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銀行の格付けのために決算書を黒字にしよう
不動産賃貸業を営んでいくためには、銀行から融資を受けることが前提になるため、当然銀行からの格付けが非常に重要になります。
銀行の格付けはあなたが提出した決算書から判断されており、決算書はなるべく黒字にしておきたいところです。
このあたりのお話は前回「融資を受ける際の格付けの説明と不動産賃貸業での注意点」でお話した通りになります。
不動産賃貸業の場合、売上の実績が当初の予想と大幅にかい離することは珍しく、最初に予想した売上の範囲内で経費計画を建てていれば、よほどのことがない限り決算で赤字になることはないでしょう。
ただ、突発的な大規模修繕工事や不動産賃貸業を始めた当初で経費が安定しない場合などは赤字になることもあります。
特殊事情で発生した一過性の赤字であれば、それほど融資に影響は出ないでしょうが、銀行に説明するのも面倒くさいですし、正直赤字は出したくないところです。
そこで、今回は赤字決算が予想される際に黒字決算へもっていくための方法をいくつか紹介していきたいと思います。
物件購入時の諸費用を経費処理しない
最初に検討したいのが、通常は経費として計上しているものですが、資産に計上しても良いものです。
例えば、不動産購入時に通常は経費計上する建物の登録免許税・不動産取得税・司法書士手数料は資産計上することができます。
法人税法上は「諸費用を経費に計上できる」(基本通達7-3-3の2)と記載されているだけなので、勿論、資産として計上しても問題ありません。
ちなみに、「土地」に関する登録免許税等も資産計上できるのですが、土地は減価償却できない(売るときまで資産計上されたまま)固定資産なので、できれば土地に関する登録免許税等は経費に計上したいところです。
ただし、土地に関する登録免許税等を資産計上した場合は、土地の取得価格がその分大きくなるので、売却の時に利益が出にくくなりそれはそれでいい時もあります。
なお、赤字が少額の場合で、黒字にしたいけどなるべく多くの経費を計上したいという場合、登録免許税・不動産取得税・司法書士手数料をそれぞれについて経費に計上するか、資産に計上するかを判断してもOKです。
例えば、建物の登録免許税だけを資産計上して、不動産取得税や司法書士手数料を経費計上しても問題ありません。
物件購入時の諸費用を経費か資産か選べるのは法人の場合だけです。個人事業主の場合は所得税法が適用され、所得税基本通達37-5で「業務の用に供される資産に係る登録免許税、不動産取得税等は必要経費に算入する。」とあるので、強制的に経費計上されることになります。
開業費・創立費を繰延資産に計上する
こちらは新規開業・創立の場合にだけ使える手段です。
開業前・創立前にかかった費用は初年度の費用として計上することもできますが、繰延資産として資産計上しておき、次年度以降償却して経費に計上することもできます。
開業費・創立費の対象となる経費の範囲は後々の利益調整として使用されないためにも限定されていますが、会社設立のためにかかる費用や賃貸用物件の購入に係る直接的な費用(調査費や出張費など)など結構な金額が計上されることになります。
開業初年度ならば、開業費・創立費を繰延資産として資産計上するだけでかなり黒字に近づけるはずです。
修繕費に計上されているものを資産計上する
開業当初以外で赤字になる原因は大規模修繕以外考えられないでしょう。
逆に大規模修繕がなくて、不動産賃貸業で赤字が恒常的に発生するようであれば融資の前に事業撤退を考えた方がよいかもしれません。
「工事の見積書を精査して経費計上できる部分がないか探してくださいね。」と伝えるのが通常の業務なのですが、今回は逆に「工事見積書を見て、明らかに修繕費になるもの以外は資産計上してくださいね。」と伝えることになります。
税法上だけを考えれば、資産計上しなくてはならないものを経費計上すると問題ですが、経費計上できるものを資産計上してもあまり大きな問題にはなりません。
税務署側からすると、納税者から税金が早めに納められることになるだけだからです。
経費の計上を一部取り止める
経費の計上を一部取り止めることにより経費の総額を減らして赤字を解消する方法です。
税法的には、納税額が多くなる調整をしているだけなので問題はないです。個人事業主や小規模の会社なら、私用部分の領収書が紛れ込んでいたという建て付けで領収書の一部を帳簿から取り消すことは可能でしょう。
ただ、ある程度以上の規模の会社になると流石に内部統制上あまり好ましくない方法です。「恒常的に私用の領収書が紛れ込んでいるの?(=会社を私物化しているの?)」という疑いが強く出てしまいますので、少なくてもある程度以上の規模の会社はやらない方が良いでしょう。
減価償却費の計上を取りやめる
まず、個人事業主の減価償却費の計算は強制なのでこの方法は使えません。法人の場合のみ利用できる手段です。法人の場合、赤字になりそうならば、その年度の減価償却費の計算をしなくてもOKです。
つまり、減価償却費の計上額分だけ経費が少なくなり、赤字から黒字に近づくことになります。
ただし、減価償却費の計上を取り止めたことは、法人税申告書の別表16を見れば、すぐに分かってしまうため、最終手段にしましょう。