
生命保険の契約主体には法人と個人の2通りがあります。
今回は、個人契約の生命保険を相続対策に活用する方法を考えてみましょう。
相続税の納税額がある人は、納税資金の準備や節税対策として、生命保険契約を結ぶことが多いですが、納税がない人でも、生命保険を利用すれば、残された相続人等に死亡保険金を残せるだけでなく、相続間の争いを減らせる可能性もあります。
相続に生命保険を活用する理由
相続に生命保険を活用する理由には以下の4つが考えられます。
- 納税資金の確保に貢献するため
- 遺言と同じ効果が得られるため
- 生前贈与を利用した納税資金の準備ができるため
- 500万円の相続税の非課税枠を利用した節税対策ができるため
納税資金の確保に貢献するため
相続財産の多くが不動産等のすぐに処分して現金化できない資産で占められている場合、相続人(相続する人)が税務署に相続税の支払いをすることが難しい場合があります。
相続税は有価証券や不動産など換金価値がある財産で支払うことも「一応」認められていますが、要件が非常に厳しいため、現実的には現金で支払うことが一般的です。
相続した不動産を売却しようにも買主が見つからないということも考えられるでしょう。
もし、相続財産が不動産等の換金しづらい固定資産で占められている場合、生命保険を利用すれば、相続税の納税前のタイミングで保険会社から死亡保険金(現金)が支払われるので、納税資金を確保することができます。
また、相続財産を相続人間で分割する際も現金(死亡保険金)が手元にあった方が分割し易く揉めずに済みます。
遺言と同じ効果が得られるため
死亡保険金はあらかじめ決められた受取人が「直接」取得するものであり、特別な場合を除いて相続財産には含まれません。
そのため、死亡保険金は現金や預金と違い、お金に色をつけることができます。
つまり、生命保険契約に加入することは、被相続人にとって、遺言書を書いたのと同じ効果を得ることができるということです。
また、被相続人の気が変わったら、生命保険の受取人変更をすることで簡単に遺言者を書き直したのと同じ効力を得ることができます。
使い方はそれぞれですが、例えば、残された家族が揉めないように早めに遺言書を作成したけど、状況が変化したので、それに合わせて相続人や相続金額を変えたいという時などに利用できたりします。
生前贈与を利用した納税資金の準備ができるため
被相続人が生前に相続人予定者に対して、資金を贈与し、相続人予定者がその資金で保険に加入して節税を図るというスキームです。
この方法を利用すれば、相続人の相続財産を贈与により減少させつつ、相続人予定者の納税資金を計画的に準備することができます。
被保険者(=被相続人)の死亡時に相続人予定者(契約者・保険金受取人)が受取る死亡保険金は、所得税法の一時所得の対象となりますので、受取った死亡保険に対する納税額も普通の所得より優遇されます。
なお、贈与税には「受取人基準」で年間110万円までの非課税枠があるので、相続人予定者が他に贈与を受けていなければ、贈与税もかかりません。
では、生前贈与を利用した納税資金の準備のスキームがどれくらい効果があるか、以下の事例で確認してみましょう。
- 以下の条件の場合、相続人予定者が受取れる死亡保険金・相続人の相続税の節税額はいくらになりますか?
- 保険種類 終身保険
- 契約者(保険料負担者)、保険金受取人 相続人予定者
- 被保険者 被相続人
- 死亡保険金 1,500万円
- 保険料(年間)90万円
- 被保険者の現在の年齢 50歳
- 保険料払込期間 65歳まで
- 保険期間 終身
- 【死亡保険金の受取額について】
相続人死亡時に相続人予定者が税務署に支払う所得税の一時所得の金額は以下の計算式で算出されます。所得税の一時所得の金額所得税(一時所得)=(死亡保険金の金額-支払保険料総額-50万円)×2分の1×所得税率
所得税(一時所得)=(1,500万円-90万円×15年)×2分の1×20%(簡便的にここでは20%とします)=15万円
よって、
受け取れる死亡保険金は、1,500万円ー15万円=1,485万円になります。
【相続人の相続税の節税額】
相続税の節税額は以下の計算式で算出できます。相続税の節税額相続税の節税額=(年間の贈与金額×贈与年数)×相続税率
相続税の節税額=(90万円×15年)×20%(簡便的にここでは20%とします)=270万円
【結論】
受け取れる死亡保険金+1,485万円
相続税の節税額+270万円
保険料の支払額=△90万円×15年=△1,350万円
よって、1,485万円+270万円-1,350万円=405万円のお金がプラスになったことになります。
上記事例の通り、生命保険をうまく活用できれば、相続財産を減少させつつ、計画的に納税資金の準備をすることができます。
なお、生前贈与を利用した納税資金の準備の被保険者は相続人で問題ありませんが、契約者・死亡保険金の受取人は子供より孫に出来れば、「税務上」の節税効果は高くなります。
いずれにせよ、生前贈与を利用した納税資金の準備をするためには、①税務上問題になりやすい贈与契約の成立の可否を検討すること、②支払保険料と死亡保険金や解約返戻金の収支を把握することが重要になります。
もし、このスキームを組むようであれば、一度税理士さんに相談した方が賢明でしょう。
500万円の相続税の非課税枠を利用した節税対策ができるため
まず、500万円の相続税の非課税枠を利用して節税対策を行うためには、生命保険の契約者及び被保険者(保険の対象になる人)が被相続者(亡くなられる予定の人)であることが要件になります。
要件を満たす場合、原則として500万円×法定相続人の数だけ相続税の非課税枠が利用可能になります。
なお、相続人に妻、子供がいる場合、子供に死亡保険金の受取額を多くする方が、トータルの節税金額が多くなる場合が多いです。
ただし、ケースバイケースなので、「生前贈与を利用した節税対策ができるため」で記載した内容と合わせてスキームを税理士と相談して策定した方が良いと思います。
ちなみに、500万円の相続税の非課税枠を利用する場合、死亡保険金は「みなし相続財産」として、他の相続財産と合算され、相続税の課税対象とされます。
「法令上(権利義務関係の決定上)」は、「遺言と同じ効果が得られるため」で述べた通り、死亡保険金は相続財産に含まれません。
しかし、「税法上(相続税法上)」は、死亡保険金は相続人の死亡に伴い発生する財産価値の移転と同様であるため、「みなし相続財産」として、相続税の課税対象に含まれてしまいますので、非課税枠以上の死亡保険金が発生する場合は注意が必要です。