ひと昔前まで、法人の経営者が生命保険に加入する最大の理由は「節税」でした。保険料の全額を損金(経費)に算入できる商品が多く販売されており、節税目的だけで加入するケースが後を絶ちませんでした。
しかし、2019年6月に国税庁が法人税基本通達(9-3-5)を改正したことで状況は一変。最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険については保険料の全額損金算入が認められなくなり、純粋な節税目的での加入は難しくなりました。
こうした流れの中で今あらためて注目されているのが、「保険本来の保障機能」を活かした法人加入のメリットです。本記事では、節税以外の視点から法人の経営者が生命保険に加入すべき4つの理由を、具体的な制度や数字とともに解説します。
| 最高解約返戻率 | 当初期間の損金算入割合 | 後半・解約時 |
|---|---|---|
| 50%以下 | 全額損金 | 全額損金 |
| 50%超〜70%以下 | 60%損金・40%資産計上 | 全額損金 |
| 70%超〜85%以下 | 40%損金・60%資産計上 | 全額損金 |
| 85%超 | (1-最高解約返戻率×0.9)×保険料を損金 | 全額損金 |
※ 年換算保険料が被保険者1名につき30万円以下で最高解約返戻率70%以下の保険は「30万円特例」により全額損金算入可。詳細は国税庁 No.5364を参照。
法人経営者が生命保険に加入する4つのメリット
節税効果が薄れた現在でも、法人の経営者が生命保険に加入する理由は十分にあります。大きく分けると以下の4つです。節税対策はこれらのメリットに付随する副次的な効果と考えるのが正しい理解です。
- 経営者の相続・事業承継対策
- 従業員の福利厚生(死亡退職金・弔慰金の準備)
- 退職金・建物修繕費など将来の大型支出への備え
- 経営者が倒れたときの事業保障(運転資金の確保)
① 経営者の相続・事業承継対策
中小企業オーナーの相続財産は、自社株式や事業用不動産など現金化・分割が難しい資産が中心になりがちです。そのままでは遺産分割がスムーズに進まず、相続人間のトラブルにもつながります。
経営者が生前に生命保険に加入しておくことで、死亡保険金という「すぐに使える現金」が相続財産に加わり、遺産分割を円滑に進められます。さらに、生命保険金には相続税上の大きな非課税枠が設けられています。
🏦 死亡保険金の相続税非課税枠(国税庁 No.4114)
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 非課税限度額 | 家族構成の例 |
|---|---|---|
| 2人 | 1,000万円 | 配偶者+子1人 |
| 3人 | 1,500万円 | 配偶者+子2人 |
| 4人 | 2,000万円 | 配偶者+子3人 |
※ 受取人が相続人以外(孫など)の場合は非課税枠が適用されません。受取人の指定には注意が必要です。
事業承継への活用:税制だけに頼らない方法
事業承継の手段として「事業承継税制」がありますが、この制度は税金の支払いを猶予するだけであり、一定の要件を満たさなくなった時点で猶予税額の全額納付が求められるリスクがあります。
そこで注目される方法が、後継者を受取人に指定した生命保険を活用する事業承継プランです。経営者の死亡時に後継者が受け取る死亡保険金を原資として、相続人から自社株を買い取ることで、スムーズな経営権の移転が実現します。
💡 生命保険を使った事業承継のステップ
- 経営者が存命中に、後継者(または法人)を受取人とした生命保険に加入
- 毎月の保険料支払い=計画的・平準的な資金の積み立て(一部は損金算入)
- 経営者死亡時、後継者が死亡保険金を受け取る
- その保険金で相続人から自社株式を買い取り、経営権を確保
→ 事業承継税制の要件維持リスクを回避しながら、確実な株式取得が可能になります。
② 従業員の福利厚生(死亡退職金・弔慰金の準備)
従業員を抱える企業にとって、在職中の死亡に備えた死亡退職金・弔慰金の準備は重要な福利厚生です。急きょ手元資金から捻出しようとすると、会社の資金繰りに深刻な影響が出ることがあります。
こうした備えに有効なのが、養老保険のハーフタックスプランです。法人が契約者となり、従業員全員を被保険者として加入する方法で、福利厚生と節税効果を同時に得られます。
📋 養老保険ハーフタックスプランの仕組み
| 契約者 | 法人(会社) |
|---|---|
| 被保険者 | 従業員全員(役員含む場合あり) |
| 死亡保険金受取人 | 従業員の遺族 |
| 満期保険金受取人 | 法人(会社) |
| 保険料の損金算入 | 支払保険料の1/2を損金算入(残り1/2は資産計上) |
- 従業員が在職中に亡くなった場合 → 遺族に死亡保険金が支払われ、福利厚生として機能
- 保険期間満了まで生存した場合 → 法人が満期保険金を受け取り、退職金原資などに活用可能
- 保険料の半分が毎期損金算入でき、長期的な税負担の軽減にも貢献
③ 退職金・建物修繕費など将来の大型支出への備え
経営者の退職時に支払う役員退職金、あるいは自社所有物件の大規模修繕は、必ずいつか訪れる大型支出です。いざというときに手元資金が不足すれば、金融機関への借入れや資産売却を迫られかねません。
生命保険の解約返戻金は、退職金・修繕費の支払いタイミングに合わせた「計画的な資金準備手段」として活用できます。早い段階から加入して保険料を支払っておくことで、一時的な大型出費による資金ショートを防げます。
✅ 退職金準備に生命保険を使う3つのポイント
- 毎年の保険料が平準化されるので、資金計画が立てやすく会社の資金繰りを圧迫しない
- 保険料の一定額が損金算入でき、毎期の税負担を軽減できる
- 経営者が在職中に万一亡くなった場合も、死亡保険金で退職金を賄える
なお、退職金の支払い時期に解約返戻金を受け取ると益金(収益)として課税対象になりますが、同時に退職金を損金として計上することで課税所得を相殺できます。これが「節税対策は副次的なメリット」と言われる理由のひとつです。
④ 経営者が倒れたときの事業保障(運転資金の確保)
多くの中小企業では、経営者が「経営戦略・営業・資金調達・人事採用」をほぼ一人でこなしています。そのような経営者が突然の病気や事故で倒れたとき、会社は深刻な危機に直面します。
⚠️ 経営者が突然倒れた場合に起こりうるリスク
- 売上・受注が急減し、従業員への給与・取引先への支払いが困難になる
- 銀行借入の保証人が不在となり、既存融資の一括返済を求められる可能性がある
- 後継者が経営を引き継ぐまでのつなぎ資金が尽き、廃業・清算に追い込まれるケースも
経営者を被保険者とした法人契約の生命保険(死亡・高度障害保険)に加入しておくことで、万一の際に受け取る保険金が緊急の事業資金として機能します。後継者が経営を立て直すまでの給与・借入返済・仕入れ代金などをまかなうことができ、事業継続の可能性が大きく高まります。
📊 事業保障に活用できる保険の種類
| 保険の種類 | 特徴 | 主な活用場面 |
|---|---|---|
| 定期保険 | 掛け捨て型で保険料が割安。一定期間の死亡保障 | 借入金返済・運転資金の確保 |
| 逓増定期保険 | 保険金額が年々増加。事業成長に合わせた保障 | 成長期の会社の保障確保 |
| 終身保険 | 解約返戻金が大きく貯蓄性が高い | 退職金準備と保障の両立 |
| 養老保険 | 死亡保障+満期保険金。貯蓄と保障を兼ね備える | 福利厚生・退職金準備 |
まとめ:節税より「本質的な保障」を優先して考える
2019年の法人税基本通達改正以降、生命保険を「節税のツール」として活用することは難しくなりました。しかし、それは生命保険の価値が下がったことを意味しません。
📌 法人生命保険で解決できる4つの経営課題(まとめ)
| 経営課題 | 活用する保険 | 副次的な節税効果 |
|---|---|---|
| 相続・事業承継 | 終身保険・定期保険 | 相続税の非課税枠(500万円×法定相続人数)活用 |
| 従業員の福利厚生 | 養老保険(ハーフタックス) | 保険料の1/2が損金算入 |
| 退職金・修繕費の準備 | 終身保険・養老保険 | 退職金との損益通算 |
| 経営者不在時の事業保障 | 定期保険・逓増定期保険 | 保険料の一部が損金算入 |
法人の生命保険は、「もしものときに会社・家族・従業員を守る」という本来の目的から設計することが重要です。節税効果はあくまでも副次的なメリットとして捉え、自社の経営状況や将来計画に合わせて最適な保険を選ぶようにしましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、貴社の個別税務アドバイスを行うものではありません。具体的な保険設計や税務処理については、保険会社も同席させて、ご相談を伺いますので、お問い合わせよりご連絡をください。


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