特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例(80%減額)を適用するための相続前の要件としては以下の2つのどちらかを満たしている必要があります。
①被相続人(亡くなった人)が居住の用に供していた敷地であること
②被相続人(亡くなった人)と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた敷地であること
このうち、①被相続人が居住の用に供していた敷地の場合、同居親族、家なき子、配偶者のいずれかが居宅敷地を取得した場合に特定居住用宅地等として80%の減額が認められます。
相続税法上の家なき子に該当するためには、以下の5つの要件をすべて満たさなければなりません。
- 取得者は3年間、国内に持ち家(配偶者の持ち家を含む)がないこと。
ただし、相続開始の直前に被相続人(亡くなった人)の居住の用に供されていた持ち家を除く。 - 取得者が形式的な家なき子ではないこと。
- 被相続人に配偶者または被相続人と同居する相続税法上の法定相続人がいないこと。
- その宅地等を相続税の申告期限まで所有していること。
- 相続開始時に日本国内に住所を有していること。
あるいは日本国籍を有していること。
今回は、⑤相続開始時に日本国内に住所を有していること、あるいは、日本国籍を有していることについて確認していきましょう。
家なき子特例は別居を前提とする制度なので、相続人が海外に住んでいることもあります。
相続人が海外に住んでいる場合の家なき子特例の適用の可否を事例で確認していきましょう。
【事例1】
息子は海外に転勤しており、海外に持ち家を買い、そこに住所があります(国籍は日本です)。
父親は母親が亡くなってから、日本にある自己所有の居宅で一人暮らしをしています。
父親が亡くなり、相続が開始されました。
まず、家なき子に該当するためには、取得者は3年間、国内に持ち家(配偶者の持ち家を含む)がないことの要件を満たさなければなりません。
息子は持ち家を所有していますが、海外に持ち家があるので、この要件はクリアしています。
次に、相続開始時に日本国内に住所を有していること、または、日本国籍を有していることの要件を満たさなければなりません。
息子は海外に住所を有しているものの、日本国籍であるので、この要件もクリアしています。
よって、息子は家なき子に該当します。
【事例2】
娘は外国人と結婚し、海外の国籍を取得しており、5年前から海外に住所を有しています。
父親は母親が亡くなってから、日本にある自己所有の居宅で一人暮らしをしています。
父親が亡くなり、相続が開始されました。
家なき子に該当するためには、相続開始時に①日本国内に住所を有していること、あるいは、②日本国籍を有していることの要件を満たす必要があります。
娘は海外に住所を有しており、尚且つ、国籍が海外のためこの要件を満たすことができず、家なき子には該当しません。
【事例3】
娘は海外結婚をし、米国籍になっています。
15年前に娘の勧めで、独り身の母親もアメリカに移住し、自宅を買い、そこに住所を有しています。
なお、日本に住んでいた時の母親の自宅はそのままにしてあります。
相続人(娘)が海外に住んでいる場合、被相続人(母親)も海外に移住することも考えられます。
母親は10年超海外で住所を有しているので、相続税法上、非居住制限納税義務者になります。
非居住制限納税義務者の場合、国内の財産のみが相続税の課税対象となり、国外の持ち家はそもそも日本の相続税の課税対象外になります。
次に、母親が日本に住んでいた時の持ち家ですが、相続前の要件である、被相続人が居住の用に供していた敷地であることを満たしていませんので、そもそも特定居住用宅地等には該当しないので、小規模宅地等の特例(80%減額)は適用できません。
事例3は、小規模宅地等の特例の適用対象となる家なき子の判定以前の問題になります。
【参考】
相続により日本国内にある財産を取得した個人で、財産取得時に日本国内に住所を有しない者です。
また、被相続人・相続人が共に10年超海外に住んでいることも要件になります。
非居住「制限」納税義務者の場合は、国内財産のみが相続税が課税対象になります。
相続による財産取得時に日本国内に住所を有しない個人です。
ただし、非居住「制限」納税義務者に該当する者は除きます。
非居住「無制限」納税義務者の場合は、国内財産・国外財産ともに相続税が課税されます。