不動産賃貸業を営んでいるオーナーならば、一度は不動産管理会社を設立した方が、節税対策上有利になるという話を聞いたことがあるのではないでしょうか?

所得税率が上がり、一方で法人税率が下がっている背景もあり、日々、たくさんの同族経営の不動産管理会社が生まれています。

そして、そこに商機があると考える税理士事務所、司法書士事務所、行政書士事務所があなたの不動産賃貸業の事業内容も知らずに「不動産管理会社を設立して節税対策をしませんか?」と勧誘してくることも多いはずです。

会社設立をさせたい税理士事務所等は不動産管理会社を設立するメリットをいろいろ挙げて、あなたを煽ってくることもあると思います。

ただ、不動産管理会社を設立することは必ずしも良いことばかりではありません

会社形態で不動産賃貸業を行うと、例えば、生命保険料などの費用を全額経費に算入できるなどの節税対策上の利点はいろいろあります

しかし、個人で不動産賃貸業を行っていた時代には想定されなかったような事態が生じることも忘れてはいけません。

いったん、不動産賃貸業を不動産管理会社に移管してしまった後では、なかなか個人事業主に戻ることは難しいことだけは覚えておいて欲しいです。

そこで、今回は会社設立を勧めてくる士業の営業が絶対に話さない、「不動産管理会社活用法の裏に隠されたデメリット」を7つ挙げてみます。

不動産管理会社を活用するメリット(「不動産賃貸業を営む個人事業主が管理会社を設立するメリットについて!」)と表裏になる記事になりますので、必ず不動産管理会社を活用する前には確認して頂き、メリットがデメリットを上回るかを考えて欲しいところになります。




設立費用がかかる

不動産管理会社を活用するために同族会社を設立する場合は、設立費用(登録免許税や定款認証手数料)が掛かります

おおよその目安として、株式会社で20万円~25万円、合同会社で6万円~10万円、一般社団法人で10万円~15万円程度です。

当然ですが、設立にかかった費用は会社の損金(=経費)になります。個人事業主の必要経費だと誤解している方がいますが、会社の損金(=経費)なので気を付けてください。

赤字の場合でも住民税の均等割(7万円程度)を支払うことになる

会社(一般社団法人を含む)の場合、年度の利益が赤字であっても年間7万円程度の地方税の均等割を支払わなければなりません

個人事業主にも住民税の均等割はありますが、こちらは5,000円程度です。

個人事業主より法人の方が多く均等割を払わなければならないことに注意してください。

個人所得以外に法人所得が発生し、所得計算が難しくなる

同族経営の不動産管理会社を活用すると個人事業主の所得(=個人所得)と会社の所得(=法人所得)の2つの所得が発生します

単純に考えても、個人所得と法人所得で記帳・申告の手間は2倍になります

さらに、節税目的のために役員報酬や不動産管理料を個人事業主と会社間でやり取りしますので、所得移転が起き、個人所得と法人所得の区分問題が生じますので、所得計算が非常に難しくなります

可処分所得の一部が会社に帰属し、不動産所有者(個人)の可処分所得が減少する

不動産所有者(個人)に集中していた所得を同族経営の不動産管理会社に移転すれば、個人事業主と会社の双方で所得が発生し、個人と法人の税率差異により、所得税と法人税の総額の納税額は所得移転前より確実に少なくなります

ただし、会社に所得移転をしているため、不動産所有者の可処分所得(=自由に使えるお金)は少なくなります

同族経営の不動産管理会社に所得移転をしたので、経営者かつ株主の不動産所有者ならば、個人のお金と同じように会社のお金を使えそうですが、会社と個人は別人格なので、不動産所有者が会社のお金を使う時には会社からの貸付金の手続きをしないといけなく、支払利息などの税務上の追加論点が発生します

会社が建物を取得または建築後、短期間に株主が亡くなると相続税の株価の算定上不利になる

不動産所有者(個人)が土地を所有しており、その土地の上の建物を不動産所有者から同族経営の不動産管理会社に譲渡するという「会社所有方式」であることが、話の前提となります。

不動産所有者が死亡し、相続が発生した場合、不動産管理会社の株価を算定し、相続財産に含めることが必要になります

不動産管理会社の株価は会社規模によって計算方法が異なりますが、通常、不動産管理会社の株価は純資産価額方式で評価されることになります。

純資産評価方式の場合、株価は課税時期における各資産を財産評価基本通達に定めるところにより評価した価額になります。

財産評価基本通達では、建物に関しては固定資産税評価額をもとに評価するとしています。

ただし、会社が相続税の課税時期前3年以内に取得又は新築した建物の価額は、相続税課税時期における通常の取引価額に相当する金額(=時価)により評価することになります。

相続税課税時期における通常の取引価額に相当する金額(=時価)は実務上、建物に係る帳簿価額(取得価額―減価償却累計額)で評価することが多いです。

つまり、固定資産税評価額は相続税課税時期における通常の取引価額に相当する金額(=時価)のおよそ60%程度の金額になりますので、不動産管理会社が建物を取得または建築後、短期間に不動産所有者が亡くなると相続税の株価の算定上非常に不利になるということです。

1株当たりの純資産価額は、課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額(評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地並びに建物の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし、当該土地又は当該建物に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。)の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び評価差額に対する法人税額等に相当する金額により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする。

建物所有者が会社の場合、相続時に貸家建付地の評価減が受けられなくなる

不動産所有者が亡くなり、相続が発生した時に、不動産所有者が土地・賃貸建物の両方を所有している場合は「貸家建付地の評価減」の適用を受けることができ、土地の相続税評価額がおよそ20%評価減されます

一方で、会社所有方式を活用し、建物を会社が、土地を不動産所有者が保有している場合には、「貸家建付地の評価減」の適用を受けることができなくなります

ただし、実務上、会社所有方式で建物を会社が保有する場合は、会社と不動産所有者(地主)で土地賃貸借契約(借地権設定契約)を結び、「土地の無償返還に関する届出書」を提出していますので、不動産所有者の相続時に土地は20%の評価減を別途受けられることになります
その場合、土地の20%減額に相当する価額が、会社の株式の評価上、純資産価額の資産に計上され株価が上昇しますので、なるべく株式を不動産所有者(地主)の子供や孫の世代に移しておくことが重要になります。

借入金を活用した相続税を下げる手法が利用しづらい

一般的な相続税対策として、個人が銀行借入で不動産を取得して相続税評価額を減額するという手法があります。

土地・建物の相続税評価額は固定資産税評価額で評価されるため、土地で取得価額の80%程度、建物で取得価額の60%程度です。

一方、銀行借入は借入金額(土地・建物の取得価額と同等程度の場合が多い)で評価して、「債務控除」として相続財産からマイナスすることができます。

例えば、土地6,000万円、建物4,000万円の不動産を購入して1億円の借入れをした場合、
相続財産 土地6,000万円×80%+4,000万円×60%=7,200万円
債務控除 1億円
他の相続財産から控除できる金額 1億―7,200万円=2,800万円になります。

ところが、会社で不動産を購入した場合、会社の株主の相続税の課税時期前3年以内に取得した土地・建物の価額は、相続税課税時期における通常の取引価額に相当する金額(=時価)により評価することになります

相続税課税時期における通常の取引価額に相当する金額(=時価)は実務上、土地・建物に係る帳簿価額(土地は取得価額、建物は取得価額―減価償却累計額)で評価することが多いです。

つまり、会社の株式を100%所有することが前提ならば、最初の3年間の株価の評価は固定資産税評価額ではなく、通常の取得価額(時価)で評価されてしまいますので、相続がいつ起きるか分からない状況では借入金を活用した相続税を下げる手法が利用しづらいことになります。

この記事の要点整理
  • 法人税・所得税の節税対策だけを考えると同族経営の不動産管理会社を活用するメリットは大きいです。
  • ただし、実際に発生する追加費用、個人が使える可処分所得の減少、相続税対策を考えると同族経営の不動産管理会社を活用しない方が良い場合も考えらます
  • 税理士事務所等は仕事が増えるので基本的に不動産管理会社を活用することを勧めますので、追加費用、個人が使える可処分所得の減少、相続税対策などのデメリットは不動産所有者(個人)側で判断しましょう