不動産賃貸業を専門に税務相談を受けていると「将来の大規模修繕に備えて積立をしたいのだけど、積立金を毎年経費化して積み立てることはできないの?」とよく聞かれます。

個人事業主であれ、会社であれ、将来の大規模修繕に備えるための積立金を「現金又は預金」で積み立てた場合は、経費処理することはできません

しかし、「会社」の場合は「生命保険」を間に噛ませることにより、大規模修繕の積立金を毎年損金(経費)に計上することが可能になります

生命保険というとあまり良いイメージを持っていない方もいると思いますが、節税目的で活用するとかなり良い仕事をしてくれるツールになります。

そこで、今回は生命保険を活用して大規模修繕の積立金を毎年費用化する方法を考えていきましょう。

なお、残念ながら個人事業主として不動産賃貸業を営んでいる場合には、大規模修繕の積立金を毎年必要経費に計上する方法はありません。

ひと昔前と変わり、会社設立にかかる費用は安くなり、手続も非常に簡単になっていますので、利益が出ている個人事業主ならばこれを機会に会社化して生命保険を活用して大規模修繕積立金の損金(経費)化を考えてみても良いかもしれません




大規模修繕積立金を経費化するメリット

大規模修繕積立金を経費化するメリットには、以下の3つがあります。

  • 業績予想・将来計画が立てやすくなる
  • 大規模修繕費用を計画的にプールできる
  • 早めに経費化できるので、年度の納税額が減る
  • ついでに生命保険に入れる
  • 以下1つずつ見ていきましょう。

    業績予測・将来計画が立てやすくなる

    まずは、下の図表1を見てください。

    【図表1】

    年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
    益金(収益) 300万円 300万円 300万円 300万円 300万円
    損金(経費) 100万円 100万円 100万円 100万円 700万円
    利益 200万円 200万円 200万円 200万円 △400万円

    不動産賃貸業の益金(収益)は、空室率・家賃相場の影響を多少受けますが、基本的に毎年ほぼ同額が計上される傾向にあります。

    また、損金(経費)に関しても、借入金利子・減価償却費・租税公課等毎年同額が計上される傾向にあります。

    よって、利益の予想が立てやすく、通常赤字が計上されることはあまりないのですが、上図の第5期が大きく赤字になっています。
    そして、この原因は第5期に行った大規模修繕費用(600万円)の影響です。

    ただ、大規模修繕費用も事前に見積もれるので、本来なら積立金の形で毎年一定額を会社にプールして、年度で組み入れた積立金金額を毎年平準化して損金(経費)に計上できた方が分かり易くなります

    下の図表2を見てください。

    【図表2】(第5期の益金には保険解約収入+600万円、損金には長期修繕費+600万円を含む)

    年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
    益金(収益) 300万円 300万円 300万円 300万円 900万円
    損金(経費) 220万円 220万円 220万円 220万円 820万円
    利益 80万円 80万円 80万円 80万円 80万円

    生命保険を利用して、大規模修繕費用を毎年の損金(経費)にできれば、不動産賃貸業の毎年の本当の利益は80万円だということがわかります。

    不動産賃貸業の借入金が800万円だったとして、もしあなたが、「図表1と図表2のどちらかを一方を利用して回収期間を判断してください。」と言われたら、どちらが分かり易いでしょうか?

    当然、大規模修繕費用を毎期平準化した図表2の方が毎年80万円の利益が出ているので、800万円÷80万円=10年だと計算し易いですよね。

    大規模修繕費用を毎期平準化していない図表1の方で回収期間を計算することはかなり難しいです。

    特に今が第1期~第4期の場合は800万円÷200万円=4年と本来とは異なる非常に短い回収期間が計算されてしまうため注意が必要になります。

    大規模修繕費用を計画的にプールできる

    一年間の利益から税金を支払った金額が不動産賃貸業から生じた可処分所得になるのですが、もし、大規模修繕費用を「預金」でプールする場合、可処分所得の中から大規模修繕に必要な金額を毎年プールしていくことになります

    大規模修繕専用の預金口座を作り、可処分所得の一定額を毎年大規模修繕専用の預金口座に振り替えることになりますが、この作業は非常に難しいものになります。

    大規模修繕費用は「将来の」修繕のための費用であり、はっきり言えば見積りの範疇の話で明確な金額は決まっていません

    例えば、会社で使える経費が足りない、急に欲しい賃貸用物件が出たという場合には、大規模修繕費用を取り崩してでも、お金が必要だと感じる場合もあるでしょう。

    勿論、本当にお金が必要で大規模修繕費用を取り崩さなければならない場合もありますが、大抵の場合は他の費用捻出手段を取れば、資金を調達できてしまうことが多いです。

    ここで問題になるのは、大規模修繕費用が「将来」必要になるお金のプールなので、意思決定がブレれば、すぐに取り崩されてしまうという事実です。

    会計士・税理士として多くの他人の決算書を見てきた私の意見としては、最初の時点の大規模修繕費用の見積もりが一番正確なことが多く、お金が必要な状態で修正した大規模修繕費用の見積もりは精度が悪くなる印象です。

    その証拠として、いざ大規模修繕を行う段階で、修繕費用が足りなくなる事例を結構見てきています(最終的には人によりけりですが…)。

    大規模修繕費用を「預金」で積み立てる場合は自分の管理下にあり、「すぐに引き出せる」ことがネックになります

    しかし、大規模修繕費用を「生命保険料」で積み立てれば、保険会社の管理下でお金を預かってもらえて、「すぐに引き出す」には一定の手続きが必要になります。

    この一定の手続きが大規模修繕費用を取り崩す歯止めとなり、結果的に大規模修繕のための費用を計画的にプールできることに繋がります

    早めに経費化できるので、年度の納税額が減る

    図表1(大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合)と図表2(大規模修繕費用を生命保険で積み立てている場合)の利益・納税額をまとめたのが以下の図表3と図表4になりますので、納税額を見比べてください。

    なお、法人税率等の税率は30%として計算しています。

    【図表3】(大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合の利益と納税額)

    年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
    利益 200万円 200万円 200万円 200万円 △400万円
    納税額 60万円 60万円 60万円 60万円 0万円

    【図表4】(大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合の利益と納税額)

    年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
    利益 80万円 80万円 80万円 80万円 80万円
    納税額 24万円 24万円 24万円 24万円 24万円

    第1期~第4期に注目してください。
    大規模修繕費用を生命保険で積み立てていない場合(図表3)の納税額が60万円なのに対して、大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合の納税額は24万円です。

    大規模修繕費用を生命保険で積み立てた場合、実に毎年60万円-24万円=36万円も納税額が減ることが分かります。

    ついでに生命保険に入れる

    大規模修繕費用を「生命保険」で積み立てるプランなので、節税のついでに生命保険に入れることになります

    生命保険を個人で入っている方は最大でも4万円程度の控除しかないことを考えれば、会社で節税対策のついでに生命保険に入れればかなりお得になります

    「ついで」というと非常に言葉が悪いですが、「ちゃんと」生命保険に入れるので、大きなメリットになります。

    生命保険の契約主体

    大規模修繕のための生命保険契約の場合、会社を契約者(保険料負担者)、役員を被保険者、保険金受取人を会社とする生命保険契約を結ぶことになります。

    生命保険料の法人税法上の取り扱い

    節税対策だけで考えると、主に生命保険料の全額を損金(経費)に計上できる全損保険と生命保険料の半額を損金(経費)に計上できる半損保険があります。

    全損保険の場合、全額損金(経費)に計上できるので、保険料を支払った時の節税効果は高いのですが、半損保険に比べて、解約返戻金が少なくなります

    つまり、節税効果を重点的に望むのであれば、全損保険を活用し、節税効果をある程度望みつつ、なるべく支払った元本を毀損したくないのなら、半損保険を活用することになります。

    大規模修繕費の経費化のスキーム

    1. 大規模修繕を行う時期を決め、必要になる費用の金額を見積もる

      工事内容をなるべく詳細に決め、その工事に必要になる金額を見積ります。
      見積り金額は気持ち多めに設定しておけば、計画が多少変更になっても安心です。

    2. 大規模修繕の費用と同額の解約返戻金を貰える生命保険に加入する

      注意事項として解約返戻金=保険掛金総額ではありません
      解約返戻金÷保険掛金総額の利率を返戻率と言いますが、半損保険の場合95%程度、全損保険の場合85%程度になります。
      保険会社によっては、参考返戻率というものもありますが、必ず返戻率を参考に意思決定をしてください
      参考返戻率とは、税金の状況を考慮にいれた返戻率で、お金の流れとは一致せず、100%を大きく超え、意思決定上誤解が生じる可能性があります
      それよりも払った掛金の何割が戻ってくるかを明確に示した返戻率が意思決定の重要な要素になります。

    3. 生命保険料を支払う

      半損保険の場合は支払額の半額が損金(経費)になり、全損保険の場合は支払額の全額が損金(経費)になります。

    4. 大規模修繕実行時に生命保険を解約し解約返戻金を受け取る

      大規模修繕費用が損金(経費)に計上され、生命保険解約による解約返戻金が益金(収益)計上されるため損金と益金が相殺され利益が0になります。
      ただし、半損保険の場合は、保険金支払時に半額しか損金(経費)計上していないので、解約返戻金に占める益金(収益)も半分になります
      この場合は、大規模修繕費用の2倍を解約返戻金として受け取れる契約にしておけば利益が0になります

    大規模修繕積立金を経費化するデメリット

    大規模修繕積立金を経費化するには、当然デメリットもあります。

    必ず以下の3つのデメリットも確認してから大規模修繕積立金を経費化するかを考えて見てください。

  • 消費税には関係しない
  • 保険金掛金総額≠解約返戻金である
  • 大規模修繕を予定時期にやらないと解約返戻金が大幅に減少する
  • 消費税には関係しない

    保険金の支払額は消費税法上非課税になります。

    よって、大規模修繕積立金の生命保険料の支払時には、法人税の納税額を減らす効果はありますが、消費税については、大規模修繕費用積立金を保険料で確保するかどうかに関わらず、納税義務がある限り、同じ金額を支払うことになります

    そして、解約返戻金の受取りは消費税法上不課税になります。

    つまり、解約返戻金の受取時に消費税が多くなることもありませんので安心してください。

    消費税の節税対策にはならないだけで、納税額が増えるわけでもなく、大きなデメリットではないのですが、知らないと節税スキームを組んだのに消費税の納税額が高いままだと誤解してしまうので覚えておきましょう。

    保険金掛金総額≠解約返戻金である

    解約返戻金÷保険金総額で計算される返戻率は現状100%未満です。

    例えば、大規模修繕を10年後に行うとして生命保険契約(傷害死亡保険金1億)を組んだ時、現状、半損保険で返戻率95%程度、全損保険で85%程度です。

    払込んだ保険料総額の半損保険で5%、全損保険で15%が戻ってこないことになりますが、これは10年間保険に入る対価と考えられます

    半損保険の場合は1年間に6万円程度、全損保険の場合は1年間に18万円程度の手数料になります。

    保険契約の内容的には全く悪くない保険契約だと個人的には思いますが、すでに同じような保険に入っている人にとっては、余剰な保険となり、保険の整理が必要になる可能性があります

    大規模修繕を予定時期にやらないと解約返戻金が大幅に減少する

    保険契約の組み方次第ですが、通常、大規模修繕費用のために入る保険は定期保険であり、ある一定期間を過ぎると解約返戻金が1年ごとに劇的に減っていくことになります。

    大規模修繕が1年、2年程度遅くなってもそこまで解約返戻金が減額することはないですが、5年、10年遅くなると解約返戻金はだいぶ減ってしまう可能性がありますので、最初の計画時点できちんと大規模修繕の予定時期を組みましょう。。

    この記事の要点整理
    • 会社で不動産賃貸業を営む場合、大規模修繕の年度ごとの積立金は生命保険を活用することにより損金(経費)にすることができます
    • 生命保険は会社で節税対策を行う上で非常に有用なツールになりますが、当然メリット、デメリットがありますので、「事前に」確認することが大切です。