1級は上場企業で有価証券報告書を作成する人向けになりますので、小規模会社の経理担当者には基本的に必要ない知識が多くなります。
次に社内の経理担当者が必要になる「税務」の知識ですが、小規模会社が営んでいる業務の複雑度にもよりますが、基本的には膨大で、一概にどこまでとは言えません。
よって、実務経験を通して貴社に必要な税務知識を少しずつ身に着けることになります。
なお、不動産会社を営む小規模な会社で必要になる最低限の税務知識は、このホームページで大体網羅されています。
もし実務をしていて迷ったら下記のブログの目次より必要な項目を見つけてください。
経理・税務の年間スケジュールについて
経理・税務の年間スケジュールは大きく以下の2つに分類できます。
- 期中スケジュール
- 期末後スケジュール
期中スケジュールでは、会社で日々起こる取引を仕訳の形で記帳し、集計していくことがメイン業務になります。
また、期中スケジュールのその他の業務として、①固定資産税などの国や地方公共団体が納税額を指定してくる方式(賦課課税方式)の税金支払い、②会社が社員から徴収した源泉所得税を納税する業務、③社会保険料の変更手続き業務などがあります。
期末後スケジュールは、事業年度終了の日の翌日から2か月以内に法人税・法人住民税・法人事業税・消費税の申告書を作成し、納税することがメイン業務になります。
ざっくり言うと、期中スケジュールで仕訳という形で取引記録を集計しておき、期末日後にそれを申告書という形に変換し、納税することが経理・税務の年間スケジュールだと覚えておいてください。
期中スケジュールの論点
期中スケジュールで論点になる箇所を確認していきましょう。
仕訳(記帳)はどのくらいの頻度で行うとよいか?
会社は、1か月に1回記帳(会計ソフトで仕訳を入力すること)を行うのが理想です。
ただし、小規模会社の場合、1か月だとあまり記帳する内容がない場合があります。
その場合は、3か月に1度程度の記帳でも十分です。
大切なのは、記帳する元になる日々の取引の内容を忘れる前に記帳まで終わらせてしまうことです。
例えば、接待交際費の領収書を提出してきた社員に「このお店は誰と何のために行ったの?」と半年後に聞いても答えられないでしょう。
人の記憶は時間と共に風化してしまうので、記帳が遅くなればなるほど、取引内容を思い出すのに時間がかかり、結果的に記帳をする時間が長くなってしまいます。
場合によっては、経理処理をすること自体不可能になりますので、記帳は定期的に行いましょう。
期末後スケジュールの論点
期末後スケジュールで論点になる箇所を確認していきましょう。
申告書を作成する「前」の仕訳の総点検について
期末後スケジュールである法人税、法人住民税、法人事業税、消費税の申告書の作成・提出・納税業務は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内行わなければなりません。
例えば、3月末決算の会社ならば、5月末までに申告書の作成・提出・納税業務を行うことになります。
申告書を作成するためには、期中スケジュールで会計ソフトを利用して、日々の取引を仕訳しておくことが前提条件になります。
よって、期末日後スケジュールでは、まず期中スケジュールで行った仕訳の総点検をすることになります。
仕訳の総点検は、以下の手順で行うと効率が良いです。
期中の仕訳を元にした損益計算書を会計ソフトで見ることができます。
さらに会計ソフトならば、過去3年間の損益計算書を横並びで確認できます。
損益計算書の数値が前期・前々期と比べて異常値でないかを確認してください。
決算数値の確認・比較が終わったら、期中の損益計算書にかかる仕訳をまとめて確認していきます。
会計ソフトに打ち込んだ仕訳は、エクセル化できますので、エクセルの並び替え機能(ソート機能)や検索機能(CTRL+F)を使って、仕訳を横断的に見て異常値が出ているところ、金額の大きいところ、摘要欄がおかしいところを中心にチェックしてください。
なお、消費税の課税事業者の場合、消費税の区分(課税・非課税など)が前年度と相違していないかも必ず確認してください。
STEP1,2の手続きは、損益計算書の正確性を確認するための手続きでした。
STEP3は、貸借対照表の残高を確認していきます。
会計ソフトより貸借対照表を出力できるので、赤字残高(マイナス残高)になっている箇所がないか確認してください。
損益計算書は、1年間の経営成績(損益)をみるための書類です。貸借対照表は期末日の財政状況(財産の状況)をみるための書類です。損益計算書と貸借対照表は決算書類の一部で法人税の確定申告をする際に税務署に提出します。
申告書作成時の確認事項について
仕訳データの総点検が終わると、次に、法人税・法人住民税・法人事業税・消費税(課税事業者の場合のみ)の確定申告書を作成することになります。
税務ソフト(達人シリーズなど)を利用している場合は、一つ数値を入力すると自動的に他の関連個所にも数値が入力されるようになっていますので、分かる箇所から数値を入力していけば、それなりに見れる申告書が作成できます。
申告書が出来たら、法人税申告書の別表4と適用額明細書は必ず再確認してください。
別表4は、会社の利益金額(決算書上の利益金額)を法人税上の利益金額に変換するための箇所です。
つまり、別表4は、①会社の利益金額になるもののうち法人税の利益金額にならないものを減算し、②会社の利益金額にならないもののうち法人税の利益金額になるものを加算して、法人税の利益金額を確定する箇所になりますので、ここを間違えると正確な税金額は算出されなくなります。
適用額明細書は、租税特別措置法の適用条件を見るための書類で、適用額明細書の提出を忘れると租税特別措置法を適用できなくなります(ただし、悪質でなければ出し直せる場合もあります)。
租税特別措置法には、中小企業の税率軽減(800万円まで19%→15%)などがあり、適用漏れを起こすと納税額が増えますので注意が必要です。
別表の他の箇所も間違えると多少の影響は出てしまいますが、別表4と適用額明細書だけは間違えるとダイレクトに納税額に影響してしまいますので、慎重に確認することをお勧めします。
申告書提出時・税金納付時の確認事項について
法人税・法人住民税・法人事業税・消費税の申告書を税務署に提出し、算出された税額を納付すれば、その事業年度の経理・税務作業は終了になります。
申告書を直接税務署に提出した場合の税務署の受領印は廃止されましたので、E-TaxやEL₋Taxを利用した電子申告をすることをお勧めします。
銀行融資を受ける場合に提出する申告書にE-taxやEl-Taxの受付記載がないと、税務署に提出した申告書か判断がつかず、融資を受けられない可能性があります。
また、必ず会計ソフト(弥生会計など)の入力データは残しておいてください。
①税務調査で利用される総勘定元帳を出力するため、②経営判断で利用される月次試算表を出力するためには、年度最終の会計ソフトの入力データが必要になります。
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