会計ソフトで土地・建物の購入に係る消費税を入力する時の注意点!

法人が土地・建物を購入する事例は、たとえ不動産会社でなくても生じる可能性のある事象です。

もし、あなたが経理担当者で、土地・建物購入に係る消費税の仕訳をしなければならない場合、どうすれば良いでしょうか?

今回は土地・建物の購入に係る消費税の仕訳と会計ソフトの入力時の注意点について見ていきましょう。

会計ソフトの消費税への対応

会計ソフト(弥生会計など)では、実務で頻繁に利用する勘定科目をマスターで初期設定しており、経理担当者はマスター登録してある勘定科目から借方と貸方に該当する勘定科目を選んで仕訳を行います

会計ソフトを利用すれば、勘定科目を選ぶだけで、法人税の申告書や決算書を作成するための貸借対照表や損益計算書が自動的に作成されます。

消費税に関しても、会計ソフトのマスターの勘定科目で最初から設定されており、例えば、貸方に「売上高」の勘定科目を入力してやれば、「課税売上〇%」のように自動的に決められた消費税の設定が反映されます


会計ソフトの消費税入力の限界

消費税の入力にも便利な会計ソフトですが、消費税課税事業者が初期設定のまま利用する場合には、大きな落とし穴があります

1つの勘定科目に消費税区分は1つしか設定できないため、同じ勘定科目を利用する仕訳で、消費税区分だけが違う場合には、初期設定のままではうまく反映できません

例えば、弥生会計で、「建物」という勘定科目の消費税区分の初期設定は「課税仕入〇%」(○は現在の消費税率、以下同様)になっています。

これは、建物を購入した時に消費税が「課税仕入〇%」かかるということを想定して会計ソフトで初期設定されています。

しかし、決算整理仕訳で減価償却費を計上する場合、建物が貸方に計上されますが、この場合の貸方の建物の消費税は「課税仕入〇%」ではなく、「対象外」になります。

建物の利用に伴い減価償却費を計上するだけで消費税の預り(課税仕入○%のこと)が発生しては、感覚的にもおかしいと感じてもらえるでしょう。

上記の消費税の話しは少し難しいので、分からなければ、なんとなく読み飛ばして頂ければ良いです。

ただ、会計ソフトの初期設定の勘定科目を利用するだけでは、消費税を正確に計算するためには不十分であり、以下のような対策を取る必要があることだけは覚えておいてください。

消費税を正確に計算するための対応方法
  1. 仕訳入力後、必要に応じて会計ソフト上で「直接」消費税区分を変更してやる
  2. 同じ勘定科目でも消費税別に2つ以上のマスターを作成する(例:建物でも「課税仕入〇%」と「対象外」の2つの勘定科目マスターを作成する)



どちらの方法を採用しても良いのですが、「直接」消費税区分を変更してやる方法は、担当者変更などが起こり、引継ぎがうまくいかないと、変更忘れが生じ、重大なミスにつながる原因になります

よって、個人的には同じ勘定科目でも消費税別に2つ以上のマスターを作成する方法をお勧めしています


土地・建物の購入に登場する勘定科目の消費税について

それでは、本題の土地・建物の購入に登場する勘定科目の消費税区分について考えていきましょう。

特に、消費税課税事業者で個別対応方式を採用している場合、消費税区分が非常に難しくなります

納税額の状況にもよりますが、税務リスクを避けたいならば、比例配分方式に変更するのも一つの方法です。

消費税の集計方法-個別対応方式

仕入や経費に伴い支払ったすべての消費税を、以下の3つに区分し、売上げに伴い預かっている消費税から控除する方法です。

  • 消費税を預かっている売上げにのみ関係する仕入や経費(以下、課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの)
  • 消費税が発生しない売上げにのみ関係する仕入や経費(以下、非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの)
  • 上記のどちらにも属する仕入や経費(以下、課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの)
消費税の集計方法-比例配分方式

仕入や経費に伴い支払ったすべての消費税に課税売上割合(全体の売上高に対する消費税を預かっている売上高の割合)を掛け、売上げに伴い預かっている消費税から控除する方法です。
仕入や経費に伴い支払ったすべての消費税を個別対応方式のように3つに分類する必要がありません
つまり、仕入や経費に伴い支払ったすべての消費税を個別対応方式の「どちらにも属する仕入や経費」と同じように考える方法です。


土地

土地の購入は、「土地」という勘定科目で処理されます。

土地の購入は、「品物」に対して払った「対価」ですが、課税の対象になじまないため、消費税は非課税(会計ソフトによっては対象外)です。

会計ソフトの初期設定通りでOKです。

建物

建物の購入は、「建物」という勘定科目で処理されます。

建物の購入は、「品物」に対して払った「対価」であるため、全額課税仕入になります

会計ソフトの初期設定通りでOKです。

なお、前述の通り、減価償却の際の貸方の建物は、「対象外」で処理しますので、ご注意ください。

不動産取得税

不動産取得税は、「租税公課」という勘定科目で処理されます。

「品物やサービス」に対して支払った「対価」でないため、消費税は不課税(会計ソフトによっては対象外)です。

会計ソフトの初期設定通りでOKです。

登録免許税

登録免許税は、登記のためにかかった費用であり、「租税公課」という勘定科目で処理されます。

不動産取得税と同じく、「品物やサービス」に対して支払った「対価」でないため、消費税は不課税(会計ソフトによっては対象外)です。

会計ソフトの初期設定通りでOKです。

印紙税

印紙税は、契約書等に貼る印紙の代金であり、「租税公課」という勘定科目で処理されます。

不動産取得税や登録免許税と同じく、「品物やサービス」に対して支払った「対価」でないため、消費税は不課税(会計ソフトによっては対象外)です。

会計ソフトの初期設定通りでOKです。

司法書士の登記手続き実施に対する報酬

司法書士の登記手続実施に対する報酬は、「支払報酬」などの勘定科目で処理されます。

司法書士に登記手続きを頼むという、「サービス」の提供に対して支払った「対価」のため、全額課税仕入になります。

個別対応方式の場合、注意が必要で、購入した土地・建物が①事務所用、②居住用、③事務所・住居の両方かで消費税区分が分かれます

司法書士報酬-個別対応方式の場合
  1. 事務所用⇒課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  2. 居住用⇒非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  3. 事務所・居住用の両方⇒課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの



会計ソフトの初期設定では駄目で、個別対応方式を採用している会社では、マスターの設定で同じ「支払報酬」でも消費税別に3つの勘定科目を再設定しなければならないことになります。

不動産会社に対する仲介手数料

不動産会社に対する仲介手数料は、土地・建物の取得価額に算入するため、「土地」、「建物」などの勘定科目で処理されます。

不動産会社に頼んだ仲介という、「サービス」の提供の結果、支払った「対価」のため、「全額」課税仕入になります。

「土地」のマスターの初期設定が「非課税仕入」(会計ソフトによっては「対象外」)になっているため、会計ソフトの初期設定のままだと完全に間違えますので注意が必要です。

なお、司法書士報酬のときと同じで、個別対応方式の場合、購入した土地・建物が①事務所用、②居住用、③事務所・住居の両方かでさらに消費税区分が分かれます

仲介手数料-個別対応方式の場合
  1. 事務所用⇒課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  2. 居住用⇒非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  3. 事務所・居住用の両方⇒課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの



つまり、個別対応方式を採用している会社では、マスターの設定で同じ「土地」・「建物」でも消費税別に3つの勘定科目を設定しなければならないことになります。

なお、前述の通り、一括比例配分方式の場合でも「土地」に関しては、「課税仕入」と「非課税仕入」の2つを勘定科目をマスターに設定しなければならないため注意してください。

固定資産税・都市計画税の清算金

固定資産税・都市計画税の清算金とは、固定資産税・都市計画税は1月1日の所有者に1年分の納税義務があるため、売主が税金を納めるけれど、不動産売買後の日割税金分は本来買主負担のため、不動産売買時に清算しようというものです。

売主が既に支払っている固定資産税・都市計画税の清算金は「土地」・「建物」の取得価額に含めなければなりません

法人税法上の考え方としては、売主と買主の清算金は両者が行う利益調整のための金銭の授受で、あくまで「直接」土地・建物を購入するために一般人が行う私的な取引の一環のため、土地・建物の取得価額を構成するという考え方です。

ここまでは、調べればすぐ分かるのですが、問題になるのはやはり消費税です。

こちらは、固定資産税・都市計画税の全額を「課税仕入」にはできず、固定資産税・都市計画税の清算金のうち、「建物」部分に係る金額を「課税仕入」、「土地」部分に係る金額を「非課税仕入」に区分することになります

そして、個別対応方式を採用している場合、いつも通り、「建物」部分に関しては、①事務所用、②居住用、③事務所・住居の両方かでさらに消費税区分が分かれます。

固定資産税等清算金-個別対応方式の場合
  1. 事務所用⇒課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  2. 居住用⇒非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの
  3. 事務所・居住用の両方⇒課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの



つまり、個別対応方式を採用している会社では、マスターの設定で同じ「建物」でも消費税別に3つの勘定科目を設定しなければならないことになります。

火災保険料

火災保険料を支払った時は、契約期間に応じて「保険料」、「長期前払費用」という勘定科目で処理されます。

また、消費税は、最初に「保険料」、「前払費用」を支払った時に判断します

保険料は消費税の性格上、「課税の対象としてふさわしくないものや、社会政策上の観点から課税することが適当でないもの」に分類されるため、非課税仕入(会計ソフトによっては対象外)に分類されます。

法人税法上の勘定科目の論点はありますが、消費税は会計ソフトの初期設定通りで基本的にOKです。

地震保険料

地震保険料を支払った時は、契約期間に応じて「保険料」、「長期前払費用」という勘定科目で処理されます。

また、消費税は、最初に「保険料」、「長期前払費用」を支払った時に判断します

保険料は消費税の性格上、「課税の対象としてふさわしくないものや、社会政策上の観点から課税することが適当でないもの」に分類されるため、非課税仕入(会計ソフトによっては対象外)に分類されます。

法人税法上の勘定科目の論点はありますが、消費税は会計ソフトの初期設定通りで基本的にOKです。


まとめ

最後にこの記事のポイントだけまとめて終わりにしたいと思います。

これだけは覚えておいて欲しい事項!
  • 会計ソフトの初期設定では、1勘定科目につき、1つの消費税区分しか設定されていないため、土地・建物購入時には以下の対応を取る必要がある。
    1. 仕訳入力後、必要に応じて会計ソフト上で「直接」消費税区分を変更してやる
    2. 同じ勘定科目でも消費税別に2つ以上のマスターを作成する(例:建物でも「課税仕入〇%」と「対象外」の2つの勘定科目マスターを作成する)
  • 土地・建物の購入に関係する消費税区分と会計ソフトの設定上の注意は以下の通りである。
    1. 土地⇒非課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!
    2. 建物⇒購入の場合は「全額」課税取引個別対応方式を採用している場合や貸方に建物が登場する場合は要注意!
    3. 不動産取得税⇒不課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!
    4. 登録免許税⇒不課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!
    5. 印紙税⇒不課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!
    6. 司法書士の登記手続き実施に対する報酬⇒「全額」課税取引。会計ソフト入力要注意!
    7. 不動産会社に対する仲介手数料⇒「全額」課税取引。会計ソフト入力要注意!
    8. 固定資産税・都市計画税の清算金⇒「建物」部分は課税取引「土地」部分は非課税取引。会計ソフト入力注意!
    9. 火災保険料⇒非課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!
    10. 地震保険料⇒非課税取引のため会計ソフト初期設定でOK!