特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例(敷地の80%減額)を適用することを将来考えた場合、事業承継の時期は非常に重要になります。
特に、被相続人の「生前に」事業承継をする場合、かなりの確率で特定事業用宅地等に該当しなくなりますので、注意が必要になります。
今回は事業承継の時期による小規模宅地等の特例の適用の可否を見ていきましょう。
相続後の事業承継の事例
【事例1】
父は電気屋を営んでいたが、父が死亡し、相続が開始した。
息子の私はサラリーマンをしていたが、退職して事業を引継ぎ、店舗用の敷地を相続した。
【事例2】
父は電気屋を営んでいたが、父が死亡し、相続が開始した。
息子の私はサラリーマンをしていたが、退職して事業を引継ぎ、店舗用の敷地を相続した。
事例1と事例2の共通点は父が営んでいた事業を相続「後」に息子(親族)が引き継いでいることです。
特定事業用宅地等として小規模宅地の特例(敷地の80%減額)を適用する場合、「敷地を取得する親族が生計を一にしていること」という要件はありません。
つまり、事例1のように、父の電気店に正社員として働き、月々の給与をもらって、別の場所に暮らしていても、事例2のように、父の事業と関係なく全く別のサラリーマンをして別の場所に暮らしていても特定事業用宅地等として小規模宅地の特例を適用することができます。
この特例の趣旨が、父(被相続人)から引き継いだ家業を保護することにあるからです。
なお、父(被相続人)が死亡した段階では、息子(親族)はまだ学生で、当面の間、母親(親族)が事業主になるなどやむを得ない事情がある場合でも、息子が事業を承継したものとして扱えます。
生前の事業承継
【事例3】
父が営む電気屋を息子が生前に承継した。
父が死亡し、相続が開始したので、息子が店舗用の敷地を相続した。
生前、父と息子は同居しており、電気屋の稼ぎで息子は父の生計を支えていた。
【事例4】
父が営む電気屋を息子が生前に承継した。
父が死亡し、相続が開始したので、息子が店舗用の敷地を相続した。
生前、父は息子とは別居しており、父は事業承継後、年金で生活していた。
父(被相続人)の事業を「生前」に息子(親族)が承継している場合、父と息子が同一生計だったかどうかで特定事業用宅地等として小規模宅地の特例(敷地の80%減額)が利用できるかどうかが異なってきます。
つまり、事例3のように、父(被相続人)と息子(親族)の間で生前の事業承継後に生計を一にしている場合は、特定事業用宅地等として小規模宅地の特例を適用できることになります。
逆に、事例4のように、父と息子が別居してそれぞれが別生計で生活している場合には、特定事業用宅地等に該当せず、小規模宅地の特例を適用できないことになります。
また、仮に事業承継後に父を従業員として再雇用し、給与を支払っている場合でも、単なる雇用契約となり、それをもって、父と息子が同一生計だったとは言えないので注意が必要です。
生前の事業承継(事業承継後に同一生計でなくなった場合)
【事例5】
父が営む電気屋を息子が生前に承継した。
暫くは、父と息子は同居し、電気屋の稼ぎで父の生計も支えていたが、その後、息子は別居し、父とは別生計になった。
父が死亡し、相続が開始したので、息子が店舗用の敷地を相続した。
事業承継時に父と息子が同一生計であった場合でも、その後同居が解消し、別生計になり、父が死亡した場合、息子が相続した事業用宅地に小規模宅地の特例は適用されません。
仮に父と息子の同居が解消されていても、同一生計であれば、小規模宅地の特例は適用されます。
ただし、相続税の対象になる宅地を所有する父がお金に困っていることはあまり想定できず、同居を解消する場合、父の生活を息子が支えることがなくなる(別生計になる)のが一般的です。
つまり、毎月の生活費を息子が父に送金して父を扶養するような事態は考えにくいので、同居が解消されればほぼ間違いなく、父と息子は別生計になると考えられます。
なお、父が要介護状態になり、有料の老人ホームに入居した場合、やむを得ず同居が出来なくなりますが、息子が父を扶養している状態であると考えられるため、同一生計が維持され、承継した事業用宅地に小規模宅地の特例を適用できることになります。