事業用宅地や貸付用宅地に対して小規模宅地等の特例を適用するためには、相続開始までに3年超の保有と利用が必要になります。
しかし、事業用宅地・貸付用宅地共に3年超の保有や利用を必要としない例外が存在します。
今回は事業用宅地と貸付用宅地の3年縛りのルールの例外の違いを一緒に確認していきましょう。
なお、例外に当てはまれば、小規模宅地等の特例を適用できることになり、相続税額を何千万円も減らせる可能性が出てきます。
事業用・貸付用宅地の小規模宅地等の特例について
相続税法上の小規模宅地等の特例を適用するにあたっては、特定事業用宅地等(事業の用に供する土地や借地権)又は貸付事業用宅地等(貸付の用に供する土地や借地権)に該当することが必要でした。
3年縛りのルールについて
そして、特定事業用宅地等でも貸付事業用宅地等でも、事業開始又は貸付開始から3年以内に相続があれば、特定事業用宅地等や貸付事業用宅地等に該当しなくなるという3年縛りのルールが存在します。
3年縛りのルールの例外について
ただし、特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等で異なる3年縛りのルールの例外が存在します。
特定事業用宅地等の3年縛りのルールの例外
特定事業用宅地等の3年縛りのルールの例外は宅地(土地や借地権)の上に建物や設備があり、その評価額の合計が宅地の評価額の15%以上であることです。
きちんと資本投下して事業を営んでいく覚悟があれば、新規の事業用宅地でも、特定事業用宅地等に該当させ、その宅地に対して小規模宅地等の特例(80%減額)を適用させようという趣旨です。
事例で確認してみましょう。
【事例1】
父親は×1年1月よりコンビニ経営を始めるため、未利用の敷地(評価額1億円)に建物を建てました。
×2年12月に父親が亡くなり、息子が事業を承継し、敷地を相続しました。
なお、相続時の建物の評価額は、2,000万円です。
建物の評価額(2,000万円)が敷地の評価額の15%(1,500万円)以上なので3年縛りのルールは適用されないことになります。
よって、特定事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用出来ることになります。
貸付事業用宅地等の3年縛りのルールの例外
貸付事業用宅地等の3年縛りのルールの例外は、亡くなった人(被相続人)がすでに3年を超えて事業的規模(5棟10室)で貸付事業を行っていた場合に、新規で貸付事業用の宅地を取得していた時です。
被相続人がすでに事業的規模で貸付事業を行っていれば、新規の貸付事業用宅地等の取得が、小規模宅地等の特例(50%減額)を狙った意図的な節税対策には該当しないとの課税庁側の判断です。
具体的な事例で見た方が分かり易いです。
【事例2】
父親は×1年1月にアパートA(10室)を購入し、賃貸業を営んでいます。
×3年6月に新たにマンションB(5室)を購入しました。
×4年12月に父親が死亡し、息子が貸付事業を承継し、宅地等を相続しました。
この場合、父親(被相続人)が貸付事業を始めたのが、相続開始より3年以上前(×1年1月~×4年12月)なので、マンションBの敷地について、購入してから1年6か月(×3年6月~×4年12月)しか経過していませんが、マンションBの敷地も貸付事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例に該当することになります。
なお、マンションAの敷地も当然貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象に含まれます。
事業用と貸付用で3年縛りのルールに違いが出る場合
事業用と貸付用で3年縛りのルールに違いが生じるのが宅地を買い換えた場合と宅地を買い増した場合です。
宅地を買い換えた場合
事業用の宅地の場合、宅地を買い換えても事業が継続しているとみなされ、15%基準さえ満たしていれば、3年以内の取得でも特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例が適用できることになります。
一方、貸付用の宅地の場合、宅地を買い換えると、一旦、事業的規模(5棟10室基準)が途切れたと認定され、新しく取得した宅地は、3年を超えて貸付をしないと貸付事業用宅地等とは認定されなくなります。
事例で確認すれば分かり易いです。
【事例3】(特定事業用宅地等)
父親は×1年1月に未利用の土地Aを利用して雑貨店を始めました。
×4年2月に事業拡大のため土地B(1億円)を新たに購入し、その上に建物を建て雑貨店を移転しました(旧店舗は閉鎖しました)。
×4年12月に父親が亡くなり、息子が事業を承継し、土地を取得しました。
なお、相続時の建物と設備の評価額は3,000万円です。
事業用の土地に対する3年縛りのルールの例外は土地の評価額の15%以上の建物・設備の評価額が残っているかどうかでした。
本事例では、土地の評価額 1億×15%(1,500万円)≦建物・設備の評価額 3,000万円のため、3年縛りのルールの例外に当たります。
よって、新しい宅地に移動してから相続までの期間が10か月(×4年2月~×4年12月)ですが、土地Bは特定事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を利用できることになります。
【事例4】(貸付事業用宅地等)
父親は×1年1月にアパートA(10室)を購入し、貸付事業を開始しました。
父親は×4年2月にアパートAを売却し、アパートB(15室)を新たに購入して、貸付事業を継続しています。
×4年12月に父親が死亡し、息子が貸付事業を承継し、土地を取得しました。
貸付用の土地に対する3年縛りのルールの例外は、亡くなった人(被相続人)が3年を超えて事業的規模(5棟10室)で貸付事業を行っていることでした。
アパートAは10室あるので、貸付を開始した×1年1月~×4年2月までは事業的規模(5棟10室)で3年以上貸付事業を営んでいたということになります。
ただし、アパートAを×4年2月に売却してしまっているので、例え、その後アパートBを購入したとしても、貸付事業は一度途切れたと考えることになります。
よって、×4年12月に父親の相続が発生した段階では、10カ月(×4年2月~×4年12月)しか事業的規模で貸付事業を営んでこなかったと判断され、貸付事業用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例(50%減額)は適用できないことになります。
宅地を買い増した場合
事業用の宅地を買い増した場合、買い増した宅地の上の建物や減価償却資産が買い増した宅地の評価額の15%以上なければ、3年縛りのルールに抵触し、特定事業用宅地等として小規模宅地等の特例が適用できないことになります。
一方、貸付用の宅地を買い増した場合、以前から営まれている事業的規模(5棟10室基準)の貸付けは継続されているので、新しく取得した宅地に対しても、貸付事業用宅地等と認定され、小規模宅地等の特例を適用できることになります。
こちらも事例で確認した方が分かり易いです。
【事例5】(特定事業用宅地等)
父親は×1年1月に未利用の土地Aで雑貨店の経営を始めました。
×4年2月に雑貨店のお客さんのために隣の土地Bを購入し、そのまま駐車場としています。
×4年12月に父親が死亡し、息子が雑貨店を承継し、土地を相続しました。
土地Bの購入から父親の相続までの期間は10か月(×4年2月~×4年12月)しかありません。
また、土地Bには資本投下をしていないので3年縛りのルールの例外である15%以上の基準を満たしていません。
よって、土地Bは原則通りの3年縛りのルールから特定事業用宅地等に該当しないことになります。
なお、土地Aに関しては、事業開始から父親の相続開始までに4年(×1年1月~×4年12月)経過しており、3年縛りのルールは適用されません。
よって、土地Aについてのみ特定事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例(80%減額)を適用できることになります。
【事例6】(貸付事業用宅地等)
父親は×1年1月にアパートA(10室)を購入し、貸付事業を開始しました。
×4年2月に駐車場B(10台分)を購入しました。
×4年12月に父親が死亡し、息子が貸付事業を継承し、土地を相続しました。
父親が死亡するまでの期間に事業的規模で貸付事業が営まれていたのは4年(×1年1月~×4年12月)です。
よって、事業的規模で3年を超えて貸付事業を行っているため、駐車場Bの貸付期間が10か月(×4年2月~×4年12月)しかなくても、駐車場Bは貸付事業用宅地等に該当します。
また、事業的規模で貸付期間が3年超あるアパートAも貸付事業用宅地等に該当します。
アパートAと駐車場Bの合計面積が貸付事業用宅地等の上限面積である200㎡以下であれば、両者ともに小規模宅地等の特例(50%減額)の対象になります。